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RED - DISK01  作者: awa
CHAPTER 13 * CAUSING AND DECIDING
81/91

* Fidget Mode

 アゼルたちが卒業した翌週、月曜日の朝。

 オリジナル制服で学校に行くと、ヘッドフォンを首に、カバンを肩にかけたまま、すでにB組の教室にいたゲルトとガルセスと一緒に、一年D組の教室へと向かった。

 背後にアゼルの気配を感じつつ──私はなにを思ったか、ドアからは入らず、廊下に面した腰窓のひとつを勢いよく開け、両側の窓枠を手で掴み、身体を支えてサッシにのぼった。腰窓なので、しかたなくしゃがんでみる。

 「いや、なにやってんの?」

 廊下側から二列目の席の脇に立ち、呆気にとられた他の生徒と同じように呆れた顔をしたマーニが言った。彼の左側には椅子に座ったタスカ、右に椅子の背に腰かけたカーツァーもいる。

 「なんとなく、のぼりたくなって」私はあっさりと答えた。教室の後方、奥にいるアニタへと視線をうつす。「アニタ! 花見するわよ花見!」

 彼女の表情がぱっと明るくなった。「いつ!?」

 「三月の──」

 背後から両肩に手を置かれ、ぎょっとした。ゲルトだ。

 「この状態でうしろに引っ張ったら、怒る?」

 「ちょっと、お願い、マジでやめて。今背中に悪寒が走ったよ。怖いから」

 彼が笑う。「とりあえずおりろ。さすがに変だから。猿か」

 「猿じゃねえ」言いながら、しかたなくおりた。腰窓のサッシに腰かけ、再びアニタへと視線を戻す。「二週間後の三月二十四日、春休みに入って最初の月曜。場所はオールド・キャッスルのヴァーデュア・パーク。まえに言ってたとおり、ゲームはしないしアドレスどうこうもない。ただ、みんな適当に道具持って、バドミントンだのドッジボールだのをする。女はランチを用意、男はお菓子とジュースを用意。酒はなし。一部の一年だけの予定。予定は未定。あんたとゲルトとガルとタスカとカーツとマーニは強制参加。ナンネとジョンアも呼ぶけど、他は知らない。細かいことはそのうち決める」腰窓からおりて左手で窓に手をかけた。「以上、とりあえずの報告終了。あとはよろしく」

 言い終えると勢いよく窓を閉め、ゲルトとガルセスのほうに向きなおった。

 「どうよ、こういうの」

 二人は苦笑っている。

 「まだ二週間あるぞ」ガルセスが言う。「落ち着け」

 私は顔をしかめた。「だって、桜の開花が思ったより早かったんだもん。早くしないと散っちゃうでしょ。それに、ギリギリになって予定があるからどうこうとか言われても、困る」

 「桜になんか興味ないくせに」ゲルトが言った。「そんなに寂しいか」

 ムカつく。「今から寂しいなんて言ってたら、あとの二年どうすんだって話じゃん」寂しいですけどね。「いいの、私にはアニタがいるし、あんたたち二人がいるから。もうそれでいい。どうせ私は捨てられたのよ」

