* Like Courage
「そういえばさっき、他の計画がどうとか言ってなかった? まだなんかあんの?」
作業を中断し、届いたピザを食べながらニコラが訊いた。彼女は二人掛けソファの前に、リーズと並んで座っている。私はリーズのななめ隣で、キッチン側ソファの前にアゼルと並んで腰をおろした。窓側ソファの前にはブルとマスティが、アゼルと同じで当然のように、ビール片手にピザを食べている。ちなみに私は泊まりの時以外、飲まないことにしている。勧められるからつきあいで飲むだけで、飲みたいわけではない。
「ああ、花見するの」私は半分ほどになったピザ片手に答えた。「バーデュア・パークで──何人だっけ。男女二十四、五人ずつくらいだったかな。五十人くらい。乱入があったらまだ増えるけど」
ブルが顔をしかめる。「まーたそんな楽しそうなことを」
実はわりと面倒だと思っている。「合コンまがいのじゃないよ。ピクニック的に」
私はピザを食べながら、花見の予定内容を簡単に説明した。
「一年は仲いいねー」リーズが遠い目をして言う。「うちらのとこなんか、絶対無理だわ」
「無理すぎる」ピザを取りながらニコラが同意した。「花見なんてダサいわで終了な気がする」
「花見なんてただの口実よ。みんな──男は女と、女は男と遊びたいだけだもん。きっかけが欲しいだけ。アドレス手に入れてもメールはほとんどしないらしいし、学校で話すようにはなっても、外で遊んだりはしないから。まだそれほど仲がいいってわけじゃない。ただ中学は体育祭もないし、課外授業で外に出ることはあっても、遠足ってのもないでしょ。二年の文化祭や修学旅行までにみんな、近づきたいんだと思う。奴らがキッカケを欲しがってるから、私はそれを作っただけ。それさえすれば、アニタとその他数名が引っ張ってくれる。私はひとりベンチで寝る」
彼らは笑った。
「ベラがいるだけで、同期の子は楽しいだろうね」口元をゆるめてリーズが言う。「なんだかんだで、チャンスを作ってくれるわけっしょ。みんなやっぱ、言えないんだろうなとは思う。何十人を巻き込んで、なんてこと、できねーもん。少人数でも好きだったらよけい、誘いたくても誘えないし──ツレとしてでも、他の同期の目があるし。あ、このメンツはともかくね」身振りで男たちを示しながら補足し、続けた。「でもベラはそういうの、マジで気にしないもん。もちろんそれを引っ張るアニタもすごいけど、ベラは度胸ありすぎ」
「ただの自己中なんですけど」
「それでもだよ」ニコラが応じた。「制服だってさ、うちらがブルたちとつるんでるってのは、三年のほとんどが知ってるから、目つけられても平気だとは思ったんだけど。どうやったらひとりあの姿で学校に来ようと思えるのか、本気で教えてほしい」
苦笑うマスティが口をはさむ。「あれは堂々としすぎてて、三年の奴らもさすがにヒいてたな。なんか一年に変な女がいるんだけど! みたいな」
「失礼だな」私はニコラへと視線を戻す。「どうやったらって、特になにも考えてないよ。怒られたらセーラーに戻すって、おばあちゃんとは約束したし。怒られたら怒られた時でしょ。“明日からはちゃんとセーラーに戻します”で終了だと思って。二年や三年に目つけられることも、べつに怖くない。最初から気にもしてないけど。呼び出すなら呼び出せばいいし、リンチしたければすればいいし、陰口言うなら言えばいい。どうなるかなんて考えてない。そういうことじたい、アホらしいことだと思ってる。もちろんムカついたら、それ相応の仕返しはするんだろうけど」
ニコラとリーズは呆気にとられていた。
「お前、マジで怖い」ピザを片手にブルが言う。「なにが怖いって、そういうことをイキがって言う奴はよくいるけど、お前の場合、本気でそう思ってるのがわかるうえに、本気で仕返しするんだろうからマジで怖い」
