* What I Want
フラフラと屋根裏への階段をあがり、抱えた荷物を放り出しながら、どうにかベッドまで辿り着いた。そのままうつ伏せに寝転ぶ。
疲れた。なぜあんなことをしたのだろう。ひさしぶりに後悔した気がする。軽はずみな行動はするべきではないと、あらためて実感した。
時刻はすでに夕方四時を過ぎている。職員室に長居しすぎた。
やばい。寝そうだ。アゼルに電話。
──電話をするのが、怖い。あれ以来、一度も彼に電話をしていない。
だって、たまり場に行くと、いつもいる。
いつも。
なぜいつも? 当然のようにいる。寝ている。
なぜ。アゼルの家? いや、違う。住んでいるのか。まあそれはいい。
そうではない。まさかだ。他の女が電話に出るなんてこと、もうあるはずがない。
アゼルに電話をかけた。
三度目の呼び出し音が途切れ、声に変わる。「ん」
わからなかった。「誰ですか」
「あ?」
アゼルだとわかり、心の底から安心した。仰向けになる。
「なにしてんの?」
「マスティとゲーム」
やはりたまり場にいるらしい。「どうしよう。なんか思ったより遅くなった」
「だな。しかも眠そう」
「んー、眠い。でもね、明日は行けない」祖母が仕事の打ち合わせでセンター街に行くらしく、ついていく。別行動で私はゼスト・エヴァンスに行く。「いいなら、日曜は泊まるつもりだけど」クリスマス・イヴ。
「ああ。俺はどっちでもいい。ブルは女んとこ、ニコラとリーズも男んとこ。マスティが、くるならなんかお菓子買ってこいっつってる」
「わかった。んじゃシャワー浴びて着替えて、お菓子買って行く。今日、朝しかまともに食べてないから、夕食は食べに行きたい。つきあってもらっていい? 奢るから」
「ん、じゃな」
「はい」
電話を切った。こういう電話をするのだと、はじめて知った。知らなかった。それほどの会話でもないけれど。
七月から一ヶ月抜いて──まだ四ヶ月しか経っていない。知らないことだらけだ。
時間がない。とりあえずはシャワーを浴びる。
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たまり場。
夕方エルミとのデートを終えたブルが来て、話したり遊んだりしたあと、四人で夕食を食べに行った。
途中、リーズから、“今ダブルデート終わった。けっきょく、唯一似合うと思ったスカジャンは高いからってやめて、普通の服装になった! 外歩くのはそういうのにして、スカジャンは趣味にしておくって! まだつきあうかわかんないけど、切る予定はとりあえずなくなった! ありがと!”とメールが入った。
ニコラからも似たようなメールが届いた。“綿パンをジーンズに変えてダウンジャケット着たら化けたよ。びっくりした。しかもわりと脈有りっぽい。うちらもベラが勧めてくれたような服、ちょっと買ってみた。ヤバイよ、もっと欲しくなってきた。また今度、買い物につきあって”、と。思わず口元がゆるんだ。
ブルとマスティが帰ったあと、夜八時すぎ。
“パーティーは無事終了しました。今日は帰りが十時頃になると思います。でも心配しないでください”と祖母にメールを送り、ありえないほどの眠気をこらえつつ、アゼルとベッドに入った。やっぱり私が壁側で、向き合って横になる。額を合わせて目を閉じた。
「ここに住んでんの?」私はアゼルに訊いた。
「なにを今さら」
「なんか今日、メールがどうとか電話がどうとか考えてたら、いつもここにいるよなって思って。たまに疑問に思ったこともある気がするけど、あんま気にしなかった」
「無関心の女王」
「女王言うな。気にしなかったっていうか、深く考えなかった。最近、自然とこっちはアゼルの部屋で、隣はマスティの部屋だって認識になってて。でもマスティのお祖父ちゃんの家だって言ってたはずだし、みたいな」
「まあ、住んでるといえば住んでる。いさせてもらってる。自分の家には金取りに帰る程度」
──金。
よくわからない。私とは違うのか。「じゃあ今さらついでに、お願いしていい?」
「なに」
「クリスマスプレゼント」
「金ならない」
「いらないわよ。そうじゃなくて、私がまだ知らない話」
「大量すぎる」
はぐらかしているのか。「やっぱいいです」
彼は笑った。
「たいしたことじゃねえ。なに? 今?」
「時間ないから、今はいい。クリスマス」
「クリスマスをどんだけ暗い話で埋め尽くそうとしてんだって話だけどな」
暗いのなら、たいしたことじゃないという言葉は、変だ。
「クリスマスのテーマカラーに赤なんか使うのが悪い。ここ何年も、私の気分は血まみれのメリークリスマス」
「マシンガンぶっ放したみたいにな」
「そう。ボスには倒れる暇がないくらい、ずっとぶっ放す。壁際に立たせて、五百発だか一万発だかがぜんぶなくなるまで、ずっと撃ち続ける。原型なくなるまで撃ち続ける」
「お前のそういう話は好き」
「イカれてるって言われる」
アゼルの右手が頬に触れる。促されて顔をあげると、キスをした。
「イカれてない女はつまんねえ。イカれた俺から逃げ出す女なんていらねえ」
そう言ってまた、キスをする。
「──私も、いらない」上唇が触れたまま、言った。「逃げ出す男なんて、いらない」
彼の首に手をまわし、キスに応えた。
逃げ出すような奴はいらない。
理解されなくてもかまわない。
私を置いていかないヒトが欲しい。
いなくならないヒトが欲しい。
永遠じゃなくていい。
永遠じゃなくていいから、死ぬまで一緒にいてくれるヒト。
死ぬまで私を愛してくれるヒトが欲しい。




