* Making Plan
第三校舎二階、D組の教室の前にあるベランダ前フロアにアニタを呼び出した。マーニはタスカとカーツァーに、私がなにかを企んでいると言っていたらしく、私に気づくなり、三人揃ってフロアに出てきた。
うるさくなりそうだったので場所を変更、ベランダにて、職員室でのことをざっくりと四人に話した。
話し終えると、マーニは私の目の前で唖然とした。
「マジで? その許可、ひとりで取りに行ったわけ?」
私はコンクリートの手すり壁にもたれ、タスカにもらったガムを食べている。といっても、ゲルトの誕生日に私があげたガムですが。
「行ったわよ。担任と学年主任と生徒指導主事を相手に、思いつきばかりをポンポン並べて。自分でも笑いだしそうなくらい立派だった。いや、マジで」
右隣、カーツァーは笑っている。「こいつはこういう奴なの」
マーニの横でタスカが補足する。「突拍子もないことを思いついて、しかもそれを平気で実行するような奴。バスケットボールでサッカーしようとか言い出す奴」
私の左隣、アニタはけらけらと笑った。
「あれ、超足痛かったよね」
私もうなずいた。「しかも先生に怒られたよね。バスケットボールは蹴るもんじゃない! とか。知ってるっつーのに」
マーニはさらに呆れた顔になった。「アホすぎだろ」
「うるさいよ」と答えてアニタに訊く。「んで、どうすんの? あんたはデート?」
彼女はしかめっつらを見せた。「そんなんそっちに決まってんじゃん。冬休みに入るし。デートっつったって、体育館シューズ持って帰らないといけないし。そんなんでデートなんかしたくないし」
「それはイヤだな」タスカが言う。「宿題は少ないらしいけど、両方が体育館シューズ持ったままってのはないわ」
「シューズなんて前日に持って帰ればいい。式の時は間違って持って帰りましたっつって、先生たちと一緒にスリッパ履けばいいじゃない」
私が言うと、彼らはなぜか笑った。
「ほらな、こういう奴」と、カーツァー。
マーニは苦笑っている。「ズレてるな。なんかズレてるよな」
「褒め言葉として受け取っとく。で、誰を呼ぶかはこっちで決める。けど可愛いとかアドレス知りたいとか話したいとかいう女がいるなら、そいつらも呼べるよう努力はしてみる。今日の放課後には担任から返事がもらえるから、それで許可が出たらの話だけど、ほぼ確定だとは思う。具体的なことはアニタと二人で決める」
「当然ゲーム的なこと、するよね」アニタが私に言った。
「そんな大げさなもんじゃないけど、一応する。でもくだらないビンゴゲームとかじゃない。アドレスと電話番号を賭けたようなやつ」
カーツァーが口をはさむ。「怖いんだけど。お前ら二人の発想は怖い」
私は彼の肩に右腕を乗せ、微笑んだ。
「それで楽しくなかったこと、あった?」
彼は考えるような表情で一度視線をそらし、またこちらに戻した。
「まあ、思い返せば楽しかったとしか」
「でしょ」腕を組んで再び手すり壁に背をあずけた。「私は情報屋になるつもりも仲介屋になる気もない。でも直接訊けないっていうなら、みんなにチャンスをあげる。知りたくない奴の知りたくない情報まで知ることができるかもしれないゲームを考える」
アニタは笑顔で私の腰に右腕をまわした。
「ゾクゾクしてきた。久々にタッグ組める」
「怖いからそういう言いかたやめろって」タスカが言う。「けっきょく楽しいことになるのはわかってるけど、なにやらされるかってビクビクするこっちの身にもなれよ」
私たちは顔を見合わせて口元をゆるめ、彼に向かって声を揃えた。
「終わりよければすべてよし!」
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放課後、担任から正式に許可をもらった。
あと片づけをして十五時までには下校することと、私は当日、学校指定の制服を着てくることを条件として。ゲルトとガルセスには一応の報告をしたものの、全員に口止めしてある。
誰もいなくなったB組の教室にアニタと二人で残り、ゲームの内容を考えることにした。クリスマスのプレゼント交換もするとをアニタが言いだし、その方法も考えなければいけなくなった。
私は案を出した。「みんなに番号とアドレス、誕生日、秘密をひとつずつ書かせる。それを参加条件にする」
アニタはひとつ前、ゲルトの席に横を向いて座り、肘を私の机に寝かせている。「秘密ってなに? どんな?」
