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RED - DISK01  作者: awa
CHAPTER 12 * PARTING AND GRADUATING
79/91

* The End Of Several Love

 廊下に出ると、A組の教室の前、カバンを肩にかけたエルミとナンネがいた。二人は同時にこちらに気づいたのだが、エルミは泣いていたらしく、睨むような視線をこちらに向けた。

 私が近づくと、エルミが低い声でつぶやいた。「フラれた」

 「は?」

 「フラれた!」声をあげた。「好きな女ができたとか言ってフラれた!」

 ここまで続けたブルは賞賛ものだ。

 また目に涙を浮かべ、エルミはうつむいた。

 「──ボタン、買えなかったからだ。だから──」

 こちらの残念度も賞賛ものだ。エルミの前で立ち止まり、私は苦笑うナンネに訊いた。

 「一年の手伝い組は?」

 彼女はおそらく、うんざりしている。「花道が終わったら自由解散って話しだったから、残ってた子たちももう、みんなカバン持って外に出た。あと片づけは先生たちがやるらしいし。何人かはまだ外にいるかも。写真撮ったりってのがはじまってたから」

 「あ、そ」携帯電話の電源は落としたままなのだけれど、アニタはどうしたのだろう。などと思いつつ、エルミに言う。「もう諦めるしかないじゃん。花道と競りでわかったでしょ。ブルはモテるのよ」

 顔を上げ、エルミがしかめっつらの涙目で私に訊く。

 「やっぱそう? 第二ボタン競り落とした女に惚れた? あたしがボタン買えなかったから?」

 一度こいつの後頭部、ハンマーで殴ってリセットしてさしあげたほうがいいような気がするのは私だけでしょうか。

 「それは知らないけど、ボタン買えなかったとかは関係ないでしょ。そんな迷信は信じてないわよ。だけどブルだって、まだ気の多い時期なのよ。中学卒業して、自由な時間が増える。もっと他の女だって見たいだろうし、見るようになる」私は時々、自分の言葉で自分を攻撃している。「好きな女ができたとも言われずに、浮気されたり二股されるよりマシでしょ」私は浮気をされた。ブルはエルミに二股をかけた。「はっきり好きな女ができたって言われたんなら、もう諦めなよ。簡単じゃないだろうけど、自分のなにが悪かったとか、くだらないこと考えんな。ついでに言えば、ブルはそういうマイナス思考も、同情引くようなことする女もキライ」そこまでは知らないけれど。「泣くならひとりで泣け。ナンネは連れて行く」

 エルミはこれ以上ないくらいに顔をくしゃくしゃにし、涙を流していた。またもうつむき、ハンカチで目元を抑える。

 「わかったから──ちょっと待って──」

 私は思わずぐるりと天井を見渡した。本当にウザい。

 「あんたね、ナンネの気持ちも考えなよ。アゼルたちに会うってのが、ナンネにとってどれだけ気まずいことかわかってんの? わざわざ連れてきて、あげくボタン競り落とせなかったとかフラれたとかを理由に、どんだけ泣くのにつきあわせんの? 泣きたい気持ちはわかるし、泣くのは勝手だけど、泣くならひとりで泣けって。今日の卒業式、ナンネにはなにひとつ得することないし、ブルのことだって、ナンネにはどうしようもないんだから」

 トドメになったのか、エルミはさらに号泣した。

 私は当然無視した。「つきあわなくていい。行こ」

 ナンネにそう言って歩きだすと、彼女も声なく苦笑いながらあとに続いた。三年の彼女もだ。

 少し歩いたところで三年の彼女がこちらに向かって声を潜める。「あんた、冷たすぎ。友達じゃないの?」

 「友達でもいろいろあるでしょ、レベル的な。私は間違ったことは言ってないはず」というか、友達のつもりもそれほどない。

 「あんたマジで最悪だわ」彼女が振り返る。「あ、動き出した。向こうから出るらしい」

 ナンネも一度振り返ってそれを確認し、すぐ視線を前方へと戻した。

 「もうずっと泣きっぱなし」声を潜めて言う。「競りに負けてからずっと。競りが終わって会いに行ったら、そのままフラれて。なだめても聞かないし、もう、疲れた」

 「おつかれ」と私。「だから、つきあわなくていいんだって。あいつは同情されたいだけなんだから」三年の彼女に言う。名前、なんだっけ。「感情剥き出しにして、ああなったらかっこ悪いでしょ」

 彼女も苦笑う。

 「確かに。ああはなりたくない。さすがにあれは無理」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 階段を一階へとおりていると、正面玄関ポーチの支柱にもたれたアゼル、右隣にリーズ、ニコラ、アニタと四人並んで座り、写真を撮り合う卒業生を眺めているのが見えた。

 「あいつ、写真撮らないんだな、やっぱ」三年の彼女がつぶやいた。「なんかキライらしい」

 私と同じだ。「うしろから抱きつけばいいんじゃない。そんで、“もうあんたのことなんかキッパリ忘れてやるわアホ男”って言うの」ホールに降り立った。「リーズたちは連れていくから」

 彼女は笑った。「んじゃ、そんくらいはさせてもらう」

 三年の彼女を玄関口に残し、私がアニタに声をかけると、四人とも一斉に振り返った。アゼルは無表情だったものの、リーズとニコラは安心したような表情を、アニタはしかめっつらを見せてくれた。

 いいものを見せてあげると言って彼女たち三人とナンネを連れ、三年の彼女がアゼルの肩に、覆いかぶさるようにうしろから抱きついて話すのも気にせず、写真を撮り合う卒業生たちのところへ向かった。

