表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RED - DISK01  作者: awa
CHAPTER 14 * The Last Day Of First Grade At JHS
89/91

* Make Surprise

 一年と二年、そして教師達だけで行われる、修了式の日。

 「ああ、来た!」

 今日は、学校指定の冬のセーラー服姿で登校した。紙袋片手にプレーヤーの音楽を停め、ヘッドフォンを首にかけながら第一校舎東側の階段をあがっていくと、二階の一年フロアのホールに、携帯電話を握るアニタを含め、B組学級委員も含め、十人ほどの女子が束になって立ち、そわそわした様子でこちらを見ていた。彼女たちの何人かも携帯電話を持っている。

 私はホールに着いた。「なに」

 焦った様子のアニタがこちらに来る。

 「花束、どうすんの? 買ってきてくれた子たちから電話鳴ってんの。学校に持ち込んでバレてもいいのかって。今外に隠れて待ってもらってる。今はまだ先生たち、教室に来てないけど。持ち込みはできても、教室に置いてたらバレるじゃん! サプライズできないじゃん!」

 なにを焦っているのだろう。「そんなもん掃除用具ロッカーにでも放り込んどきゃいいんじゃないの?」

 「アホか! 臭うわ!」アニタは声をあげた。本気だ。「どこの誰が掃除用具ロッカーに入ってた花束を欲しいと思うんだ!」

 次の瞬間、彼女の後方に立つ女子たちがふきだして顔をそむけ、笑いをこらえた。

 あまりの勢いに、こちらもごめんなさいと、思わず心の中であやまった。

 修了式のあとはLHR。「じゃあ、とりあえずみんなで見張りながら、裏門からD組の隣の空き教室までそっこーで運んで。一階の職員室前昇降口さえ抜ければ大丈夫なはずだから。んで、どのクラスの花束かと、どっちがオルフ教諭に渡す花で、どっちがクラス担任に渡す花か──あと、それを渡す奴の席をメモして、わかるように置いといて。あとはこっちでどうにかする」

 女子たちのざわつきと共に、アニタが顔をしかめる。

 「できるの?」

 「やるっつったらやるのよ。さっさと行って。私は教師に見つからないうちに学校を出て、文房具屋かマーケットに行ってくるから」

 アニタは女子たちと視線を交わし、数人の女子と共に電話をしながら、D組のほうへと走っていった。

 カバンの中に放り込んでいた携帯電話の不在着信履歴に心の中で謝罪しながら、私はまた階段をおりた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 文房具屋に行き、紙袋のサイズを確認した。たいしたものがない。

 しかたなくキャッスル・ロード沿い、ニュー・キャッスル側にあるKマートへと向かった。アゼルに最初にキスされた公園の前にあるマーケットだ。そこでいちばん大きな紙袋を八枚買った。サプライズのつもりなら、紙袋くらい用意しとけばいいと思う。

 私が考えていたサプライズは、すべてオルフ教諭に渡す花束かと思えば、実はひとつは担任に渡す花束でした、というだけの話だ。他のクラスの担任からすれば、あらわたしにも? 的な。

 だが彼女たちは、さらにその上の段階を考えていた。担任にすら、その花束の存在に気づかせないつもりらしい。オルフ教諭以外、それほど生徒に好かれている教師などいないのに。なんとめんどくさい。

 というか、なぜ紙袋というものを思いつかないのだろう。文房具屋もマーケットもあるのだから、買えばいいと思う。

 それとも、そもそも花束を紙袋に入れるということが邪道なのか。はたまたそれとも、朝っぱらから花束を持ってマーケットに行くというのが恥ずかしいのか。

 私は平気で行くと思う。花束片手に平気で店員呼んで、これより大きな紙袋はないですよね? などと訊いていると思う。

 現実には花束を持っていなくても、店員に目を丸くして見られたけれど。終了式の日に朝っぱらからマーケットでサイズの大きな紙袋を大量に買う中学生なんて、普通に考えればおかしいのかもしれない。まあ、どうでもいい。

 マーケットを出てパーキングエリアにある時計台で時刻を確認すると、八時五十分を過ぎていた。すでにHRが終わり、これから体育館へというところだ。もう並びはじめているかもしれない。

 紙袋のひとつに七枚の紙袋をまとめ入れ、ひとまずマーケットの外にあるベンチに座って脚と腕をそれぞれに組んだ。

 さて、どうしよう。今から学校に戻ると、ちょうど終了式がはじまる頃なわけですが。

 ここはあれだよね。もう式は諦めだよね。どうでもいいし。だから、式の途中で空き教室に行って、紙袋に花束を入れて、各クラスに置いていく。それはいいのだけれど──あれ?

 ちょっと待て。学年の担任には各クラスから花を贈る。ひとつずつ。

 学年主任は?

