白竜の身の上話
白い翼が宙を舞う。青い空を白い雲が飾り、その中を白い矢が走る。
太陽が照らし、大地に巨大な影を作る。
赤い二つの目が獲物を見つけ、矢は地に落ちてゆく。
哀れな獲物は私に気づく間も無く、生きたまま八つ裂きにされた。やがて命の灯火は消え去り、ただの肉塊となった。
私はその美味そうな肉を頬張り、喉へ流し込む。胃が満たされ、欲が満たされて行く。
私はドラゴン。
白きドラゴンだ。
澄んだ水辺で己の姿を見る。白い鱗に覆われた美しい四肢に、純白の蝙蝠の様な翼。残酷そうな牙の間に見える、燃えるような舌。そして、深淵を見透かすような真紅の瞳。
全てが私を司り、何を失くしても私ではない。
水辺で水を飲んでいると、鹿が恐る恐る水を飲みに来た。
私がその二つの瞳を鹿へ向けると、鹿は一目散に逃げ出して行く。
生憎私は満腹である。食べるつもりなど微塵もない。
今頃、命拾いをしたものだと思っているのだろう。
私は食物連鎖の頂点である。他の生物の生死は私の気分によって変わるのだと、幼い頃に気づいてしまった。
いつからだろうか。
他の生物を見ても「食物か、そうではないのか」としか見れなくなった。小動物を食うほど落ちぶれてはいない。だが、彼らは私を見ると一目散に逃げて行くのである。
私の心を理解しようとする者はいない。
それが悲しいと感じたことはない。
ただ、私と彼らは違うというだけだ。
空と大地は分かり合えない。お互いに平行線をたどるだけで、交わり会うことなどないのだ。
私は水で喉を潤し、寝床へ帰ろうとする。
私の気が休まるのはそこしかない。
私はドラゴンだ。
気高く。
美しく。
残酷な。
白いドラゴンだ。
◇
私は寝床へ帰り、寝返りを打つ。洞窟の中、石の上に寝転がり寝転がり打った。
私だけだ。
他の動物は同じ種族の仲間を持っていた。
私だけだ。
私だけ一匹でいる。他の動物と違い、番を持たず、子を持たず、親も持たない。
私が覚えているのは、この冷たい石の床だけだ。母の温もりなどではない。
毎日、食べては寝るだけの生活に嫌気が差した訳ではない。目的もなく、喜びもなく生きることに疑問を抱いているだけだ。
私は頂点であり、孤独でもあったのだ。
ガシャンーーー
なんの音だろうか?
私の巣に踏み込むような動物など存在しない。誰もがここを避けて過ごしていた。
私は上体を起こし、洞窟の入り口に向けて歩き出した。
やがて洞窟の外が見えるような位置に立った時、その小さな生き物を見つけた。
「あっ……」
これは確か、なんと言う生き物だっただろうか?
そう、私は覚えているはずだ。
そうだ、思い出した。
ニンゲン……という動物ではないだろうか?
「あ……あわわわ……」
ニンゲンは石の床に座り込み、私を見上げている。
なんと小さいのだろうか、なんと非力なのだろうか。
茶色い毛を頭に長く生やしている、メスだろう。綺麗な布地を体に巻きつけている。
聞いたことがある。
ニンゲンは体毛が薄く、綺麗な衣を着ていると。
「あわ……ど、どど、ど」
彼女が何を言っているかは分かる。ドラゴンには他の動物の全ての言語が分かるのだ。
「ドラゴンだ……」
そう。私はドラゴンだ。見れば分かるだろう。
少女は、立ち上がろうとして、また転けた。
「あっあいた!?」
その仕草がとても可愛らしく、私は見つめていた。少女は幸い怪我もなく立ち上がり、私の前から逃げて行った。
この近くに村でもできたのだろうか?
私はまた、寝床へ戻り眠りに落ちた。