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RED - DISK01  作者: awa
CHAPTER 11 * AVENGING AND RETURNING
72/91

* Valentine

 二月十四日、火曜日のバレンタイン。

 前日の放課後に作ったクッキーをアニタと一緒に配るため、いつもより少し早い時間に学校に行った。

 クッキーは三種類、チョコチップクッキーとココアクッキー、プレーンクッキーだ。普通ではおもしろくないのでスティック状にしたいと言うと、祖母は見事に応えてくれた。

 一種類ずつを小ぶりなラッピングバッグに小分けし、それをひとりぶんにした。誰にあげるとは深く考えておらず、とにかくそれなりに量を作って、男にも女にも配れるようにしてある。しかもいくつかは爆弾入りだ。プレーンに見えて塩味だったり、ココアに見えてコーヒーだったりというのを入れた。誰になにが渡るかは私たちにもわからない。

 アニタがまだこちらに来ていないとわかり、B組の教室には入らずD組に向かった。何人かの生徒が数組に別れて話をしているD組の教室前フロアに差し掛かると、ちょうど教室からアニタが出てきたところだった。

 「ああ、ごめん。今行こうと思ってたとこ」戸口に左手を掛けたアニタが言った。「って、カバンくらい置いてくればよかったのに」

 私は右手に持ったクラフトの紙袋のひとつを彼女に渡した。

 「教室入ってカバン置いて教室出るっていう時間がすごい無駄に思えて」

 「いや、意味わかんないし」紙袋の中を確かめる。「よし。とりあえずD組から適当に」

 D組の教室に入り、挨拶を交わしながら、男女かまわず何人かにクッキーを渡した。もちろん、もらえて当然だと思っているエルミにも、渋々。エルミはブルへのチョコレートを用意したらしく、放課後に渡すとはりきっていた。

 スティック状の手作りクッキーなんてものを見たことがないらしく、みんな驚いていた。でも誰にもハズレがあることは言わずにいた。私たちもどれだかわからないし、言ってもしかたがない。

 前方の戸口からD組の教室を出ると、タスカとカーツァー、そしてマーニが揃ってフロアに差し掛かっていた。

 カーツァーがこちらに気づく。「うそ、ベラが早い」

 「ほんとだ、ありえねえ」真ん中を歩くタスカが言った。「今日なに? 大雨?」

 「はい?」

 アニタが笑う。「マジで? やばいよ、傘持ってきてないよ」

 「いやいや」確かにいつもギリギリだけど。私は紙袋からクッキー袋をひとつ出し、前に突き出して見せた。「見て、スティック状のクッキー」

 「うわ、なんだこれ」受け取ると、タスカはクッキーをまじまじと観察した。「作ったんか」

 「もちろん」アニタは笑顔で私の左肩に腕を乗せた。「ベラがね、普通のクッキーなんてつまんねえよ! とか言うから」

 「そんな言いかたはしてません」袋をもうひとつ出してカーツァーに渡した。「普通の味なことを祈っといてね」

 彼が顔をしかめて受け取った。「またなんかやったの?」

 「さあ」と、私たち。

 マーニにもいるかと訊いたら、彼は「くれるなら」と返した。

 アニタがからかうように彼に言う。「本命があるからいいんじゃないの?」

 「そういや本命があるよね、いらなくね?」などと言いながら、彼にクッキー袋を渡した。

 「本命だろうと義理だろうと、食いもんなことに変わりはないじゃん」受け取ったクッキーを見る。「すげえ。細長い。クッキーって丸か四角が基本で、薄いのが絶対だと思ってた」

 タスカが笑う。「な。けど食うの怖いぞ、なにが出るやら──」

 「マーニ」

 彼らの後方から声がした。カーリナだ。両側にエデとサビナもいる。

 タスカは彼女たちに挨拶した。「よ」

 「見てこれ」マーニがクッキー袋を彼女たちに見せる。「スティック状のクッキーだって。ベラとヘイズにもらった」

 サビナは愛想笑いを返した。「へえ。すごいじゃん」

 アニタがこちらに向かって声を潜める。「マーニがよけいなことしてるよ。行こうか。面倒そうだ」

 「だね」

 私も小声でそう返し、彼らに「また来年」と言ってその場をあとにした。

 C組の一部にクッキーを配りながら、ナンネからバレンタインのチョコを用意していないことを聞いた。最近はエデたちがカーツァーたちにべったりなので、さすがに無理だと思ったらしい。しかもアドレスを手に入れはしたものの、一度もメールしていないし、気まずいと。

 B組に行こうかと思ったところでベルが鳴ったため、私とアニタは一度お互いの教室に戻った。HRを終え、そのあとの十分間の空き時間でB組にクッキーを配り、一時限目のあとの休憩時間でA組の連中にクッキーを配った。

 みんな、食べるとすればランチのあとにと言っている。アニタのところにはおそらく、ハズレを引いた連中からの不満メールが殺到するだろう。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 二時限目が終わったあと、教室に来たリーズとニコラに呼ばれた。クッキー袋が入っている紙袋を持って廊下に出ると、C組とB組の境界にあるベンチを、向かって左からマスティ、アゼル、ブルの三人が堂々と座っていて、さすがに呆れた。