私だけがアゼルに秘密をぶっちゃけるなどというのは不公平だ。
「それほど大きくなくていいけど、小さくもない秘密。小学校二年の時に誰が好きだったとか、初恋は誰とか、体重は何キロだったとか、テストが何点だったとか。あんまヒトに言ってないこと。暴露的」
「あんたぜんぜんダメージないじゃん」
皆無だ。「知ったとしても他言しないことっていうのは絶対条件だよね。まあ、他言されても今は違うって言い訳できるようなものでもいいってことにする。私の場合、アゼルとつきあってるってのでもじゅうぶん秘密扱いできるわけだけど」
彼女は笑った。
「余裕すぎる。秘密じゃないけど、みんなに触れまわってるわけでもないから秘密扱いできるわけだ。あたしもそんなのでいいか。で? それをどうすんの?」
「方法はいくつかあるよね。男女別に袋に入れて、ゲームに勝った奴がそれを引いていく。もしくは王様ゲーム的に全員がクジを引いて、王様になった奴が、何番が何番にアドレスを教えるとか誕生日を教えるとかってのを命令する、とか」
「あ、王様ゲームいいね。クジを男女別にしておけばいいんだ。なんならアドレスとか秘密とかってのは、ジャンル別にして集めておいてもいいよね。命令を受けたヒトが命令されたジャンルのカードを引く。人数が多ければ、王様は何人かにすればいいし」
「でも欲張りな王様は、自分ばっかりアドレスを頂こうとするような」
「そこはもう、王様に禁止令出すしかないかと。王様なのに天下じゃないっていうね」
納得した。「最高。どうせ二時間か三時間くらいしかないし、あとのことは本人たちしだいだよね。その場で直接アドレス訊いても文句は言わない。どっちかっつーと、私は知りたくもない相手のアドレスや秘密を知ることになるっていう、残念な状況を目撃したい」
「あたしも」彼女は笑ったものの、しかめっつらを見せた。「でもうちらが知りたくないアドレスを手に入れたらどうすんの? 逆に知られたりとか」
「そんな相手を呼ばなきゃいい。誰を呼ぶかは私たちが決められる。女を中心にヒトを集める。私にゲルトたちのことを訊いてきた奴ら。気になる男がいるのに、ロクに話せなくなっちゃってる奴ら。私たちがキライな奴らは呼ばないけど。そういうのから誰を呼びたいか訊いて、他の男を集める。
私はカップルを作りたいわけじゃない。誰と誰がくっつこうが、そんなのはどうでもいいから。でも昔みたいに、男女構わず話せる状態になればいいとは思う。そういうのがなくなったから、私が相変わらずゲルトたちと話してることに違和感を持つ人間がいるわけでしょ。そういうのをどうにかしたい」
彼女は苦笑った。
「みんな思春期なんだよ。あたしもベラがいないと、あんま話さなくはなってる。教室でいると女子は女子、男子は男子でかたまってるし。たまにね、タスカとカーツと三人で話すこともあるんだけど、やっぱみんなうるさいし、いちいちなんか言ってくるんだ。二人は気にしてないみたいだけど。今はマーニ入れて、あの三人には休み時間とか、よくエデたちがつきまとってるし、よけい話せないってのはある。思春期ってこんななのかなって、なんかもう、ね」
うん、わかる。「なんだかんだで、四年の頃がいちばん楽しかったよね」家は地獄だったけれど。「まあ、あの頃もアホ共の勘違いはよくあったけど。それでも私ら、なにも考えずに一緒にいたもん」
「だね」と、彼女は懐かしむ様子で同意した。「っていうか、ベラのおかげ。ベラがずっと、ゲルトと仲よかったから。そこからガルにもタスカにもカーツにもつながったんだもん。二人がいなかったら今頃、あたしもまったく話せない側になってたかも」
「私はあんたにもゲルトにも感謝してるけどね。家のことがぐちゃぐちゃになってる時でも、学校では普通に笑えたもん。小学校三年の冬とかはガルも一緒に、夕方まで遊ぶのにつきあってくれたし」
「だって楽しいもん。一時は放課後、毎日のように鬼ごっこしてたよね。四年の時はドッジボール。カーツとタスカも混じって、他の子も入ったりして、どんだけっていうくらい。まさか数年後、話すにもいちいち周りの目を気にしなきゃならなくなるとは思ってなかった。」
私も思わなかった。「だね。って、私は特に気にしてないけど」
「ベラはもうちょっと気にしたほうがいいと思う。しょっちゅうゲルトとガルと三人で話してるでしょ。先輩が気にするかもしれないじゃん」
