* Development
土曜日。
朝早くからアニタと二人、祖母に教えてもらいながら、前日の放課後に買った材料を使ってカップケーキを作った。
生地はチョコレートとプレーンの二種類にして、デコレーションを楽しんだ。とはいえ、私はすべてチョコレート生地。そこに生クリームやチョコレート生クリーム、イチゴにシュガーパウダーなんかを乗せた。アニタのおかげで、完全に自分の好みを優先しているのを祖母に知られた。
その後、私は祖母の車でアニタをニュー・キャッスルの自宅まで送り、家に戻ってから、ランチ用にカツサンドとたまごサンドを作った。
たまり場のリビングにはマスティとブルがいた。
「朝っぱらからビール?」
私の質問にブルが答える。「朝飯代わり。しかも眠い」
マスティも彼と同じくらい、とても眠そうだ。「昨日三人でゲームしてて、朝までコース。寝たの四時過ぎ」
荷物をソファの傍らの床に、大小ふたつのケーキボックスをソファに置き、その隣に腰をおろした。
「今日デートだって言ってなかったっけ」
ビール片手に、ブルは大きなあくびをしていた。「だから無理やり起きたんだよ。十二時に待ち合わせだけど、もう面倒。家帰んなきゃいけないし、寝たい」
今は朝の十時半。「起きなきゃいけないのわかってんのに、なんでそういうことするんだか」立ち上がり、サンドウィッチの入ったケーキボックスをテーブルに置いた。「アゼル起こしてくる」
「飯!」ブルは声を上げ、すぐに箱を開けにかかった。「起きねえとすぐなくなるって言っとけ」
「はーい」
アゼルはやはり壁のほうを向いて眠っていた。そっとではなく、飛び込む勢いでベッドに寝転ぶと、彼は顔をしかめて目を開けた。
「──なに」
「サンドウィッチ争奪戦がはじまってる。しかも今日はカツサンドとたまごサンドの二種類のみ。朝食と昼食のつもりでそれなりに量はあるけど、ブルとマスティに渡してきたから、なくなるかも」
「──あ?」
次の瞬間、彼は勢いよく身体を起こした。開いたままののドアを見て、視線をこちらへと戻す。
「ああ」
私も身体を起こした。「寝ぼけてんの?」
「ん──」両手で顔をこすると、左手を私の腰にまわした。「お前にかまってる時間はなさそう」
そう言いながらも、キスをする。
かと思えば目が覚めたらしく、私を放置して、彼はすぐにリビングへと向かった。
ビール片手に、三人はサンドウィッチを見事完食した。そのあと、マスティとブルは一度家に帰った。待ち合わせ時間を遅らせるらしい。
私も昨日、アニタと話していて午前二時近くまで起きてたうえ、朝が早かったので、アゼルと一緒に昼寝をした。
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「うまい」ななめ向かい、窓際ソファの前に腰をおろしているアゼルが言った。「万能すぎだな」
私たちは三十分ほど前に起き、ふざけながらやっとベッドを出た。小腹がすいたと言ってカップケーキの入ったケーキボックスを開け、彼はチョコレート生クリームでデコレートしたチョコチップ・カップケーキを選ぶと、ペーパートレイの上でフォークを使って切り分け、ひとくち食べた。
私はキッチン側ソファの前にいて、同じカップケーキを選んだ。切り分けたものを食べる。おいしい。
「さすが私だよね」
「いや、お前じゃねえだろ」
「は? 私でしょ」また一口食べた。やわらかい。とろける。「生地混ぜたのよ。流し込んだのよ。オーブンのスイッチはアニタだったけど」
「そういう問題じゃねえよな。お前らだけだと、こううまくはならないだろって話」
「たぶんならないけど。っていうか、おばあちゃんにね、言った。つきあってるヒトがいるって」
「へー」またケーキを口に運んだ。「で?」
「ほぼひとり暮らし状態で、コンビニのとか外食ばっかりだから飽きると思って、サンドウィッチとか持って行ってるって言った」
彼は笑った。
「いきなり正直すぎだろ」別のケーキを手に取る。「さすがに怒られたか」
「それが、ぜんぜん。むしろ昼食とか夕食が必要なら、言ってくれれば作るから、持って行くか取りにくるかしなさいって。会わなくていいからって」
