ある村娘の話
私の名前はリュキ・エルメールだ。
新しくできたエレリア村の娘だ。
年は17、髪は長い。特徴はそれぐらいだろうか?
エレリア村では、お父さんが村長だ。お父さん達が山を開拓して、そこに畑を作った。やがて、人が住めるような場所になって私達が移住してきた。
お父さんが帰って来ないから新しい村を作るって言うのは賛成じゃなかったんだけどね。
でも、今はそんな事を気にしてなんかいない。だってお父さん、楽しそうなんだもん。
それに、この村は自然でいっぱいだ。前にいた村も自然でいっぱいだったけど、エレリア村はもっと凄かった。
でっかい木に、可愛い動物もいっぱいだ。
美味しい木の実が成る木もあるし、楽しいことでいっぱいだ。毎日外に出かけるから、お母さんが小言をよく言う。
やれ「村長の娘らしくしろ」やれ「もっと嫁修行しろ」って。
私は誰にも嫁ぎたくないし、それに冒険するのが好きなんだ。
お母さんには悪いと思うけど、折角の人生なんだから。
私は私らしく生きたい。ワガママだとは思うけどね。
村には叔父さん叔母さんお父さんお母さん、私と従兄弟しかいない。まだ村って言っていいか分からないぐらいだけどね。
この前、行商人が来たりして作物とお金を交換していったりした。そのお金でこの村は成り立っているらしい。
難しい話はお父さんとお母さんに任せよう。
私は、村の近くにある山を登っていた。
山と行っても緩やかな物で、特別な事をしなくても登れる山だ。
私はそこで、大きな洞窟を見つけた。
綺麗に丸くくり抜かれた洞窟だ。
私はワクワクしながら、その先を覗き込んだ。
中はとても広かった。まるで、子供の頃に聞いたダンジョンのようだ。
私は恐る恐る洞窟へ入ろうとした。
ガシャン。
あっ、いけない。お母さんから貰った首飾りが落ちてしまった。
これはお母さん曰く、お守りだそうだ。私のお爺ちゃんは冒険者だったそうで、拾ったお宝らしい。お爺ちゃんが、お母さんにあげた物で、私がお母さんに貰った。
とても大事な物だ。
「危ない危ない、失くしたらお母さんに叱られちゃう……」
私は首飾りを拾おうと手にかけた。
その時だった。洞窟内で凍てつく様な威圧感が駆け抜けた。
私も無意識の内に冷や汗を流していた。
「あっ……」
洞窟の奥を見た。
そこには、巨大な白いドラゴンがいた。
「あ……あわわわ……」
あまりの驚きに私は足を滑らせ、尻餅をついた。
白い翼に、白い鱗、両目は赤く全体は純白だ。体長は私の二倍程で、それほど大きくはない。しかし、私を捻り潰すには充分な大きさだと思う。
恐怖心により麻痺した感覚で、ゆったりと見上げていた。
「あわ……ど、どど、ど」
呂律も回らない。まるで体が他人のもののようだ。
「ドラゴンだ……」
誰かに否定をして欲しい。だが、誰も否定する人はいないし、肯定の言葉もない。
逃げないとーーー
ようやく私は夢から覚めたように、逃げる事を思い出した。
「あっあいた!?」
急に駆け出そうとするものだから、足元を滑らせて転けてしまった。
振り返るのが怖くて、私はそこから逃げ出した。幸い、ドラゴンは追ってこなかったようで、村についた時安堵のあまりため息が出た。
私は村の皆にドラゴンがいた、と言ったが誰も信じてはくれなかった。それどころか、夢を見ていたと言われる有様だ。
夢と現実の区別ぐらい私にもつくよ、失礼な。
と、思ったものの、私自身あれが現実だったかどうかなんて分からないようになってしまいそうだ。
夜になり私は寝る準備をしていた。
その時ある事に気づいた。
母から貰った首飾りがないのだ。
どうしよう、どうしよう。
大事な物なのに……。
あの洞窟で落としたのだろうか。取りに行かないといけない。だけど、あそこにはドラゴンがいるし……。
私は、悶々としながら寝床についた。