* With Boys
放課後。
B組の連中がやっといなくなったところで、ゲルトとガルセスを交え、教室に来たD組の三人組にアニタの話をした。なぜマーニがいるのかは知らない。
昨日の始業式のあと、私たちのクラスはまたも席替えをした。どうやって席順を決めるかを話し合う前に、私が自分の座りたい席を決め、座席表を書いたブラックボードに自分の名前を書き込んだものだから、ゲルトとガルセスが続くようにして自分たちの名前を書き込み、そこからどんどん、クラスメイトも自分の名前を書いていった。まるで戦争だった。
私は自分の席を窓際の最後尾にした。しかも隣の席を中央列に移動させ、なくした。ガルセスは私の前の席に、ゲルトは彼の右隣の席に。私が言いだしたせいか、彼らはときどき、勝手に席を入れ替わって教師陣を混乱させる。
そして今、私とゲルトとガルセスは自分たちの席に座り、タスカはガルセスの机に腰かけ、マーニはゲルトの席に座って、カーツァーは中央列から引きずってきた椅子を私の隣に置いて、前後逆に座っている。
「嫉妬とか、女がするもんだと思ってた」ゲルトが言う。「男でもするんだな」
「する奴はするだろ」と、カーツァー。「しない女がいるんだから、する男がいてもおかしくはない」
ガルセスが苦笑う。「見事にお前らの心境と真逆のことを言ってくれてるわけだ」
「そういうこと」私は答えた。「あからさまに避けてほしいわけじゃない。ただD組の場所的にも、先輩がいつ現れるかわかんないし、もし見られてアニタがなんか言われたら、それがあの娘のストレスになるかもってことを頭に入れておいてほしいだけ」
「まあそういうことなら、昨日みたいに三人で話すみたいなことはしないようにするけど」そう言うと、カーツァーはゲルトへと視線をうつした。「お前らどうなんのって話だよな」
彼が笑う。「だってそういうの、ホントないもん。アゼルたちにも言ったけど、俺は特に、小学校一年の時からベラを知ってるんだぞ。どうがんばったって、こいつを恋愛対称になんか見れないじゃん。やだよ、こんな怖い女」
ガルセスも同意した。「オレもやだ。こいつの冷酷さわかってんだもん。それに、ずっとダチやってんのに、今さらどうにもなんないって。ダチでいる状態が楽しいわけじゃん。わざわざ面倒にしたくないし」
カーツァーはこちらに同情の眼を向けた。
「なんかお前、ボロクソ言われてる気がするけど」
私は笑った。「だからさ、私と同じなんだって。や、ゲルトはともかく、ガルを冷酷だとは言わないけど」
「ちょっと待て」ゲルトが口をはさむ。「冷酷なのはお前だろ? 俺じゃねえよ?」
「いや」ガルセスが割り込む。「ベラに続いて、お前も冷酷だよ。ベラの影響かは知らないけど、冷酷だからこいつとエグいこと話せるんだろ」
「そういうこと」と、私。「そりゃ中学出たら、高校からはどうなるかわかんないけどさ。それでも私は言いきれる。このメンバー含めて、学年の誰かを──特にゲルトとガルのことは、この先なにがあっても、恋愛対象として好きになったりしない。今の状態がいちばんいいわけだから」
カーツァーは肩をすくませた。
「ま、それはわかるけど」
「っていうか」タスカが口をはさむ。「お前らほど仲がいいとかじゃなくても、同期とつきあいたいとはあんま思えないよな。嫉妬とか、そういう話聞いたらよけいに」
ゲルトは首を横に振った。「ないな」
「ないよな」と、ガルセス。「ベラやヘイズほど仲がいいってのはいないけど、それでもオレとゲルトは、こいつらから女子のあれこれ聞いてるから、よけい」
「怖いこと言うな」カーツァーは訝しげな表情をこちらに向けた。「なんだあれこれって」
視線を交わしてにやつき、ゲルトとガルセスが意味ありげな表情で言葉を返す。
「いや、いろいろ」
「告られたんだけど」こちらに背を向けて携帯電話を操作していたマーニが振り返った。「その同期に」
全員の視線が一気に彼に集まった。「は?」