「しかも相応どころか、倍で返ってくる気がする」マスティがつけたした。「実際倍にして返された奴、何人かいるわけだし」
誰のことを言っているのだろう。
ブルがリーズとニコラに言う。「お前らにはどうやったってなれねえ。っていうかたぶん、誰にもなれねえ。男ならともかく、並の女には無理だわ。諦めろ」
彼女たちは我に返った。
ニコラは顔をしかめる。「やっぱ無理なの? ここまでの度胸とは言わないけど、せめて一クラスを片手で動かせるくらいの度胸は欲しいんだけど」
「片手じゃねえ」ピザを食べながらアゼルが訂正した。「口ひとつだ。あえて言うなら指一本」
ブルとマスティは笑った。
「確かにそうだ」マスティが同意する。「しかも一クラスどころか、学年動かしてるし」
だからそれはと、言い訳する暇はなかった。
「サビナはもちろん、エデにだって無理だろうな、こんなの」リーズが苦笑いながらニコラへと視線をうつす。「うちらはどっちかっていえば、アニタ側だね。出来ると思ってないから、口に出せない。空振りが怖いから。でも言われれば、喜んで引き受けるよね。去年の文化祭もそうだった」
「ああ」彼女は肩を落とした。「確かにそうだ。舞台か教室かも、アンケートだったもんね。うたって踊るとかってのもアンケートで、誰もはっきり言わなくて、繰り返しで。何人かの女子との話し合いで、前に出るってのが決まっただけで。うちらがやりたいって言いだしたわけじゃない」
知らなかった。てっきり真っ先に前に出たのかと。
「それはそれでいいんじゃないの?」と、私。「さっきも言ったけど、私は言いだしはするけど、先頭に立って目立ったりはしたくないのよ。たとえば舞台でなにかするってなって、案を求められて考えて、その舞台設定を作り上げたとしても、二人みたいに前に出てうたうってのはしたくない。アニタたちがいるから私の発想は成り立ってるけど、そうじゃなきゃ、ただのつぶやきで終わってる。さっきので言えば──エデみたいなのは特に、私に指一本で使われてる気がするわけでしょ。さすがにイヤだと思う。立場が逆なら、私は絶対にそいつを嫌ってる」
リーズが苦笑う。
「そこはやっぱ、アニタのすごいとこかもね。うちらはアニタ側だから、イヤじゃないけど。エデたちと立場を逆にして考えたら、確かにイヤかも。けどもね」強気に口元をゆるめ、身体をこちらに傾ける。「ベラのいいところは、そんななのに、威張んないとこだよ。普通、指一本でヒトを使うようなことを考えだしたら、みんな威張りたがる。考えたのは、リーダーは私よ! みたいな。でも、ベラはそうしない。だからアニタもみんなも、ついてくるんだよ」
思わず口元をゆるめ、安堵した。そう言われると、救われる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「んじゃ、話戻すけど」ブルが身を乗り出す。「その花見にオレらが乱入するのはアリ?」
きたよ。「酒はないわよ」
「真昼間から外で飲む気はねえよ」と、マスティ。
そういう問題ではない。「ナンネとジョンアも来るのよ。エルミも来るし、誘ってはないけど、ハヌルも偶然を装って来るかもしれない。もちろん、あんたたちが来るかもってのは言ってあるけど」
マスティが小首をかしげる。
「言ったの? アゼルもブルも来るかもって? んで、ジョンアもエルミも来るって?」