 黒い長ランを着ているゾランを見つけて声をかけ、また長ランを貸してもらった。やはり似合いすぎるらしく、アニタたちにもかなり笑われた。誰だか知らない卒業生の男のヒトに、締め出され組と一緒に並び、インスタントカメラで写真を撮ってもらった。リーズとニコラも、自分たちの携帯電話でその光景を撮っていた。 

 リーズ、ニコラ、アニタ、ナンネと一緒に、マスティたちとの写真を撮ってもらっていると、そのうち三年の彼女──ジャクリーヌがアゼルとの話を終え、「きっぱりフラれてきた」と笑いながら戻ってきた。なぜか私は彼女と並び、またもインスタントカメラで写真を撮られた。写真は本当に、キライなのだけれど。

 少ししたあと──すっかりボタンのなくなった学生服を着て、黒とゴールドの証書筒を持ち、相変わらずポーチの支柱にもたれたままのアゼルの前に、私はしゃがんだ。

 「写真、撮らないの?」

 彼は眠そうだ。「写真はキライ」

 「私も好きじゃない。っていうかキライ。これは内緒だけど、小学校の卒業アルバムも実は捨てた。家族写真なんてのは最初から持ってない。気づいたら隠されてたから。でも、ヒトが持ってるだけならいいじゃん。自分は見なきゃいい。カメラを見られないなら、私の頬にキスしてればいい」

 アゼルは苦そうに微笑んだ。「お前、やっぱ変」

 「心配はしてないでしょ」

 「してねえよ。どんな状況になろうと、お前があいつに負けるとも思ってない。お前のこと、すげえムカつくって言ってた。最悪に性格悪いし、けど一生勝てなさそうだとも言ってた。ぜんぶアホらしくなったって。俺の第二ボタンは、お前と一緒に写真撮って、中学の青春の締めとして、一生の思い出にするって」

 だから写真を撮ったのかと思い、私は笑った。「その一生の思い出には、あんたが必要なのよ。私たちの手元には残さなきゃいい。何人の女泣かせたのか知らないけど、あんたはみんなの青春そのものなんだから、それくらいしてあげてもいいでしょ。もちろん私だけじゃなくて、リーズとニコラにも入ってもらうけど」

 顔をしかめる。「リーズたちは何人かの女とモメたって、まえに言ったよな」

 「うん、知ってる。それはリーズたちにとって復讐になるでしょ。あんたがまともに写ってる今日唯一の写真に、私もリーズもニコラも入ってる。なんならボダルト主事も呼ぶ。その一枚だけでいい。あとは焼き増しでもなんでもして、勝手にやってもらえばいい」

 一度視線をそらし、彼は納得した。

 「なるほど」

 「中学にも留年てあればいいのにね」

 立ち上がった私が手を差し出すと、彼はその手をとって立ち上がった。

 「勉強なんてもうしたくねえ」

 「一緒にいられる時間が増える」

 「二年からやりなおせってか。絶対無理」

 「修学旅行で告白されたらどうしよう」

 「キスでもしてやればいいんじゃね」

 「ああ、そうね。そんで、“あんたに私を満足させられるの?”みたいな」

 アゼルが笑う。「絶対無理。誰にも無理」

 彼の腕をとって歩き出した。

 「今日泊まるかもっておばあちゃんに言ってある」

 「へえ。昼飯兼ねて打ち上げに誘われてるけど、お前も来る?」

 「行かない」

 「あっそ。んじゃどうすんだ」

 「好きにすればいい。アニタたちとランチ行って、夕方マブに行ってもいいし」

 「マブってなんだ」

 「マスティの“M”、アゼルの“A”、ブルの“B”。たまり場。“マブ”」

 「ヒトの家に変な名前つけないでくれる?」

 「あんたの家じゃないし、」

 「んじゃ、マスティとブルしだいで行ってくる。夕方には帰る。マブに」

 「うん」

 ジャクリーヌに、アゼルを入れて一度だけ写真を撮ろうかと言うと、彼女は卒業生の女たちに声をかけた。マスティとブル、リーズとニコラ、締め出され組の彼らにも声をかけると、おもしろいくらいにヒトが集まった。体育館脇で他の先生と話していた生徒指導主事に頼み、当然主事にも加わってもらって、体育館のステージにあがった。

 アゼルは私にボタンのなくなった学生服を着せ、私と並んで最前列の中央に座った。私の腰に手をまわすアゼルの隣にリーズとニコラ、私の隣にジャクリーヌと、花道でもうひとり、アゼルと腕を絡めていた女、エレーヌ。この二人、元は仲が悪かったらしい。

 マスティとブルは私たちのひとつうしろの列にいて、それを女たちが取り囲み、締め出され組は短ランや長ランが見えるように立ち、アゼルを好きだったらしい女たちも、まったく知らない卒業生たちも一緒に列に入った。主事は照れくさそうに脇に立った。

 アニタとナンネ、残っていた二年の何人かが、卒業生の女たちから預かったインスタントカメラを持ち、合図をして一度きりのシャッターを押し、写真を撮ってくれた。その瞬間、アゼルは私の耳にキスをしていた。

 ちなみに、マブ三人組のボタンの競り売り上げ。

 マスティとブルの合計は同じで、五万フラムだった。アゼルはダントツ、まさかの九万三千フラム。この学校にわりと長くいるらしいボダルト生徒指導主事によると、知る限りでは最高額だろうと言っていた。

 アゼルは餞別にと、主事に三千フラムを差し出した。問題児三人組の卒業記念にと。

 それでも主事が金なんかもらえるかと言うものだから、私はペンを出し、千フラム札にそれぞれの名前を書くよう言った。アゼルたちはほんとに自分の名前を書き込んで、改めて渡した。普通のお金ではなくなったから。

 主事は苦笑いながらそれを受け取った。

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