* Small Determination
放課後、一年A組の教室で、ナンネとジョンアに花見の話をした。二人は行きたいと即答した。
「ただ、もしかしたら、アゼルたちが来るって言うかもしれないのよ」教師用の灰色デスクに腰かけた私は、窓際から二列目の最前列にいるジョンアに言った。「正確には、アゼル的にはどうでもいいけど、マスティとブルがってこと。あいつらが来ると、アゼルが来る可能性は高くなる」
「うん、それはわかる」ジョンアが答えた。「私なら平気。もちろん、ベラがいいならだけど」
「私はかまわない。そこは任せる。まだ話してないし、呼ぶつもりはないんだけどね。だけど拒否しても、乱入してくる可能性はある。ブルとマスティは特に、ゲルトとガルが仲良くなっちゃってるから。まあ、追い返すことはできるけど。もしかしたらそういう可能性がってこと」
今までも、会うことはあった。私とジョンアが校舎の外を一緒に歩くということはあまりなかったものの、私とアゼルが校舎の外にいると、ジョンアとナンネが通りかかるということはあった。この小さな学校では、会わないなどというほうが無理なのだ。
ジョンアがあの一件と私たちのことを、どう結びつけているかはわからない。やりなおしたことをすぐに彼女たちに報告したというわけではないものの、あの一件がやりなおすことにことなったキッカケであることはおそらく明白で、これはリーズと二コラの意見だけれど、別の一面から見れば、私がこれ以上アゼルにバカをさせないためにというふうにも見えるらしい。もちろん私に気持ちがあってのことだというのはわかっているけれど、私とつきあうようになって、アゼルがおとなしくなったのは事実で、別れているあいだにバカをやったわけだから、そういうふうにも見えると。私はドアストッパーかとつっこんだ。
「悪いのは私だから」ジョンアが言う。「乱入じゃなくて、普通に来るってなって、むこうが私に会いたくないって言うなら、私は行かないけど」
「や、それはない」私は即答した。「そんなことは言わないし、言わせない。どっちにも、話せとも近づけともあやまれとも言わないけど。これは、あいつらのためじゃないから。あくまで一年の打ち上げを兼ねた花見なの。二学期の打ち上げ以上のね。来れるなら来ていい。あんたが遠慮するところじゃないから」
彼女は控えめな笑顔を見せる。「うん、わかった。行く」
「んで、ハヌルには言った?」最前列の窓際、ジョンアの隣で机に深く腰かけたナンネが私に訊いた。
「ああ、私がバカみたいにD組の連中の前でおおっぴらに言っちゃったもんだから、話は伝わったらしい。花見するのって訊いてきた。だからそこにも、アゼルがくるかもしれないって言っておいた。ものすごく微妙な顔だよね。行きたいのに恐怖が、みたいな」
私が苦笑うように言うと、彼女たちも苦笑った。
「まあ、原因はあれだから」と、ナンネ。「あたしたちの前でも、アゼル先輩の名前を出すってことはあんまり、しなくなったかな。ジョンアがどうなったかはしっかり話したし、ベラが蹴り入れたってのも相当効いてる。嫌われてるって実感してくれてればいいんだけど」
だけど。「バカだからわかってない可能性はあるよね」
突然、教室のドアが開いた。制服姿のエルミだ。
「ああ、いた」
「どしたの」私は彼女に言った。「あんた今日、休んでたんでしょ? もう学校終わったわよ。とうとうボケたの?」
エルミはドアを閉めてこちらに歩いてくる。
「や、電話でもよかったんだけど、三年いないしなと思って。ナンネにも会いたかったし」
ナンネは片眉を上げた。「なに?」
「いや、あやまろうと思って」ジョンアの隣の席に腰かけ、握り合わせた両手を見つめた。「考えたら、ベラの言うとおりだった。ジョンアが気まずいってのはわかってたんだけど、そういやナンネも気まずいよね。しかもホント、泣きまくったし。ごめん」
私とナンネは顔を見合わせた。ナンネはまたエルミへと視線を戻す。
「いや、今さらだし。もういいけど」
「大丈夫?」ジョンアが訊いた。「なんか、別れたって」
うつむいたまま両手の平で額を撫で上げながらエルミが苦笑う。
「うん、散々泣いたから、わりとすっきりした。どうせたぶん、オル・キャスをうろついてなきゃ、そう会うこともないんだろうし。会ってもまえみたいに、また何事もなかったかのように、なんだろうし」苦笑の表情をこちらに向ける。「考えたら、一回やりなおせただけでも奇跡だよね」
いえ、奇跡は言いすぎです。遊ばれただけだもの。「ま、そうかもね」そういうことにしておいてさしあげる。
「で、だよ」脚の両側で机に手をついて身を乗り出し、エルミは弱々しくも口元をゆるめた。「花見するって?」
そこ!? 「え、それが目的?」
また苦笑う。「うん、なんか、D組の子からメール来て。騒がないとやってらんないし、みたいな」
笑えるが、笑えない。「春休み入ってからだし、とりあえずを決めただけなのよ。っていうか、ブルが乱入してくる可能性もある」一応言っておく。「予定では、オールド・キャッスルのヴァーデュア・パークだから」
「え」エルミは目を丸くした。視線をゆっくりとジョンアへうつす。「じゃあ、行かないの?」
彼女は控えめに苦笑った。
「ううん、ベラがいいって言ってくれてるから、行く。ナンネも。アゼル先輩がくるかもしれないっていうのも聞いた。けど、私は大丈夫って」
「──ええと」エルミがこちらに視線を戻す。「え、どうしたらいいんだろう」
私が知るわけない。「言っとくけど、花見に来るのはかまわないけど、もしブルが来たとして、無視されたりそっけなくされたからって泣きだしたら、私は怒るわよ。学年全員とまではいかないけど、それなりにヒト呼ぶつもりだし、ノリは遠足なのよ」遠足はキライです。「雰囲気ぶち壊したらキレる。誰かを巻き込むのもダメ。泣きそうになったら、ひとりさりげなくその場から離れて、人知れず泣いて。そんですっきりして、平気な顔で戻って。実際あんたが完璧にできるとは思ってないけど、来るならそのくらいの覚悟でいて」
エルミは唇をかたく結んで身構えていた。
「──わかった。覚悟しとく」
学校を出るとエルミと別れ、私は学校の前にある小さな文房具屋に立ち寄った。ナンネとジョンアがつきあってくれて、スケッチブックをとりあえず二冊と、数色のペンがセットになったものをとりあえず四セット、ボンドもとりあえず四つ買った。
その足でマーケットに寄り、インスタントカメラをひとまず四つ購入。あまれば誰かにあげればいい。アニタとか。




