* Party Class
アゼルと出会うまで、よく考えもせずになにかを口走ったり行動したりするのを、大きく後悔したことというのは、ない気がする。
最大の理由はおそらく、誰になにを言われても気にしないから。周りの声を気にしない性格だから。
そして遊びも制服も暴力も、私を責める人間がいない。叱るヒトがいない。友達が絡めば楽しんでくれるし、以前アゼルが言ったように、私が怒りから起こす行動は──たとえそれが暴力でも、もしかするとそれほど間違っていなくて、周りに正当化されている。
それでもアゼルは、それをなおせと言った。理由はわかる。また以前のようになりたくないからだ。
どういうことになるのかはよくわかった──土曜のあれはただの一例で、あの時は彼は期待してないから、ああいうのはかまわないらしいけれど。
期待させて裏切れば彼がどうなるのかも、今は、身に染みてわかっている。短気ですぐに怒る性格がそれを隠してはいるけれど、実はずっと繊細らしい。
約二週間のあいだ、アゼルと話す時、とにかくよく考えずになにかを言うことを控えようと必死だった。彼は意外と根気強く、アリかナシかの判断につきあってくれた。
口の悪さをなおせと言っているわけではない。性格の悪さをどうにかしろと言っているわけでもない。軽はずみな言動を、ふたりのあいだでの、期待させて裏切ることになる可能性のある言動を、避けろと言っているだけ。
だけど、それはかなり難しかった。
私は、“考えたくない人間”だから。
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終業式の日。
私は約束どおり、学校指定のセーラー服を着て式を終えた。
このあとの合コン的なものに参加する同級生たちは、かなりそわそわしていた。それも朝からだ。数人は、誘っていない他の同級生たちに持ってきたお菓子やジュースを見つかってしまい、言い訳できず、なぜか私のところに逃げこんできた。
しかたがないので、“学校にお菓子じゃジュースを持ってきて、誰かに見つかったらそれをゲーム参加メンバーに献上するというゲームをしている”などと、デタラメにも程があるデタラメな説明をした。
合コン的なものの開始時間は、早めに切りあげられたLHRが終わってから、三十分ほどの猶予を持たせた。午後十二時にB組に集合だ。こういった日の生徒たちは、早く帰ろうとする生徒たちが圧倒的に多い。
誘っていないクラスメイトに早く帰れと無言の視線を送りながら、教室のカーテンを閉めた。早く準備をしてしまいたかったのだが、私とゲルトとガルセスが一緒に残っていたせいか、ハヌルはなかなか帰ろうとしなかった。けれどもアニタが来るとそうでもなく、ハヌルは舌打ちしたそうな表情で帰っていった。
十二時少し前。
続々と集まってくる参加者たちから、カードを男女別、色別に回収し、お菓子を並べてもらった。三百フラム以上五百フラム以下でと条件をつけたものの、種類はいろいろ、大量だった。ゴミは増やしたくなかったけれど必要だからしょうがないことにし、教室中央に並べた十数脚の机の上にペーパートレイとペーパーカップを用意した。
アニタが仕切れば準備は早い。彼女は笑顔でテキパキと仕切れる。友達が多い。アドレス交換などというゲームは実は、彼女には必要ない。訊こうと思えば訊けるのだから。必要ないと言えば、私にも必要はない。だって私、興味がない。なので自分のアドレスは用意せずにいた。どうせ人数が余るので、バレないだろう。
全員が集まったところで教室のドアの鍵を閉めてもらい、私はカードが入った紙袋を一度担任のデスクに置いて、ポップ・ロックの音楽を程よい音量で再生した。
「とりあえず全員、ジュース持って!」教卓横に立ったアニタが叫ぶように言った。「乾杯する!」
私はジュースの入ったを一旦教師用デスクに置いてそこにあがると、再びペーパーカップを右手に持って立ち上がった。愚民共を見下ろす。
「いい眺め。やっぱ角って最高だよね」
