* Making Of Sketchbook
翌日。
アニタやゲルトたちに協力してもらい、インスタントカメラを持って一年A組から順に、写真を撮ってまわった。好きな場所──ほとんどは教室や廊下で、二人組か三人組か四人組になってもらい、アップになりすぎないよう、けれども顔がわかりにくくもならないよう、それなりの距離をとって。チャンスは一組につき二回のみ。フィルムがもったいないので。なにをするつもりなのかと訊かれると、写真を現像してから話すと答えた。
エデたち三人の写真を撮る役は、カーツァーとタスカが引き受けてくれた。彼女たちは私たちが写真を撮ってまわっていることは知っているだろうものの、さすがに私やアニタにカメラを向けられるのは気に入らないだろうと思ったからだ。写真を撮らせてくれと言うと、エデたちはやはり不満そうな顔をしたので、他言無用と言い添え、カーツァーとタスカは事情を説明したという。オルフ教諭に懐いていた彼女たちは、それならと了承した。
私やアニタは、べつにいらないけどと言いたかったのだけれど。
二日かけて一年全員の写真を撮り終えたものの、それだけでインスタントカメラを四本使った。
しかたがないのでもう一本を買い足すと今度は、同期の数人が教室でオルフ教諭を引き止めてくれているあいだに、私とアニタで職員室へと乗り込んだ。教師たちにある程度まとまってもらうと、さっさと写真を撮らせてもらった。
けれども校長先生には会いたくないので、学年主任に事情を話して協力してもらった。外見からして頼りないこともあり、生徒に頼られることの少ない学年主任は、嬉しいのか、快く引き受けてくれた。インスタントカメラを預けると、私たちは一度職員室を出た。主任は事情を伝え、校長と教頭と副教頭、三人組の写真を撮ってくれたという。腕に自信はないけどと。期待はしていない。撮影は主任だと書き添えるつもりだ。
カメラの残り枚数で学校の写真を外から中からと数枚、撮ってまわり、さらに残りでB組の写真を主に、他のクラスの人間も一緒になった写真も撮った。
そして最後の一枚は、リーズとニコラ、マスティとブル、卒業アルバムと同じようにエイリアンの仮面をかぶったアゼルの写真を撮るのに使った。この日、カメラを少しでも早く現像に出したい私は、その一枚の写真を撮るとさっさとマブをあとにした。
ちなみに、“寂しすぎてヤケになってるらしいな”とマスティに言われた。ゲルトのアホに蹴りを入れてやろうかと思った。
金曜はひとり、頭の中を整理することに集中していた。スケッチブックはもちろん、花見のことがあるのだ。
D組で言ったうちのなにを実行していいのか、なにを取り消し、変更すべきなのか。誘うとすれば誰なのか、誰がどの部活やスポーツをやっていて、遊び道具を持っていそうか。ランチを持ってきてもらうとして、その量と、男たちに頼むお菓子やジュースの値段設定。それらを冷静に考えなければなかなかった。
そしてもちろん、スケッチブック。表紙と裏表紙のことは学級委員に頼んだ。まだ準備はできてないけれど、火曜に渡すからと。どんなものになっても構わないから、ある程度の構造を考えておいて、と。できれば一冊に収めたい一心で、撮った写真の枚数をなんとなく思い出しながら、中身の構造を決めた。渡す状況も数パターン。
写真を撮りに行った木曜以外、平日はマブには行かなかった。考えることがありすぎて、頭の中が混乱しているのだ。週末は泊まりに行ったものの、私が心此処に在らず状態だったせいで、アゼルからはものすごく冷たい態度とられた。
翌週月曜の放課後は、現像した写真を受け取りにコンビニに行き、アニタの家で写真を種類分け、さらにクラス分け、さらには男女分けにまでした。二枚ずつ撮ったおかげで、みんなどうにか、半目写真はまぬがれた。教師の中には少々、危ないのがいたものの、それは気にしないことにして。
アニタママと姉のタニアに協力してもらい、PCを使って、学校の写真を数枚と、適当に撮った一年生の写真数枚、学校名や地図、アルバムタイトルをいくつかの種類の文字で作ったものを、少し大きめかつ薄めにコピー、プリントアウトした。これは表紙と裏表紙で使う。