「誰に?」タスカが訊いた。
「ヤンヌ」
「マジで!?」男たちが声を揃えた。
カーリナ・ヤンヌ。サビナやエデといつもひっついてる女だ。
「んで、どうすんの?」ガルセスが訊いた。
「んー」マーニがこちらに訊く。「どうなの? ヤンヌって。女子的に」
「っていうかあんた、オンナいたんじゃなかったっけ」
「あ、へーき。こないだ別れたから」彼はけろりと答えた。「それ言ったからかもしんないな。去年お前と話した日の夜、別れるって言ったんだけど。そのあとあやまってきて、けっきょく仲なおり? して。冬休みのうちはオレも、向こうのダチと遊ぶのとかあったから、ついでに会ってたんだけど。もういいや、みたいな」
マーニは、イメージどおり軽いらしい。
「私だけじゃなくて、女子の半分が言ってることだけど、あいつら──特にカーリナとエデとサビナは、束になると性格が悪くなんの。グループでかたまってる時は、すごく性格が悪い。教師に媚売る、男に色目使う、カマトトぶる、仕切る、陰口言う、他の地味な女子を見下す。けど、ひとりになったらそうでもない。実際あいつら、小学校の時にクラスが別れた時は、普段一緒にいないグループとも話してた。やさしいらしいよ、地味真面目グループにすら。どっちがホントなのかって言われたら、私にはわかんない。わりと話しかけられてたこともあるけど、私はまともに相手しないし」
ちなみに今はカーリナもエデもサビナもかたまって同じC組なので、ほとんど常に性格が悪い状態だ。
苦笑するカーツァーがつけたす。「これはわりとホントなんだわ。俺も見ててそう思う。普段話さないような女子に穏やかに話しかけてるとこ見て、誰!? って思ったことあるもん」
「オレ、ぜんぜん気づかんかった」タスカが言った。「そんななんか」
ゲルトが言う。「俺とガルは知ってた。っていうか、ベラたちから聞いてだけど」
マーニが顔をしかめる。「つまり、どっちかわかんないってこと? 性格いいか悪いか」
カーツァーとゲルト、ガルセスは声を揃えた。「わかんねえ」
彼は肩をすくませた。
「んじゃ、まあいいか。いろいろうざかったら別れればいいし」
「おもしろいくらい適当だな」カーツァーは呆れている。「ヘイズのほうはともかく、あいつらは束でかかってくるんだから、わりと面倒そうだぞ。俺らを巻き込むなよ」
タスカが口をはさむ。「けどあれだよな。たいていの昼休みがくるたびに教室に押しかけてくるってのをやめてくれるなら、それもいいかも」
「それは言えてる」彼は椅子の背に左腕を立て、手に頬を乗せた。「ただ、別れたらそうなるかもしんないけど、つきあってるあいだはむしろ、毎日になりそう」
「巻き込むっていうか、オレは基本的に女の前でも変わらない」マーニが言った。「むこうしだいだけど、面倒だったら言ってよ。そしたら言うか別れるかするから」
そして彼はまたこちらに背を向け、携帯電話を操作しはじめた。
「オレら、D組じゃなくてよかったな」ガルセスが言う。「すげえ面倒そう」
「だね」アニタがこちらにいればよかったのに。
「こっちはこっちで、ベラの問題児っぷりが問題だけどな」と、ゲルト。「ま、そのおかげで俺らも好き勝手できるわけだけど」
ガルセスは笑った。
「ベラが目立ってくれるおかげで、オレら便乗してるだけみたいになってるもんな」
目立っているつもりはない。
「楽しそうでなにより」タスカが言う。「全責任がベラに向いてくれるってのはマジで羨ましい。なんだかんだで文化祭の時、B組がいちばん盛り上がってたわけだし。くだらない店なのはどこも一緒なのに」
「二年は絶対、ベラがいたほうが楽しいぞ」ガルセスが言った。「修学旅行がある。こいつもレベルアップしてるから、去年以上に楽しいかも」
そんな謎の期待をかけられても困る。
「だよな。文化祭も勝ち取れるかも」
「わかってないな」ゲルトが口をはさんだ。「ヘイズはともかく、ベラにクラスなんて関係ないって。その気になりゃ、どこのクラスにだって紛れ込むんだから」
