* Flower Way
三月七日──三年生の、卒業式。
校内に植えられた何本かの桜はまだ五部咲きで、少し肌寒いものの、空は澄んだ青空で、よく晴れていた。
二年生は在校生として式に参加するものの、小さな体育館にも保護者席が必要になるため、一年生はサポート組としての一部を除いてほとんどが出席できない。リーズとニコラは、せっかくだから昔モメた先輩たちに花でも贈ってやると言い、サボらずに出席することにした。
手伝い組として参加するつもりのない私は、式そのものには出ないというアゼル、ブル、マスティと一緒に、たまり場から、少し遅れて学校へと向かった。パーカーは羽織ったものの、二年生同様、学校指定の冬用セーラー服を着て。
どこでそんなことを覚えたのか、私は中学の不良といえば、刺繍入りの短ランや長ランを着るものだと思っていて、それをアゼルたちに言った。そんなアホらしいことはしないしそんな金もないと言われた。普通の学ランでもじゅうぶん目立つ存在だからいいのだという。もっと目立つように仮面を買いに行こうかと提案すると拒否された。
けれどもそういった格好で登校し、式への参加を拒否され、第一校舎と第二校舎を繋ぐ屋根つき通路で時間を潰している三年生が七人いた。そのうちのひとりが着ていた黒の長ランがとても素敵に見えて、思わずかっこいいっと言うと、ゾランという名前の彼が、それを試着されてくれた。
アゼルと代わらないくらいの背丈の彼とは身長差があるから少し長すぎるものの、 当然のようにサイズが合っていないものの、似合いすぎるとかで、その場にいた全員にものすごく笑われた。ゾランが携帯電話で写真を撮って見せてくれ、こちらも自分の目で確認したものの、いろんな意味でシャレにならなかった。違和感がなさすぎて、さすがに自分でもヒいた。
ちなみに小学校の時の話だが、彼ら七人のうちの四人とアゼルたち、子供ながらの喧嘩でモメたことがあるらしく、やはり圧勝したらしい。それ以来、本気で喧嘩を売ってくるようなことはしてこないという。ハヌルもそうなってくれればいいのにと思った。
何気なく、「保護者に紛れて立ち見すればいいんじゃない?」と言ったら、式の途中にもかかわらず、体育館から締め出された七人組を誘い、アゼルたちは何食わぬ顔で体育館の後方──開放された履き出し窓部分から体育館に入り、パイプ椅子に座った二年のさらに後方、保護者たちのうしろで、卒業式を立ち見する保護者たちと並んだ。
卒業証書の授与はすでに終わっていたものの、ちょうど校長式辞の途中で、立ち見していた保護者たちがぎょっとして少し距離をとったこともあり、正面のステージに立って式辞を述べていた校長が気づいてあからさまに反応し、体育館にいた教師や生徒のほとんどが、ほぼ一斉に振り返って彼らを見た。
ざわつきはしたものの、それ以上式をぶち壊すわけにもいかないからか、前方でパイプ椅子に座っていた教師たちは彼らを追い出すこともできず──進行役の教師の焦りとは裏腹に、校長が苦笑いながらも無理やり式辞を続けたりで、私はアゼルたちの背後に隠れ、声を抑えてものすごく笑っていた。周りにいた卒業生の保護者からはきっと、ものすごく変な子供だと思われたに違いない。
話の長い校長先生はいいヒトなのか、それともただの見せしめなのか、式辞が終わると彼らの担任に呼びかけ、あらかじめ抜き取っていた賞状を再度用意し、彼らをまとめてステージに招くと、ひとりひとりの名前を呼び、卒業証書を手渡した。
私は見つからないよう腰を低くして、通常ならありえない──もちろんアゼル以外ではあるものの──有名人並に両手を挙げながらステージをおりるという彼らを、しかも自分たちの席ではなく、再び立ち見をする保護者のところに戻るという、最高に目立った彼らを見ながら、かなり笑っていた。彼らが自分たちの席に座る気がないとわかった瞬間、体育館の中は笑いで溢れた。
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「ああ、おもしろかった」ブルは満足げな様子で言った。「まさかあそこで卒業証書もらえるとは思ってなかった」
私とアゼル、マスティ、ブルは、来賓紹介がはじまる前に体育館を出た。ひとまず体育館を離れ、第一校舎のほうへと移動する。体育館からは合唱の声が聞こえるものの、私は笑いが止まらない。
「あれにはびっくりした。マジでおもしろかった」
「結果的に目立ったし。そんなつもりなかったのに」と、マスティ。
左隣を歩くアゼルは不満そうな顔をしている。「お前、自分から言いだしたくせに並ばねえんだもん。ずっとうしろで笑ってるし」
「え、だって──」また笑いが。
歩きながらマスティが振り返る。
「お前が笑いまくるから、俺ら笑いこらえるの必死だったんだぞ。なんとか笑顔に留めたけど!」
私はとにかく笑っている。
「お願いだから、もう言わないで。笑いすぎて苦しいんだから」
ブルも笑う。「ホントずっと笑ってたもんな。オレらはいいけど、見つかったらお前だって怒られるかもしれねえぞ」
「たぶん見つかってない。や、立ち見してたヒトたちになんか言われたら、もう終わりだけど。知りませんで通すし。式が終わる頃を見計らって来ましたで通すし」
第一校舎の正面玄関前のポーチ、アゼルは四角く太い支柱にもたれ、腕を組んだ。
「お前が言いだしたって知ったら、主事がまた愚痴こぼすんだろうな。お前らとは違う意味で問題児だ、なんだあれ。みたいなこと、去年言われたし」
「まじで」
マスティも苦笑う。「言われた。去年の十二月だっけ。とりあえず、俺らもあんなの見たことないって言っといた」
「そんなバカな」
「そういやお前、ボタンどうすんの?」ブルがアゼルに訊いた。「言い忘れてたけど、昨日メール入ってた。オレら三人が出ないと盛り上がらないって。特にお前、一番人気」
ボタン? 出る?