ひとりでお金を使いすぎだと思うとアニタに言われた。気にするなと答えた。
普段はそれほど使わないものの、私はなにかをしようとすると、限度がわからなくなる。出し惜しみしない。それに、この計画のことを話すと、祖母もお小遣いを奮発してくれた。問題はない。
一方で、花見の計画も完了させた。といっても大まかな内容は先週、私が言ったとおりで、誰を誘うか、誰にどの遊び道具を頼むかを具体的に決め、メールで了承を得ただけだ。あとは先週の金曜に私が考えたとおりのランチの量や値段設定の確認。それをまた、アニタママと姉のタニアに協力してもらい、ルール的招待状としてプリントアウトした。
こんなことをしているので、花見の日付は変えないことにした。誘われてもいないのに偶然を装ってでも来たいと思ったなら、勝手に来ればいい。ただし、持ってくるものは持ってきてもらわないと困るけど。
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翌日火曜。
表紙コラージュ用のプリントアウトした用紙たちとスケッチブック、ついでに文房具屋で使えるかと思って買ってきた柄テープ数種類を朝、美術が得意らしいクラスメイトの学級委員に渡し、表紙と裏表紙を頼んだ。
ちなみにこの学級委員、入学式前のクラス発表の日にハヌルと一緒にいて、私とアニタが存在を完全に無視していた女だ。普段はまったくと言っていいほど話さない。薄いフレームの丸い眼鏡をかけた、勉強のできる真面目な彼女は、休憩時間と昼休みを使い、ハヌルを含む他の友達数人と一緒に表紙と裏表紙を完成させ、六時限目がはじまる前にスケッチブックを返してくれた。
ハヌルはあんな顔をしているのに、絵はそれなりに得意なのだ。ただし、少女マンガ風に真面目な絵を描くと、ものすごくボーイズラブ路線の絵になる。それだけでもものすごく不気味なのに、実際そういった路線のマンガも好きで、ものすごく吐き気をもよおす。
私とアニタは、スケッチブックの表紙と裏表紙が完成するのを待つあいだに、花見に誘う人間にルール的招待状を配りつつ、声をかけていった。暇人なのか噂が先走っていたからか、みんな即オーケーだった。
ほとんどは、好きな相手がいるかどうかというのではない。当然のように好き嫌いはあるだろうものの、いくつかのグループで誘っているので、よほど険悪でなければ問題はない。なにより今、学年でいちばん険悪な雰囲気を漂わせているのは、エデたち三人と私で、それに比べれば他の連中の好き嫌いなど、たいしたことではない。
今週に入ってから、私は本気で時間がないと感じていた。修了式は金曜日だ。正直、花見どころの騒ぎではない。内心、かなり焦っている。そんなタイプではないのに。
自分で考えだしたことなうえ、すでに一年全員を──それどころか、教師たちまで巻き込んでいる。あとには引けない。投げ出したくてもだ。
時間のことを考えるたび、発狂しそうになった。ゲルトとガルセスになだめられるたび、泣きそうになった。
けっきょくそんな自分がイヤで、イライラした。言うならなぜもっと早く言わないのだと、生徒指導主事を恨みさえした。おとなしく色紙への寄せ書き程度にしておけばいいものを、写真に寄せ書きをしたアルバム的なものなどという、とんでもなく時間のかかるものにしたのは自分なのに、さすが私だ。逆恨みの天才だ。
放課後はB組の教室で、アニタと一緒にB組の学級委員やハヌルを含む何人かに全体の構造を説明し、打ち合わせた。
一ページ目を目次にし、二ページから四ページに学校写真を、五ページから九ページに教師たちの写真を貼っていき、学校のどの部分か、どんな教室があるか、そして教師たちの名前と受け持ち等、私が買った用意したペンを使って書いていった。わからない教師のぶんは学年主任を呼びつけて訊いた。主任はこの上なく楽しそうだった。
次のページからは私たち一年のページがはじまる。A組から順にしようかとも思ったけれど、B組の担任なのだからと、B組を最初に持ってくることにした。そのほうが他のクラスにまわす際、参考にもなる。
この時点で二十ページあまっているので、器用に五ページに分けなければならない。何人組かになってもらって撮ったB組の写真を、人物を中心に切り取りながら、おおよその振り分けを決めた。