 私はブルの前に立ち、ハズレがあるかもしれないから覚悟してと言ってリーズとニコラにクッキー袋を渡し、ブルとマスティにも渡し、もう一袋を手に取ったところでアゼルに訊いた。

 「あんたいるの?」

 彼は顔をしかめる。「そんな怖いのいらねえ」

 「なにしたか教えろ」と、ブル。

 言ったらおもしろくないのに。「だから、プレーンに見えて塩かもしれないし、ココアじゃなくてコーヒーかもしれないってだけ」

 「見た目じゃわかんないわけか」ブルがアゼルに言う。「お前も食え。コーヒーとかなら大丈夫だろ」

 彼らは私のグロさを、はっきりとは知らない。「まあ、ちょっと塩辛いか苦いかだと思うから」味見をしていないのでよくわからない。が、かなり入れた。

 アゼルは渋々クッキー袋を受け取った。「怖すぎ」

 「昼休憩、みんなで同時に食べようか」リーズが提案した。「ハズレがあったらすぐわかるんじゃね?」

 ニコラが便乗する。「で、ハズレを引いた奴がみんなになんか奢るとか」

 「お、そうするか」ブルも乗った。

 「っつーか、お前のぶんあんの?」アゼルが私に訊いた。

 私は紙袋の中を確認した。よっつあまっている。アニタのほうもいくつかあまっていたので問題はない。

 「あるけど」

 「よし、やるか」マスティが言った。「昼休み、二.五階の渡り廊下な」

 自分が食べることになるとは思っていなかった。超怖いんですけど。

 「リーズ!」

 C組側から声がした。またサビナとエデ、カーリナだ。

 リーズは返事をした。「ハイ、サビナ」

 「なにしてんの?」

 ニコラがクッキーを見せた。「ベラにね、もらったの。すごいでしょ、スティック状のクッキー」

 「ああ、知ってる」サビナは私の傍らに立った。「みんなにあげてるよね」

 あげていますよ。「なんならいる? まだあまってるけど」

 「あ、もらいなよ」答えを聞く前にリーズが勧めた。「めっちゃおいしそうなの」

 笑いだしそうだ。

 「エデたちももらえばいいよ」

 そう言ったニコラにまだあるかと訊かれたので、私はあると答え、サビナにクッキー袋をみっつ渡した。

 「ありがと」

 微妙そうな表情でそれらを受け取ると、サビナは背後にいるエデとカーリナにひとつずつ、クッキー袋を渡した。

 「ありがと」まったくありがたそうではない様子のエデは、アゼルが手にしているクッキーを見た。「アゼル先輩もみんなと同じですか?」

 なに。

 アゼルが答える。「そう、ひでえだろ。俺、一年の連中ともこいつらとも同じ扱い」

 ブルたちは顔をそむけ、控えめに苦笑った。

 はいはい、笑える笑える。

 エデが口元をゆるめて私に言う。「ベラ、本命のヒトにはもっとちゃんとしたの、用意しなきゃダメじゃん」

 はいはい。「そうね」特別にココアを三本に増やすとかプレーンを五本に増やすとかしておけばよかった。

 「チョコにすればよかったんだよ」カーリナが口をはさんだ。「バレンタインといえばチョコじゃん」

 「だって、チョコは、ね」ね、ってなんだ。

 「俺、チョコは食えねえんだよ。甘すぎるのがダメだから」アゼルはホラすぎるホラを吐いた。「まあクッキーが好きってわけでもねえけど。あんま食わねえけど。お前らも知ってると思うけど、すげえ冷たいからな、こいつ。俺の好きなモンなんか用意してくれるわけがないんだわ。どうせ俺、こいつの本命じゃねえし。俺もこいつが本命ってわけじゃねえし」

 彼女たちが苦笑う。マスティとブル、リーズとニコラは笑いをこらえているようだった。

 はいはい。「あんたの好きなものってなんだっけ」私は彼に訊いた。

 アゼルは眉を寄せてこちらを見る。「お前以外に好きなもんなんかないけど」

 次の瞬間、マスティとブル、ニコラとリーズが同時にふきだし、天を仰いで笑った。私は冷静。エデたちは目に見えて絶句した。

 はいはい。「って言ってるから、チョコはいらないらしいわ」と、私は唖然とするカーリナとエデに言った。

 「お前、もうちょっとなんか反応しろアホ」笑いながらアゼルが言う。「なんだその普通すぎる反応」

 「もう無理!」マスティは両手で額を押さえて笑っている。「冷静すぎだし!」

 身をよじったブルとリーズ、ニコラはとにかく、ただひたすらに笑っていた。

 と、言われても。ここで私が真っ赤になりでもすると、台無しなのですが。「どうしろと?」

 私が訊くと同時にベルが鳴った。アゼルが立ち上がる。

 「いや、お前はそれでいい」クッキーごとポケットに両手を入れ、顔を近づけて耳元で囁いた。「今度部屋に来たら覚悟しとけよ」

 「怒ったの?」

 「いや、ぜんぜん」小声で言葉を継ぐ。「楽しいほうの意味で覚悟しとけよって意味」

 それで、今さら気づいた。もう二度と聞けないと思っていた言葉だ。嬉しい。

 「覚悟しとく」

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