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R E D - D I S K 0 1  作者: awa
CHAPTER 01 * ENDING AND BEGINNING
6/91

* Class Presentation

 ウェスト・キャッスル中学校はキャッスル・ロードに沿うよう、オールド・キャッスル側にある。だが正門と裏門があるのはキャッスル・ロード側ではなくオールド・キャッスル地区の通り沿いで、キャッスル・ロードに近いほうが裏門となっている。位置的には、ウェスト・キャッスルのほぼ中心といえるだろう。町の面積としては、オールド・キャッスルよりもニュー・キャッスルのほうがいくらか広いけれど。

 中学校は、私たちが入学する前に建て替えや外壁の塗り替えでキレイになった小学校と違い、古いままだ。そして祖母の家からなら、徒歩でもたったの四、五分ほどで着いてしまう。

 クラス割り発表は午前十時からだった。発表といっても、正門の正面にある体育館の窓に、クラスと名前を記した紙が張り出され、それを各自勝手に確認するだけで、私たちの学年は人数が少なく、AからDまでの四クラスだけしかない。

 すでに集まっていた同級生の何人かと軽い挨拶を交わしながら、A組から順番にリストを見ていき、アニタと一緒に自分たちの名前を探した。当然、誰がどのクラスになるかというのも知ることになる。

 A組リストに自分たちの名前を見つけられず、B組リストに移った。

 すると、左隣でアニタがリストを指差した。

 「あ、あったじゃん。。“イザベラ・グラール”」

 彼女の指先に、こちらも自分の名前を確認した。

 「ほんとだ」フルネームで呼ぶな。「同じクラスなのは──」

 「げ」

 私たちは二人一緒に声を揃えた。女子欄に見たくない名前があったのだ。

 自分の名前がB組リストにないとわかった彼女がからかうようにこちらに言う。「ご愁傷様」

 私は舌打ちした。「マジ最悪」

 彼女は笑っている。「中学に入ったんだから、あのアホの嘘もちょっとは成長するかもよ」

 「もう話したくないんだけど。っていうか顔も見たくない。嘘とかどうでもいいし」

 「あ、ベラ」後方で声がした。「おはよ」

 振り返ると、噂をすればなんとやら状態、ハヌル・トロホヴスキーと同級生の女二人が立っていた。死ねと思った。

 私は「おはよ」とだけ返す。

 アニタが私の腕を肘でつつく。

 「早く。続き行こ」

 彼女は本気でキライな相手に曖昧な態度をとったりしない。その気になれば、わりとはっきりとキライだという態度を示す。そしてそれはハヌルが一番影響を受ける。おそらくハヌルも気づいていて、だからなのか、自分からアニタに話しかけるようなことはほとんどしない。

 私もそれなりにそういう態度をとっているつもりなのに、なぜか話しかけられる。どうすればいいのかわからない。

 そしてハヌルは、連れ二人のリーダーのような顔をしているけれど、私たちはその二人に関心というものがない。仲よくもないので、わざわざ挨拶したりもしない。ちなみにその二人は、小学校一年生の時になにを思ったか絵の具を食べ、白色が一番おいしいということを発見したなどという逸話を持っている。小学校入学と同時に渡された、ブルーの容器にイエローの蓋というプラスチック製ケースに入った澱粉糊がおいしいということを発見したのもその二人だ。

 「さ、気をとりなおして」

 C組リストの前に立ったアニタは腕を組み、睨むようにリストに目を通した。かなり真剣だ。

 私はもう見る気にならなかった。同じクラスに仲のいい男友達が二人いるという安心より、しょっぱなからハヌルと同じクラスになったということにひどいショックを受けていた。