 あれだけスケッチブック製作に協力してもらっておいて、クラスを受け持っていないからなにもないというのは──ちょっと、あれですか? いや、どうでもいいけれど。二年になったら、スケッチブック・花束連合が、気まずい気が、しないでもないような。

 けっきょくマーケットで紙袋を買い足し、ついでにお菓子も買って、オールド・キャッスルにある花屋で花束を買い、浮かない気持ちで学校に戻った。 



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 裏門から学校に入り、ヘッドフォンを首にかけながら第一校舎の階段をあがる。校舎内は静かだった。耳をすませば体育館のほうから、マイクを使っての教師の声が微かに聞こえるといった程度だ。放課後の雰囲気とは、なにかが違っている。

 D組の隣にある空き教室に入った。机の上に椅子が逆さに置かれ、それを教室後方から隙間なく詰め並べてられている。そのうちおろした先頭列のふたつの椅子には、ブルーやピンク、グリーンやイエローといったラッピングペーパーで包まれた花束がふたつずつ置いてあった。あるべき場所──前方にある教師用デスクの上にもふたつ、教卓の上にもふたつ。ブラックボードに、白チョークで“あとはよろしく!”という言葉がいくつか書かれていた。うるさいよ。

 灰色の教師用デスクの上にある──破り取られたノートの切れ端を使ってのメモによるとA組の──花束を脇にやり、紙袋の入った紙袋とスケッチブックの入った紙袋、学年主任への花束が入った紙袋を置いた。

 ヘッドフォンを首からはずしたところで、教室のドアが開いた。振り返るとマーニが立っていた。またお前か。

 「なんだ、幽霊かと思った」と、マーニ。

 「は? 幽霊?」

 「いや、式の途中のはずなのに、なんか教室のドアが開いたような音がしたから。なにかと思って」

 これは、幽霊を信じているということになるのか。「幽霊じゃなくて残念」

 私は前に向きなおってヘッドフォンをカバンにしまい、それを肩からはずして床に置いた。

 ドアを閉めた彼がこちらに来る。

 「なにやってんの。なにその大量の紙袋」

 「花束、担任に見つかりたくないんだって、みんな」紙袋を一枚取り出しながら言った。折り目がつかないよう、軽く二つ折りにして紙袋に入れたのだ。

 「は? で、お前はわざわざ式サボッてまで、なに? 紙袋買いに行ったの?」

 横長の白いクラフト紙袋を広げる。「そうよ」紙袋の底には、封用のゴールドカラーのシールがあった。ひとまずいらない。「しょうがないじゃん。みんなすごい焦ってんだもん」紙袋をデスクに置き、メモを取った。「掃除用具ロッカーに入れとけばっつったんだけど、怒られた」A組、ブルーのラッピングペーパーはオルフ教諭用、グリーンが担任用。「臭うわっつって」

 彼の表情は一瞬にして呆れに変わった。「そりゃ違うだろ」

 違うのか。「暇なら手伝ってくれない? 花束を潰さないように紙袋に入れるの」

 「お前はやっぱ変」言いながら歩き、彼はブルーのラッピングペーパーで包まれた豪華な花束を手に取ってこちらに差し出した。

 受け取る。「なんで?」あ、わりと入りそう。潰さないよう、散らさないよう、慎重に入れる。

 「普通、なんでオレがこの時間にここにいるのか訊くところ」

 「ああ、興味ない。どうせ寝坊とかで──入った! なにこのぴったりサイズ。さすが私」いや、たまたまだとは思いますが。

 マーニが中を覗きこむ。

 「ぴったりっていうか、ちょっと狭そうだけど。形崩れねえか、これ」

 「これ以上幅のあるのはなかったのよ。たぶん大丈夫。見えなきゃいいんだから。ちょっとくらい崩れても、振れば元に戻るでしょ」

 「適当だな」紙袋の脇にある、小ぶりなビニール袋に入った金色のシールを手に取った。「これは? シール使うの?」

 「使いたいところだけど、変だよね。隠すために金色シール使って、取り出す時にそれ破くって。変だよね」

 彼が笑う。

 「確かに変。でもそれじゃバレる。なんかで留めないと」

 確かにそうだ。紙袋をじっと見つめた。セロハンテープならあるけれど、変だ。剥がすのが面倒だ。が。

 私は彼に言った。「D組の教室。ブルドッグクリップ。教師用デスクの引き出しの一番上あたりに入ってるはずだから、パクッて──じゃない、借りてきて。大きいやつ」

 彼が顔をしかめる。「バレたらどうすんだ」

 「私がパクッたって言えばいいのよ。あとで返すし。九個ね。足りなきゃC組とかB組とかのも。早く行け」


 私はせっせと花束を紙袋に入れた。そのうちマーニが戻ってきて、クリップで封をしていった。白い無地の紙袋は、花束が入っているとは思えない、かなり残念な状態になった。

 そしてメモに従い、花束の入った各紙袋を各教室の指定された机の脇に置いていった。

 学年主任への花束は、“LHR後、一年を数人引き連れて廊下で学年主任に渡してください”とだけ書いたメモと一緒に、エデの机の脇に置いてきた。エデたちは教師達にも媚を売るタイプなので、オルフ教諭はもちろん、学年主任とだってよく話していた。私はそれを知っている。そして陰で学年主任のこと悪口をよく言っていることも、私は知っている。

 ついでに各教室のブラックボードに、“ミスター・教室、一年間お世話になりました”と大きく書いていった。それに対抗してか、マーニは“ミズ・教室、あばよ”と書いていった。

 マーニは微妙に寝坊し、とりあえず学校に来てみたものの、みんなすでに体育館に向かったあとだったので、式を諦めてひとまず、D組の教室で寝ようとしていたらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