アニタを中心に話を進めていたものの、私はイライラを抑えるのに必死だった。思いつきはするものの、言いだしも実行もするものの、こういう作業は好きではないのだ。集団行動がキライだし、先頭に立つことがキライだし、頼りにされることも、キライな人間や苦手な人間と話すことも好きではない。
責任をとりたくないということではない。とにかく、集団のリーダーとして目立つことがキライだ。だからこそ、この説明は重要だった。この状況を乗り越え、完璧に考えを伝えさえすれば、それ以降、私は完全に陰に引っ込むことになる。あとはアニタと彼女たちの役目だ。
そしてその作業中、唯一の男であるゲルトとガルセスは、作業には口出しはしなかったものの、私のイライラを抑えるためにつきあってくれていた。というか、万が一発狂した時に備えていてくれた。後悔に襲われて泣きそうになる私をなだめ、イライラする私の愚痴の相手をしてくれた。私に代わってみんなを引っ張らなければならないアニタを含め、彼らはそういう、私のアホっぽいところにも慣れている。
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水曜日。
私のイライラが目に見えているからか、アニタや学級委員たちやゲルトたちがクラスメイトの何人かに声をかけてくれていたこともあり、B組はとても協力的だった。朝は少し早めに登校し、私が用意したペンのセットを使いつつ、自分たちのものも使いつつ、オルフ担任にはバレないよう、そういうタイプではない連中も乗り気な連中も、さっさと写真を選び、ボンドを使ってスケッチブックに貼り、自分たちの名前と、一緒に写真に写った相方がどんな生徒だったか、そして担任であるオルフ教諭との思い出やメッセージに加え、関係ない言葉などを書き込んでいった。
ちなみに、死にそうな私は女子数人と一緒に写真を撮っていて、なのにゲルトとガルセスとも一緒に写真を撮った。彼女たちも彼らも、私のことをおもしろおかしく書いてくれた。ゲルトとガルセスは、“お前のことは書かなくても一生忘れられない存在だろうな”と言いながら。ゲルトも実は、あまり写真が好きではないのだけれど。
カメラのあまりで撮った適当な写真も貼り、言葉を添えて──学年主任が授業時間を削って十五分の猶予をくれたこともあり、昼休みの途中には、一年B組での作業を終えた。
次はA組で、アニタも含め、やはり口添えがあったらしく、すでに作業を終えているB組のページが見本になったこともあり、私が作ってくればよかったとぼやいていたからか、学級委員がわざわざ、家で簡単なルール的説明書を作ってきてくれていたこともあったりで、作業は予想以上にサクサク進んだ。帰宅部で乗り気な奴を中心に放課後、少し残ってまで完成させてくれた。ペンのセットとボンドは誰かにあげた。
ルール的説明書ではまず、B組の担任であるオルフ教諭が今学期でこの学校を去ることと、オルフ教諭への思い出に、こういったメッセージ交じりのアルバムを作っていることを説明している。
次に方法として、二枚ある自分たちの写真から好きなほうを一枚選び、それを周りをカットして切り取り、バランスを考えながらボンドで貼っていくこと。そこに名前と、一緒に写真に写った相手の紹介と、あれば印象に残っている言葉ややりとり等を書くこと。あまりで撮った写真は好きに使ってくれて構わないし、二枚のうちの使わなかった写真は、もらってくれて構わないということを。
そしてルールとして、目次や学校写真や教師たちのページには書き込みをしてもいいけれど、冗談にならないレベルの悪口を書き込んだり、すでに書かれた文字を邪魔するようなことはしないこと。表紙の内側と裏表紙の内側には一切書き込みをしないこと。自分のクラスならかまわないけれど、他のクラスのページには手を出さないことという、私が決めたルールを書いている。
地味な仕切りたがり屋の素晴らしさに感謝した。私は完全に陰だった。それでいいのだ。目立つのはごめんだ。
そして、私はこの日もマブに行かなかった。もうヘトヘトだった。