この教室内、中央に寄せ集めた机を境界にして、見事男女左右に分かれている。女が窓側、男が廊下側だ。
彼らは苦笑ったものの、アニタは私に怒った。
「ちょっと!仕切る気ないくせに、なんであたしより目立つのよ!」
笑われながら、彼女もどうにか教卓にのぼった。静かにしろと合図するよう、大げさに喉を鳴らす。
「とりあえず」左手を腰に添え、右手に持ったジュース入りのペーパーカップを高々と前に掲げる。「ちょっと早いけど、これは合コンじゃなくてあくまでメリクリ忘年会。思春期なんて関係なく、昔みたいに、男女みんなが仲良く話せるようにっていう会。それから、やっと慣れてきた中学生活に。乾杯!」
アニタがそう言うと、彼らは笑顔で最後の言葉を繰り返した。
「時間ないからさっさとゲームの説明するよ!」
彼女はあまり威張れない王様ゲームのルールを説明した。
私たちは回収したカードを、男女別、ジャンル別にして、それぞれ色の違う紙袋に入れた。
まずは男女別に王様と番号を決めるため、クジを引く。王様は男女二人ずつ、残りは番号だ。なにを思ったのか、私たちはこのクジを、プラスティックのスプーンで作った。
四人の王様が前に出る。これは誰からでもかまわないのだが、どのジャンルのカードを使うか決めたうえで番号をコールする。コールするのは異性限定。
誕生日カードの場合──コールされた番号スプーンを持つ人間が、異性の誕生日袋の中からカードの入った封筒をひとつ選んで開ける。カードには直筆で名前と誕生日が書かれているから、それを読みあげたうえで、三百フラム以下と決めて全員にひとつずつ用意してもらったプレゼントを相手に渡す。
ただしコールされるのが二度目以降でプレゼントが残っていない場合、罰ゲームのようになる。お菓子をひとつ選んで、相手の口に運ばなければならない。スティック歌詞のような細長いお菓子があるとはいえ、これは食べさせられた側にとっても罰ゲーム気分だ。プレゼントをもらえないうえ、さらに恥と冷やかしを受ける可能性が高い。
ちなみに一度もコールされず用意したプレゼントが手元に残っていた場合、最後のプレゼント交換にまわす。
秘密暴露カードの場合──これは暴露する人間の名前を書いていない。王様が異性の秘密袋からカードを引き、その秘密を誰のものかわからないまま、全員の前で発表する。発表された本人は、過度に反応するとバレるので要注意。
メールアドレスの場合──コールされた番号スプーンを持つ人間が、異性のアドレス袋の中から封筒をひとつ選ぶ。引いたカードが名有り入りアドレスだった場合、どうしようと自由。その場ではアクションを起こさないことを条件とする。あとからこっそり送るもよし、破棄してもよし。ただし個人情報になるため、破棄する場合は注意を払うこと。
そしてそれが名無しアドレスだった場合、その場でメールを、しかも電話番号つきで送らなければならない。全員携帯電話を中央の机の上に出していて、送り主は誰の携帯電話が鳴るのかとドキドキすることになるし、異性は自分の携帯電話が鳴るかどうかでいちいちドキドキすることになる。相手のアドレスや番号が欲しくても欲しくなくてもだ。しかもメールを受け取った場合、相手にメールを、やはり電話番号つきで返さなければならない。返したくても返したくなくてもだ。
そして王様は自分を指名することはできないけれど、同じターンの別の王様を指名することはできる。
これが私とアニタ流、天国と地獄、王様が威張れない王様ゲームだ。
アニタがルールを説明し終わると、“プレゼントが残っていない場合はお菓子を食べさせる”というルールに、彼らは少々不安げな声をあげた。おそらく、好きな相手に対してなら、ドキドキして楽しいのだろうが──そうでなければ、という。
アニタはすでに教卓からおりている。「ベラはできるよね」
私もすでにデスクからおりている。「できるから言いだしたのよ」ジュースを机に置き、並べたお菓子の中からチョコレート味のスティック歌詞を二本取ると、タスカを指で招いた。「来い、タスカ」
「お前、ヒトを犬扱いするのやめてくれる? せめて大勢の前ではやめてくれる?」