アゼルのことを言っているのか。「まさか。仲いいのは知ってる。ゲルトとガルはたまに、マスティやブルが話しかけるから」ドッジボール週間から、なぜか。「そこにアゼルもいる。話を聞く限りじゃ、不機嫌じゃなくて普通に話してる。私はアゼルたちから、小学校時代の話をあいつらに聞いたってのを報告される。ものすごく笑いのネタにされてる」
これは本当だ。文化祭の経緯や結果も、そこからアゼルたちに伝わった。
アニタは肩をすくませた。
「なんだ。じゃああたしのとこだけなのかな。なんか先輩、男友達の話すると、あんま楽しそうじゃなくなるんだよね。すぐ話題変えて、そしたらいつもどおりになるんだけど」
「わりと面倒な感じ?」
「わりとね。ま、べつにいいんだけど。っていうかすっかり忘れてた。どこまで話したっけ」
はっとした。話が脱線しすぎている。「王様ゲームだよ。あれだよね、名前とか書かなくてもいいかも。誕生日は名前書いてもいいけど、あとは名前なし。アドレスにも秘密暴露にも。言わなきゃ誰のかわかんない。アドレスはメールを送ってみるまで相手が誰だかわかんない。しかも電話番号もつけてメール送らなきゃいけない」
彼女はまた笑う。
「怖いな。マジ怖い。でもそれはそれで楽しい気がする。んじゃ、名前書いてるのと書いてないの、ふたつ用意すれば? したら確率上がるし、アドレス交換ていうのをメインにできる。交換て、交換じゃないけど」
「そうしようか。名前書いてあるほうは、みんなの前で公開しない。送りたければあとから送る。ただし名無しのアドレスだったら、その場でメールを送る。冷やかしが超うざそうだけど、ゲームだからそういうのもないとね。携帯電話を持ってる奴限定になるけど、今はわりとみんな持ってるみたいだからたぶん平気。そういうのを書くカードや封筒なんかは、私が用意する。あとは王様ゲーム用の番号のを作る。ちゃんと誰を呼ぶかを決めて──」
「ああ、やばい」アニタは興奮した様子で言った。「早く作りたい。今からうちに来る?」
「おばあちゃんに会ってみる?」
彼女はきょとんとした。「え、会わせてくれるの? 平気?」
「うん、もう平気。たぶん喜ぶ。おばあちゃんも車あるから、帰りは送ってもらえると思う。夕食を一緒にって言われるかもしれないけど」
「おいしいんだよね」
「おいしい。手が込んでる」
「よし。行く。ママにメールする」
文房具店で買い物を済ませると、祖母の家でさっそく、小道具作りをはじめた。
仕事から帰ってきた祖母は、私がはじめて友達を連れてきたということに、とても喜んでくれた。メールを入れていたこともあり、やはりアニタを夕食に誘った。彼女は笑顔で誘いに乗り、私が半年間言えなかった言葉をすらすらと並べ、料理を絶賛した。
そのあとまた作業に戻り、誘いをかける人間に検討をつけて説明書的なものも作成、それはアニタが家でコピーしてカットすることにし、たった数時間でほとんどの段取りと小道具が決まり揃った。方向が決まれば、私たち仕事が早い。小学校六年の時の修学旅行のレクリエーションは、こんな感じだった。
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翌日、授業の合間の休憩時間にアニタが持ってきたカット済みの説明書的なものを、D組の隣にある空き教室に閉じこもって封筒に小分けし、昼休みに携帯電話を持った女たちを条件つきで誘いつつ封筒を渡し、気になる男子グループをアニタがうまく訊き出した。
そして五時限目後の休憩時間と掃除時間、放課後を使い、ゲルトたちに手伝ってもらって、男たちを誘った。もちろん全員に“他言無用”と釘を差して。
人数はぜんぶで二十七人。許せる範囲内だ。女子がひとり多い。つまりは私。その中にエデやサビナは入れていない。彼女たちはアゼルたちやリーズたちのことで、私のことを相当敵視している。最近は声をかけてくることがなくなったものの、睨みの目は相変わらずだ。三年が来ると言えば尻尾を振って飛びつくかもしれないけれど、私はキライな人間にそんな餌をあげるほど親切ではない。というか、呼ばないし。
ナンネは誘った。ジョンアは携帯電話がないからダメで、ハヌルは言うまでもなく拒否。エルミは呼べばやはり飛びつくだろうものの、ブルがいるしウルサイしという理由で拒否することにした。




