表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
R E D - D I S K 0 1  作者: awa
CHAPTER 02 * STRAWBERRY AND RAIN
9/91

* Strawberry

 マスティがアゼルに訊く。「で? お前、戻ってくるの三月じゃなかった? なんで五月になってんの?」

 「職員の女とヤッてんのがバレて二ヶ月延びた」

 悪びれることなく言われたその言葉に、呆気にとられた私とインミ以外は天を仰いで笑った。

 「ちょっと待って」ニコラが身を乗り出す。「職員て、おばさんじゃないの?」

 「アホ。まだ二十二だ。研修。しかもバレたせいで即内定取り消し」

 それでまた彼らが笑う。

 なにを言っているのだろう。最低最悪のタラシだ。本当に中学三年なのか。というか犯罪ではないのか。

 ソファの背もたれの上に伸ばしていた右腕を曲げて手に頬を乗せ、アゼルは私に向かって微笑んだ。

 「処女捨てたくなったら俺に言えよ」

 絶句した。なにこいつ。なにこいつ。なにこいつ。なにこいつ。

 どうにか、私はやっとの思いで口を開いた。「遠慮します」

 私と同じく絶句したインミ以外は大笑いしている。

 「最短記録だ! 初対面三分で口説きやがった!」身をよじりながらマスティが叫ぶように言った。ものすごく笑っている。

 「三分以上経ってるだろ」テーブルのケーキを顎で示す。「食わねえならそれよこせ」

 「あ、とる」

 インミはソファをおりて床に膝をつき、誰が使ったかわからないフォークを使ってイチゴの乗ったケーキをペーパートレイに乗せ、アゼルに渡した。

 「ベラは? 食べる?」

 こんな奴にくれてやらなくてもいいと思う。「うん、お願い。イチゴないやつでいい」

 「お前ホントよく食うな」ブルが私に言った。「なんでそんな細いわけ?」

 「普段はこんなに食べない。でも食っても太らない」

 インミから皿を受け取った。ちなみに身体測定、私はアニタよりも三センチ高く、体重は少なかった。去年ほどの違いがないとはいえ、彼女はやはり不満らしかった。

 「俺と一緒」

 ケーキを食べながらアゼルが言った。フォークに突き刺したイチゴを半分食べると、彼は残り半分をこちらに向けた。

 「食うか? 誕生日プレゼント」

 「余分にイチゴ食べといてなに言ってんの」と、私。

 「だから半分やるっつってんだろ」

 「遠慮する」毒牙にかかりそうだ。

 「んじゃ俺とつきあうのとコレ食うのとどっちか選べ」

 「は? どっちもイヤ」

 彼はしかめっつらを彼らに向けた。「フラれた。はじめてフラれた」

 彼らはやはり笑っている。ブルにいたっては、脚をじたばたさせながら大笑いしている。

 「すげえ。ベラすげえ」

 意味がわからない。

 「気をつけろよ、ベラ」マスティがにやついて言う。「中三だと思って甘く見んな。これは正真正銘タラシだから」

 言われなくてもわかっている。「怖いんだけど」べつの意味で。

 「なにが怖いだ」

 アゼルは私の左脚に絡ませるよう、自分の右脚を乗せた。ぎょっとする私に向かって再びイチゴを突き出す。

 「さっきから失礼ぶっこきまくりやがって」

 ムカついた。「それはそっちも同じだし」

 そう答え、私は彼の差し出したイチゴを食べた。イチゴは好きだ。

 「よし、手なずけた」と、アゼル。

 いちいちムカつく。「手なずけられてないし。犬か」

 「お前はネコっぽい」

 ソファの上であぐらをかき、彼はまたケーキを食べはじめた。だがその右脚は、邪魔だと言うように私の脚にあたっている。

 「じゃああんたが犬」

 そう言いながら、こちらもケーキをフォークで切り分けて口に運んだ。

 「あ?」彼が不機嫌そうな表情をこちらに向ける。「犬はねえ。もうちょっとマシなのにしろ」

 ケーキがおいしい。「世界の動物が犬と猫だけになったらあんたは犬よ。っていうか男はぜんぶ犬よ」チョコレートケーキは大好きだ。

 「なんだそれ」