ケーキを口に運びかけた手を止め、こちらを見る。
「──マジで?」
「まじで」苦笑うしかない。「今までの、なんだったんだろうって話だよね。泊まりに行ってるのも、ほとんどはそのヒトのところだって言った。数え切れないくらい嘘ついてんのに、そんななんだもん。なんかもう、ね」ありがたいというか、なんというか。
「──まあ、それはさすがに、悪いと思うけど」視線をそらしてケーキを食べた。「詮索はされなかったのか」
「されてない。三年だってことは話した。でもあとはぜんぜん。けどアニタが──あ、あんたがひとり暮らし的なことをしてるってのは言ってないけど、アニタがね、おばあちゃんに甘えろって言うのよ。もっとヒトに甘えたほうがいいって。わりと説教された」
「ああ。──で、どうしろと?」
「だから、どうしろとかじゃない。でもあんたがいいなら、夕食はもらってくる。キライなものとか言っておいてくれれば、それ以外で作るって。育ち盛りなんだから、ちゃんとしたもの食べないとって。ここに来る毎回とは思ってないけど、平日なら一回はここに来るし、あと金曜か土曜、泊まりに来る時。メールすれば作ってくれるって言ってるから、一度取りに帰ろうかと思ってる。会わなくていい。私もさすがに、なに話せばいいかわかんないから」
彼は苦笑ってフォークを置いた。
「んじゃ、俺はお前に甘えることにする。飽きたとかはどうでもいいけど、正直ちょっと興味ある。お前やアニタが絶賛する料理ってのが」
今さら、なぜかドキドキしてきた。嬉しい。
フォークを置くと、床に手をつきながら移動し、アゼルの横に正座した。
「キスしていい?」
床に左手をついて身体をこちらに傾け、彼が微笑む。
「イヤっつったらしねえの?」
「する」
キスをした。フレンチキスがすぐに深いキスに変わり、チョコレート味で、少し苦味があって、だけど止まらなくて、ふたりで床に倒れ込んだ。
左肘で身体を支え、右手で私の頬を撫でながら、アゼルがつぶやく。
「──やっぱここにも、置いとくべきかも」
「だね。ずっと、ここはみんなの場所だからって思ってたけど、今はそれどころじゃない」
「な。しょうがないからケーキはあとまわしにするか。んでいつものように、おとなしくベッドでヤるか」
「おとなしくはないよね。おとなしかったことなんか、たぶんないよね」
「ひとつ教えといてやろうか」
私の両手は、アゼルの首にある。「なに?」
「確かに俺はキホン、顔さえよければ、わりと誰でもいい。けど、相手のことなんか考えたことねえ。今までも、結果的に相手は満足してたらしいけど、それはモノがでかいからだし、向こうが勝手に。俺はとりあえず、ヤれりゃいいっていう考えだったわけ。自分が満足すればってことな。お前と同じで自己中だから、ヤるってのをホントの意味で楽しんだことはない。体勢変えて相手の反応を、とか、そんなんどうでもよかった。むしろひとりで感じまくってる女見て、すげえアホっぽいと思ってた。なにひとりで盛り上がってんだって。けどお前とヤるのは楽しい。お前がヤるのに慣れたら、そうでもないかと思ってたんだけど。今でも楽しい。お前がどうなんのか、見てんのが楽しい」
──なんと、いうか。「すごく最低なこと、言ってるよね。いろんな意味で」こういう時は、本当に、喜ぶところなのかどうか、とても微妙だ。
「最低な人間だからな」
笑って言い、アゼルは私の首筋にキスをした。そのまま耳元で囁く。
「まえに言ったとおり、お前が染まってくのを見るのが楽しい。そん時の気分で反応が変わるのもおもしろい。お前の声を聞くのが好き。なにでどんな反応すんのかって、それを見るのがすげえ楽しい」
私は、顔が真っ赤になっていた。声が好きとかなんとか言われるのは、本当にダメだ。慣れない。
「──遊ばれてる気がする」
「お前が言いだしたんだぞ、声がどうとかってのは」
「そうだけど」
「さてと」腕を伸ばして視線を合わせる。「ケーキ食うか」
私はぽかんとした。「はい?」
悪戯に微笑む。「おあずけ」
「ムカつく!」