 「ベラ。おはよ」

 また声がしてひとり振り返ると、今度はナンネがいた。

 続いてジョンアも彼女の右隣に立つ。「ハイ」

 「おはよ」と挨拶を返すと、私はナンネから、小柄で黒髪ショートカットのジョンアへと視線をうつした。「ジョンア、あんたの名前、A組で見つけた」

 「ほんと? イザベラは?」

 「ベラでいいって」自分の名前は好きではない。どうも気取っている感じがする。「私はB組」クソ女と一緒。

 「あたしは?」

 ナンネが訊いた。彼女はぽっちゃりとしている。私と同じ、ウェーブがかったクセのある赤毛だが、種類が違う。茶色っぽい赤だ。

 「ナンネはC組だね」アニタが答えた。顔をしかめてこちらに言う。「あたしはどうやらD組らしいわ」

 「あーあ。ビリケツか」と、私はわけのわからない言葉を返した。

 「ビリ言うな。Aが偉いみたいに言うな」

 「Aが偉いわけじゃない。一番偉いのは私だから」

 「は? なに言って──」

 「おっはよー。みんな揃ってるね」

 ナンネとジョンアの後方から、前に突き出した手を笑顔で振るエルミが現れた。ハヌルに次ぐ嘘つきで調子のいい首長女だ。首が長いだけでなく、頭の傾け方によっては首の皮に少しシワができる。骨さえ赦せば首はさらに伸びるらしい。

 エルミはジョンアの隣に立った。「もう名前見つけた?」

 消えろアホ女。「自分たちのはね」

 アニタは少々引きつった表情を彼女に向けた。

 「あんたはたぶんD組。たぶんだけど」

 思わず私の口元がゆるむ。「ざまあ」

 彼女にしか聞こえないくらいの小さな声で私が言うと、アニタは笑顔で私の腕を軽くつねった。痛い。

 「マジ? まあ一応Aから見ていくわ」エルミが視線をこちらにうつす。「っていうかベラ、家の番号変わった? 昨日電話したけど、通じなかった」

 「変わった。なんか用だった?」

 「や、これ一緒に見に行こうって誘うつもりだったんだけど。まあいいかと思って、一人で寂しく来た」

 激しく拒否する。「そ。新しい番号覚えてないから、入学式の時に教える」

 さらりと嘘をついた。ポケットに入れた携帯電話が鳴ったらアウトだ。マナーモードにはしているけれど。

 「とりあえずベラ」アニタが切りだした。「D組であたしの名前確認して、どっか行こ」

 どこかというか、私の祖母の家。「はいはい」


 一緒に遊ぼうと誘ってきたエルミからどうにか逃げ、私たちはランチを買ってから祖母の家へと向かった。

 アニタは、その屋根裏部屋にとても感動していた。彼女は秘密基地的なものが好きだ。というか、キライなものよりも好きなもののほうが圧倒的に多い。

 私が祖母とどういう距離をとればいいのかわからず、仲良く話す気にもなれないと言うと、祖母が帰ってくる夕方前に帰って行った。遠慮はないが、根はやさしい。

 この一週間、私は祖母と一緒に朝食を食べ、仕事に行くのを見送り、そのあいだにしなくてもいいと言われた家事をそれなりにし、ひそかな企みを実行して、わかりきっていた結果に溜め息をつきつつ、三度リーズたちに会い、祖母と夕食を食べ、少し話をしてさっさとシャワーを浴び、自分の部屋に戻るという日々を送っていた。祖母の家での私は、まるでロボットだった。

 ここを追い出されればもう、施設しかないということはわかっている。だからできるだけ波風が立たないようにした。だからリーズたちにも、祖母と会ってほしいなどということは言わなかった。

 リーズは確かに祖母を知っていて、祖母もリーズがどんな小学生だったかを知っているが、彼女が中学に入学してからはそれほど親しいというわけではなくなったという。今は会えば挨拶して、少し話す程度。リーズがそんななので、家が離れているニコラは顔見知り程度にしか祖母のことを知らず、むしろ三人で話すだけのほうが気兼ねしなくてよかった。

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