彼が呆れ顔で言い、全員が苦笑った。
無視した。「このために、私はこのお菓子を大量買いしたのよ」
机に左手をついて身を乗り出し、テーブルの向かいで同じく身を乗り出したタスカの口にポッキーを運んだ。彼は平然とそれを食べる。
「これだけ」
私が体勢を戻すと、ひとりのA組女子が安堵の表情を浮かべた。
「ああ、それならできる。なんか、指まで食べられそうな勢いなのかと思ってた」
それでまたみんなが苦笑い、だがうなずいた。
「なんなら、これでもいい」
そう言って、私は一粒二センチ弱のスナックをチョコレートでコーティングしたボール型のお菓子を取り、彼らに見せた。
「ガル、いくよ」
ガルセスも向かいにいる。「あんまうしろに投げるなよ。頭ぶつけたらキレるからな」
「わかってる」
彼が口で直接キャッチできるよう、私は少し高めにチョコ菓子を投げた。彼はほとんど動かずにそれを口でキャッチし、そのまま食べた。
思わずか、全員が関心の声をあげた。
「さすが抜群のコントロール」と、ガルセス。
「余裕」
これは私のというより、ガルセスの得意技だ。小学校の時になんとなくはじめたことだったが、ゲルトよりもそれがうまくできる彼に私は関心し、おもしろがって、機会があれば何度も繰り返していた。ゲルトよりも私のほうがうまく投げられたというのもある。
アニタが苦笑う。「けどそれはさすがに怖いな。頭ぶつけたくないし、ぶつけてほしくもないし。っていうか完璧にできるのはたぶん、あんたらだけだし」
彼らは苦笑いながら同意した。
ほとんどの女は無理だろうというのはわかる。それにこれは、投げる側のコントロールも必要になる。「ま、スティック菓子が妥当よね」
「よし、とりあえずやろうか」
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立ったままだったり椅子に座ったりしてお菓子を食べながら、アニタの指揮でさっそくゲームがはじまった。多少の好き嫌いはあるだろうものの、そこまで嫌がられる人間を集めたつもりはない。たぶん。
文化祭はどのクラスも、ほとんどを女子が仕切り、気弱か、ガルセスのように比較的話しかけやすくてやさしい男がそれを手伝わされる結果になっていた。他の連中は準備の場にいたとしても、手伝ったりせず雑談しているだけの状態だ。女子は男子の意見など無視し、男子は言われたことを文句を言いながらやるだけ。そんな具合だったので、クラスが一丸となって盛り上げたように見えた文化祭も、蓋を開けてみれば実際は、ほとんどが女子の独壇場だ。
文化祭が終われば、男女が仲良く話すなどということはやはりしなくなった。こういう、少々無理やりなことでもしなければ、みんな話せないらしい。思春期なのかなんなのかは知らないけれど、ものすごくくだらないとは思う。
思いの他盛り上がる中、何度目かのターンでタスカの携帯電話が鳴り、ゲルトはプレゼントを渡し、ガルセスはメールをもらった。
アニタは、なにが起きてもいちいち大笑いしていた。尊敬するほど楽しいことが大好きで、仕切り上手の盛り上げ上手だ。私のめちゃくちゃな発想も、彼女は楽しい“遊び”に変えてくれる。
「このターンの最後、女王ベラ!」担任のデスク脇に立ったアニタが声をあげた。教卓横にいる私に言う。「カードと番号選んで」
「女王言うな。王様って言え」
「どっちも変わらないから。さっさとしろ」
笑いが溢れた。
私は“アドレス”を選び、“十番”をコールした。
「十番男子!」彼女は笑顔で呼びかける。「誰?」
「俺」カーツァーが前に出てきた。「アドレス怖いんだけど」
アニタと二人で促す。「いいから引け」
彼は女子のアドレス紙袋から封筒をひとつ引き、開けた。カードを見る。
「名無しだし!」
男子たちは笑った。女子がざわつく。特にナンネはそわそわしはじめた。
「送れ、早く」
私がそう言うと、カーツァーはカードに書かれたアドレスを宛先に、そして本文に自分の電話番号を携帯電話に打ち込みはじめた。