「うん。もちろんジョンアには、どっちにも、話せとか近づけとかあやまれとか言うつもりはないって、ちゃんと言ってある。けど、私がいいなら行きたいって。私はかまわないって答えた。エルミには、もしブルに会ったとして、泣きそうになっても、それをみんなに気づかせて同情引くようなことはするなって言ってある。泣くならひとりで隠れて泣いて、平気な顔して戻って来いって。雰囲気ぶち壊しにするようなことしたらキレるって、できるとは思ってないけど、来るならそれくらいの覚悟で来いって、きっぱり言った」脅しのつもりだったのに通用しなかった。舌打ちものだ。
マスティとブルは笑い、リーズとニコラは苦笑った。
「やっぱ欲しいわ、この強さ」ニコラが言う。「清々しい」
「エルミがどんな顔をするか見てみたいってのが、正直なところなわけだけど」と、ブル。
リーズも便乗した。「あ、それは見たい」
ニコラもこちらに身を乗り出す。「うちらも覗きに行ってもいい?」
「どうぞ、お好きに」すっかり見世物だ。ざまあみろ。
「お前はどうすんの?」マスティがアゼルに訊いた。「っていうか喋れ」
アゼルは黙々とピザを食べ、ビールを飲んでいる。時々笑ってはいるものの、指一本発言以外、ろくに喋っていない。
「いや、この女が最強すぎて、もうどうしていいかわかんねえなと」ビール片手にアゼルが言う。「どこに行くんだろと思って」
強くないと、何度言えばわかるのだろう。「どこって、おばーちゃん家に帰るのよ」
彼は無視した。「ついでに言えば、お前らはいつになったら帰るんだろうなと思って」
リーズがはっとして背筋を伸ばす。「そーだ。こんな喋ってる時間ないよね。さっさと食べて続きしないと」
「とりあえず、行くのか行かないのか決めろよ」と、マスティ。
「っていうか、いつ?」ブルが私に訊いた。「聞いてねえ」
「来週の月曜。お昼十一時から開幕。バーデュア・パークに現地集合。天気予報はチェック済み。快晴で、しかも桜も満開だよねっていう」
天気予報はアニタ情報。桜満開はジョンア情報。そして私とアニタは晴れ女。
「わりと寝れるな」マスティが言った。もう一度アゼルに訊く。「で、どうなの」
「どっちでも。昼飯かっぱらいに行くのはいいかも」アゼルが私に訊く。「ばーちゃんが作ってくれんだろ? カツサンドとかたまごサンドとか」
そこですか? 「うん。午前中の仕事休んで、ブレッドメニューを中心にわりと作ってくれるって。あまったら持って帰って、夕食にするって」
「んじゃ行く」彼はピザを食べた。「心配しなくてもあまりはしねえ。むしろ俺らが食ったら、他の奴らが食う暇ないくらいの勢いでなくなる」
彼らは祖母の作る料理がお気に入り。
「来るならお菓子とジュース持ってきなさいよ。適当でいいから。三人なら六人分。女が自分プラス男のランチを、男が自分プラス女のお菓子をってのが条件だから。ペーパーカップは用意するし、適当に分けるから、なんでもかまわないけど」
「うちらは?」リーズが訊いた。「手作りのほうがいい?」
正直少し興味がありますが。「どっちでも。コンビニのでもいいの。二人だから四人分。家の料理に自信があったり、なくても好きな男がいる子は手作りするって張り切ってたけど」ナンネとか。「無理しなくていい。テーブルかシートに適当に広げて、オードブルみたいにして食べるつもり。ペーパープレートも用意するから。おいしそうに見えないと、取ってもらえないってのはあるよね。だからわりと怖いと思う」
彼女は苦笑った。「確かに怖いな」ニコラに言う。「土曜、朝から試してみようか。で、カレシに食べさせる」
「毒見かよ」マスティが呆れ顔でつっこんだ。「毒見させる相手間違ってるから」
ニコラは無視した。「やってみようか。酷かったら、そこに持って行くことすら断念しなきゃいけないけど」
アゼルが彼らに言う。「んじゃ、お前らは女に作らせれば? ついでに連れてくればいいじゃん。んで、こいつらの作った飯とどっちがうまいかってのを──」
彼らは声を揃えた。「絶対イヤ」