 「いやいや」ガルセスがつっこむ。「別れたみたいになってるけど、別れてないだろ。卒業しただけだろ」

 視線をそらし、私は遠い目をした。

 「私がお酒持って行かないことを祈っといて」

 二人は声を揃えた。「アホ」

 その一瞬あとに背後で勢いよく窓が開き、私は飛び上がるように振り返った。タスカだ。

 「ビビッたから。怖いから。いきなり開けんなよ。心臓止まるかと思ったわ」

 タスカは笑った。「悪い」サッシに両手をついて少々身を乗り出す。「オレらはたぶん行ける。って、とりあえず言っとこうと思って」

 「たぶんていうか、強制なんだけどね。勝負して、罰ゲームくらいはあってもいいよね。チーム分けして、なんか、罰ゲーム」

 彼は顔をしかめた。「お前、もっと穏便にできないの? 普通にやればいいじゃん」

 「普通にドッジボールといえば、ボールは二個か三個だよね。バドミントンも、四対四くらいでやってもいいよね。シャトルも四本くらいで──」

 頭に手刀が入った。またゲルトだ。

 私は彼にしかめっつらを返した。「痛いです」

 「だから、落ち着け。わかったから。HR始まるからもう帰るぞ」

 「帰る? 家に帰るの?」

 「とりあえず乗らないことにする」私の腕をとった。「帰るの。戻るの。B組の教室に」

 私は、どうかしているらしい。「ハイごめんなさい」

 今日起きた時からずっと、そわそわしていた。夜もよく眠れなかった。

 「あとでな、タスカ」ゲルトが言った。「実行は本気だけど、とりあえず全体的には冗談で通しといたほうがいいかも。テンションの高いこのアホは、とりあえず連れて行く」

 ガルセスはずっと苦笑っている。「二週間のあいだにどうにかするから。そのうち慣れるはず」

 慣れればいいのだけれど。ゲルトの腕に手をかけ、ガルセスの腕をとって、タスカへと視線をうつした。

 「がんばる」

 彼も苦笑っている。「またな」

 B組の教室へと戻りながら、私は二人に説教された。けっきょく誘う人間は限られてくるのだから、いくら勢いでも、あんなふうに大勢の前で言うべきじゃないと。

 正論だった。私は確かに勢いで行動することが多すぎるけれど、誘う誘わないはちゃんと、考える人間だった。それすらできていなかった。ものすごく後悔した。

 本気でヘコんだ私を見て肩をすくませたゲルトはけっきょく、フォローにまわった。おそらく、私たちとそれなりに話す人間しか来ないだろうと。それでももしかすると乱入があるかもしれないから、日付はズラしたほうがいいかもとも。

 そこで私は、開始を昼の二時か三時頃にして、明るいうちにみんなで遊び、ランチではなくディナーを女が用意すればいいのではないかと提案した。夜桜だと。

 いい加減にしろと怒られた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 三年のフロアが空っぽになったというだけで、学校全体がとても静かになったように思えた。“声”が少ないのだ。

 授業中は、もっぱら第二校舎の三階を見ていた。時折現れる人影は第三校舎に用がある二年生のもので、三年生──卒業生のものではない。私はまたも片想い気分に浸った。

 けれども、二年生はそういうのではないらしい。女子は特に、三年の女子がいなくなったというだけで、大きな鎖がひとつはずれたかのように、オリジナル制服を真似る女が増えていたた。全体を見たわけではないものの、二年女子の半分はそれに変えたのではないかと思う。偽リボンを調達できなかったのか、リボンをつけないヒトもいたけれど、カッターシャツにベストという偽制服女子が増えた。

 そして、大きな顔をする二年生も増えたという。渡り廊下を陣取って話したり、気弱そうな一年とすれ違うたびに睨みを利かせてくれたり。まだ一日目だというのにそんな話を耳にしたものだから、歴史はこうして繰り返されるのだと思った。

 私はともかく、ほとんどの一年生にとっては、二年生と三年生はプレッシャーそのものだ。小学校五年や六年の時にあった噂どおり、上下関係があからさまで、“中学で目立つとシメられる”というのが暗黙の了解、“目立たず騒がず”というのが暗黙のルールだった。だから私は、同期の中でも異色児扱いされる。

 それと同じで、二年生にとっても、三年生は大きなプレッシャーだった。一年相手に威張れることはあっても、あまり目立っているとやはり、三年に潰される可能性は残っている。中学では三年生がいちばん上なので、“本当に目立っていいのは三年生だけ”という暗黙のルールが存在するのだ。

 そしてそんな三年生が卒業した今、現二年が“中学のボス”で、思う存分威張れるようになった。自分たちが与えられてきたプレッシャーを開放し、下級生に身を持って教える時なのだ。

 そんなことを同期の女子たちと話していると、少なくとも私たちの学年は、威張る人間がいる学年にはならないのではないかという意見が出た。一年生の中でいちばん目立っているのは私だけれど、私はそういうことをするタイプではない。するとすればエデたちなものの、バレンタインの一件で、そんな力もないのではないかと。私はとりあえず、アニタによけいなことをしないのなら、なんでもいい。

 ちなみに、アニタはやはりD組や他のクラスの女子たちからさりげなく、花見に参加したい攻撃にあったようで、タスカたちにかなり助けられたという。ベラが勝手に言っているだけで、最終的な決定権もベラにあるからと。

 そんな感じで話がこちらに戻ってきたので、私は予定は未定だと答えた。実行する気はあるけれど、日付はよくわからないと。私を怒らせるとロクなことにならないと察しているからか、誰も誘えと念押ししてくるようなことはしない。

 私はどうやら、自分がなりたくない立場になるよう、自分自身で仕向けてしまったらしい。

 掃除の時間、生徒指導主事に会った。四十人か五十人程度で、ヴァーデュア・パークで花見をするのはアリだと思うかと訊くと、騒ぎすぎず、他の人間に迷惑をかけず、ゴミをしっかりと持ち帰るならアリだろうという答えをもらった。そういう相談をしたからには、苦情があればすぐお前の責任にするぞとも言われた。私は覚悟の上だと答えた。責任の取り方などというのは知らないけれど。

 そして、私の、B組の担任であるオルフ教諭が、三月でこの学校を去ることを聞いた。担任は照れくさいからと、残り数回の授業でも生徒たちに話すつもりはないし、そんな担任の意向で他の教諭たちも、修了式と同時に行われる離任式までは黙っているつもりらしい。

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