「できた。送信──した!」
全員が静まり返る。そして、携帯電話が鳴った。
これにはさすがに驚いた。ナンネだ。周りにいた女子数名はナンネを冷やかし、男子はやはりからかう声をあげた。アドレスはたいていこうなる。だがカーツァーは過剰に反応することもなく、いつものように冷静だ。
「ナンネ、返事送って!」
さっそくアニタが促すと、彼女は彼の携帯電話にメールを送った。
隣に立つカーツァーが声を潜めて私に訊く。「今登録すんの? これ」
「しなきゃゲームの意味ないじゃん」と、私。
「あ、そ」
彼は携帯電話を操作しながら男子陣のほうへと戻った。
「よし、次!」アニタが言った。「クジ戻して引いて! 次の王様決める!」
ナンネは、言葉にはしなかったものの、ものすごく嬉しそうな表情で無言のまま感謝の視線をこちらに送った。感謝されるようなことは私はしていないし、ただの運だと思うのだが。少々おもしろかった。
また何度目かのターン、私はウサギのマスコットがついた女子小学生向けだろうシャープペンシルをプレゼントとしてタスカに渡して絶句させ、マーニに電話番号つきでメールを送り、返事をもらってひとまず登録、“三年の男とつきあっている”と書いた、秘密ではない秘密が暴露された。
ダメージはない。つきあっているのかどうかがはっきりとわからないだけで、部活をしているわけではないのに三年とまともに絡んでいるのは私だけだと、ほとんどの人間が知っている。女子数名からなぜか、アゼルとマスティ、どちらかと訊かれた。アゼルだと答えると、なぜか甲高い声で騒がれた。そしてものすごく羨ましがられた。
そんな容赦ないゲームが終わりに近づく頃には、机は挟んでいるものの、男女関係なく話をしていた。何人かの女子は手当たりしだいにメールアドレスを訊いていたし、小学校の時の話をする子たちもいた。とても懐かしい光景のような気がした。
ついででがあるが、女子特有の“手当たりしだい”は、私にも影響があった。どうせ連絡をとることなどないのに、メールアドレスや電話番号を訊かれるのだ。目的はただひとつ、メモリー件数を増やすためだ。面倒だと思っていると、アニタが代わりに登録してくれた。
ゲームが終わると、最後にアニタの指揮のもと、クリスマスプレゼントを交換。
男女で色を分けた小ぶりな紙袋を人数分用意し、その中に収まるプレゼントを五百フラム以下でという条件をつけて彼らに渡していた。軽いものも重いものもある。それは教室に来てすぐ、男女別に一箇所にまとめてもらっていた。
あまったプレゼントは適当な紙袋の中に入れてもらい、集めた紙袋を適当にシャッフルすると、男女別で、王様ゲームで使ったクジを使い、王様スプーンを引いた人間からあとは番号順に、やりなおしなしの直感で異性からのプレゼントを選んでもらった。
そのプレゼントには贈り主の名前と電話番号を書いたカードが入っていて、受け取った側がそれを贈り主に報告するか、相手の番号を登録し電話をするか、というのは自由。ただし学校を出るまで開けないことという条件だ。なんとなく。ついでに私は、もらったプレゼントを女子のひとりにあげた。なんとなく。
その後あまった少しの時間、男女関係なく話をしつつ、なぜかアニタと女子数名がカラオケをはじめ、最後にもう一度乾杯して解散した。
私とアニタはゲルトたちも先に帰らせ、あと片づけをすべて引き受けた。彼らがいるとついついふざけてしまうので、進むものも進まない。
片づけと床掃除を終え、ゴミは焼却炉に捨てていいと言われたのでそうして、職員室に残っていた担任と生徒指導主事、学年主任に、無事終了しましたと報告に行った。そしてなぜかクッキーと紅茶をもらって団欒。その話の中でわかったのだが、実は途中、担任と主事が覗きにきていたらしい。まったく気づかなかった。
メールアドレスを交換した女たちからは感謝メールが届いていた。またやりたいと。もう二度とごめんだ。誰がやるか。
その後アニタを迎えにきてくれたアニタママに送ってもらい、へとへとの状態で祖母の家へと帰った。