「ああ、出る」アゼルが答えた。「金いるし」
「ベラにやらねえの?」マスティがこちらへと視線をうつす。「あ、そういうタイプじゃないか」
タイプ? 「話が見えない」
「だから、競り」
競り? ──ボタン。
私はアゼルに訊いた。「え、マジで? ホントに売れるの?」
彼は無表情。「だから言っただろアホ」
「ごめんなさい」
「俺も出る」マスティが答えた。「女にくれって言われてるけど、第五ボタンでもバレねえよな」
ブルはにやついた。「絶対バレねえ。オレも両方から言われてる。エルミには金欠だから競りに出すって言った。買えそうだったら買うとか言ってた」
私はまた質問した。「一年とか二年も参加できるの?」
「当然」
煽りたい。ものすごくい煽りたい。
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一度アゼルたちと別れ、私は一年の教室に行った。サポート組はA組の教室に集まっていて、花道の段取りの最終確認をしていた。
仕切っていたカンニネン学年主任に、「今日はランチはないわよ」と言われた。ムカついたので、「一年の問題児なりに、尊敬できない問題児の先輩方を見送りに来たんです」と答えた。笑いの数では勝った。
アニタやエルミ、つきそいでナンネ、なぜかエデたち三人を含め、サポートとして参加する一年は四十人あまりいた。ほとんどが女子で、何人かは朝から胸花を卒業生や保護者たちにつけたり、いくつかのカゴに桜のフラワーシャワーを用意したりということをしたらしい。
おかしいことを承知であまっていた胸花をもらって自分の制服につけ、前日にマーケットで買った真っ赤なバラのフラワーシャワーを、いくつかのカゴに混ぜてあげた。学年主任は見て見ぬふりをした。
アニタに卒業式の話をすると、どうして動画を撮らなかったんだと怒られた。
教えてもらった花道の段取りはというと、一本のチューリップやカーネーション、ガーベラやバラにカスミソウを添えたものをあらかじめ用意してあり、それは二年生が卒業生に渡すことになっている。一年の半分はところどころにばらけて立ち、まだ受け取っていない卒業生に気づいたら、さりげなくこちらから花を渡すらしい。もう半分もやはりカゴを持ってばらけ、卒業生たちと彼らが歩く花道をフラワーシャワーで飾る。
打ち合わせを終えて再び外に出ると、フラワーシャワーの入ったカゴを持った私とアニタは、リーズ、ニコラと並び、第二校舎から正門までの中間あたり、右側に立った。
卒業生たちは保護者の交じった人口花道を拍手の中、寄せ書きされたりされていなかったりのカバンを肩にかけ、校舎から出てきた。泣きそうなヒトも、泣いてるヒトも多くいた。すでに泣きまくったのに、さらに泣いているヒトたちもだ。
そのうち長ランを試着させてくれたゾランたちが来たので、奮発して多めの量のフラワーシャワーを浴びせてあげた。薄いピンクの桜の花びらと、そこに混じる少ない量の赤いバラの花びらが、長ランや短ランの背中や腕にあるゴールドの刺繍によく映えていた。ゾランたちから、“さっきの写真は保存した”と言われた。
続々と、だけどゆっくりと歩いていく卒業生の列の後方に、アゼルたちはいた。マスティは女二人の腰に両手をまわし、ブルは女二人の肩を抱き、アゼルは女二人に腕をとられて歩いてきた。
アゼルと腕を絡めて歩いてきた女たちは、私に気づくなり彼の腕にしがみつくようにし、独占欲の表れなのか、睨むように私を見た。私は思わず笑った。すると、彼女たちはさらに敵意を剥き出しにしてくれた。
そんなアホっぽい女二人を引き連れたアゼルに言われ、私はフラワーシャワーをアニタたちに任せて正門のほうへと向かった。
そこに辿り着いたアゼルは、花道を締める場所に立っていた教師たちの前にも関わらず、女二人の腕をなかば強引に引き離し、私にキスをした。私も笑いながら、彼の首に手をまわして応えた。
学年主事がアゼルの頭をはたいて止めに入ったので、長くはできなかった。