的を射すぎている言葉に、みんな天を仰いで笑った。話を聞いていたらしいマーニも、当人である私もだ。そういえばそうだ。思い当たる節がある。
「でもせめて二年か三年、一回くらいは、ヘイズ含めてみんな、同じクラスになれりゃいいな」と、カーツァー。
「うん。でも私はとりあえず、アニタと同じクラスになりたい」先に教諭に言ってどうにかなるものなら、言うのだけれど。「卒業アルバムのクラス写真にアニタがいないなんて耐えられない」
「いやいや、いるから」ガルセスがつっこんだ。「一年の写真だって二年の写真だってあるっつの。むしろお前が写ってない可能性のが高いんだぞ。文化祭で教室にカメラが来た時、お前いなかったんだから」
私ははっとした。「ホントだ。どうしよう。うん、ごめん、実はどうでもいい。卒業アルバムになんて興味ない」小学校のアルバムは、捨てた。
「修学旅行までサボるとか言うなよ」タスカが私に言った。
「クラス分けによってはサボるかもね。楽しくないと思えばもう──」
突然、教室のドアが勢いよく開いた。
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「お前ら、まだ残ってんのか。さっさと帰れよ」生徒指導主事のボダルト教諭だ。
私は即座に椅子の上に立ち上がった。
「先生、このメンバーの顔覚えて。B組とD組。あとね、D組のアニタ・ヘイズ。この──」頭数を数える。「七人。二年で一緒のクラスにしてくれなかったら、一生先生のこと恨むから」
「またお前か、グラール」主事は呆れた顔でこちらに歩いてくる。「顔覚えろったって、いきなりできるか。しかも俺にそんな決定権はない。たいていは成績だ。偏らないように」
「ああ、それなら大丈夫。みんなトントンだから。中の下」知らないが。
「中の下を全員一緒にしたら、クラス全体の平均点が下がる可能性があるだろ」タスカとマーニの傍で立ち止まってマーニに言う。「校内で携帯電話を使うのは校則違反のはずだぞ」
「気をつけまーす」
彼は軽い口調で応じ、携帯電話をポケットに閉まった。
私は椅子からおり、立ったままでカバンからノートとペンを出しにかかった。「クラスの平均点なんか、誰も興味ないんですけどね」ノートの一枚を破り取る。「みんなが見てるのは自分の点数とその平均点と、学年で何番目かってことだけ」言いながら破いたノートに自分とアニタの名前とクラスを走り書きして、ガルセスに渡した。「全員の」
彼はわかったらしく、すぐに私の机で自分たちの名前を書きはじめた。
私は腕を組んだ主事へと視線を戻す。
「まあ三年はそれでもいいかもですけど、二年は修学旅行がある。平均だのなんだので決められても、楽しくなきゃ学校に来たくなくなる」
「お前の屁理屈は天下一品だな」主事は呆れ顔で答えた。「さっさと校長に見つかって怒られろ」
それで彼らは笑った。
「ひどいな。大丈夫。こういう問題児の多い中学で、私は確かにズレたことしてるかもしれないけど、それほど酷くもないはず。だって学校はサボッてないし」
「去年遅刻してランチを食いにきたって聞いたぞ、主任から」
あのおしゃべりクソババア。「それはあれですよ。ものすごくショックなことがあって、頭痛がしてたんです。でもちゃんと来たし。掃除したし。放課後までいたし」
「あといつだったか、渡り廊下でお菓子食ってたって話も、三年の生徒から聞いたな──」私たち全員を見やる。「その時のメンバーか?」
バレていた。いや、マーニはいない。というか遅刻したその日のことだ。
「気のせい。超気のせい」ガルセスが名前とクラスを書き終わり、私はそれを主事に渡した。「ものすごく期待してますよ、先生。さっきも言ったとおり、クラスが一緒になれなかったら、マジで一生恨みますから。先生に決定権がなくても、マジで恨みますから」