 「すげえ漫才」ブルは笑いながら立ち上がった。「ゲームの続きだ、リーズ」

 やはり笑っていた彼女も立ち上がる。「アゼルが帰って来てくれてよかった。負けがリセットされた」

 彼らは再びそれぞれの位置につき、ジュースだの煙草だのを賭けてゲームをはじめた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ケーキを食べ終わると、アゼルが“こうするとラクに座れる”などと言いい、コーナー部分にクッションをいくつか重ねて置いて、そこにふたりでもたれた。確かに座りやすかった。

 「更生施設ってわかる?」立てた左脚に腕を置き、アゼルが私に訊いた。

 懐かしい言葉だ。「更生するとこ」“させられないとこ”と言うほうが正しいか。

 「そのまんまだな。そうだけど」ゲーム画面に視線をうつす。「一月のあたまから入ってた。年明けすぐ。三月で出る予定だったけど、さっき言ったとおり延びた」

 「へー」

 「へーって。普通理由訊くところだろ」

 「興味ない。どうせロクな理由じゃない」

 「確かに。ヒト殴ったんだよ。知らない奴。センター街でモメて」

 羨ましい。「アホなのね」

 「そう。アホ」

 さらに眠くなってきた。気を抜くと、ソファに立てた両脚が落ちてしまいそうだ。私は質問を返した。

 「更生したの?」

 「したように見えるか?」

 「見えるもなにも、あんたのこと知らない」

 「一ヶ月で足りなかったから、今度は三ヶ月予定で入れられた。けどそんなとこに閉じ込められたって、人間はそんな簡単に変わらねえだろ」

 「変わらない。むしろ悪化する」物事が好転するところなど、見たことがない。

 「そ。悪化。ストレス溜まるからヒト殴ってんのに、よけいストレス溜まる」

 眠い。「気にしなきゃいい。誰がなにを言おうとしようと、私は気にしない」

 「お前と違って繊細なんだよ」

 「そうは思えない」まぶたが重くて、私は足を床におろした。「繊細なヒトはイチゴだけを取ったりしない」

 「繊細だからイチゴ食べるんだろ」

 「意味わかんない」座りなおして彼のほうに少し身体を傾け、コーナー部分に置いたクッションに頬を寄せて目を閉じた。「イチゴだけを食べる男なんて男じゃない」眠れる。

 「ケーキも食ったし、だからお前に半分やったんだろ」

 「それでも半分多く食べてる」

 「ケチケチしすぎ」

 私は笑った。「ごめん。寝る」

 「ベッド行けよ」

 「いい」

 リーズたちは騒いでいたけれど、私はすぐに眠りに落ちた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 夢をみた。

 誰かとキスをしていた。

 顔はわからず、見えたのは微笑む口元だけだった。

 声がして振り返ると、エイリアンと、ブロンドヘアの不自然な顔に真っ赤な口紅をつけたセーラー服姿の女が立っていた。私は手に持っていた銃でそれを撃って消した。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ふと目を開けると、私はいつのまにか茶色いブランケットにくるまっていた。

 視線の先でニコラが私に気づく。「あ、ベラが起きた」

 リーズが振り向いた。「おはよ」

 いつのまにか片づけられたテーブルで、彼らはトランプをしてるらしい。

 「おはよ」と、私。眠い。

 「じゃねえよ」頭上から声がした。「さっさと起きろ。重いんだよ」

 はっとした。瞬時に身体を起こす。いつのまにか、アゼルの膝枕状態になっていた。

 「ごめん」

 マスティが呆れ顔で言う。「よくそんな体勢で寝るな」

 「んー」私はソファに背をあずけた。「わりと寝る。授業中でも寝る」

 小学校三、四年の頃は、夜中のアレのせいでいつも睡眠不足だった。いつも眠かった。気づけば授業中に寝るなんてことを繰り返すようになっていた。

 ブルに言われ、私とアゼルもトランプに参加した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