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RED - DISK01  作者: awa
CHAPTER 08 * DISAPPOINTING AND DRINKING
53/91

* The Way To Convincing

 気づけば朝の八時を過ぎていた。何度か物音が聞こえていて、気づくたびにそれを無視して眠っていたのだけれど、また音がしたことに気づいて起き、もう熟睡は無理だと諦めた。

 ニコラはテーブルに背を向けて眠っていて、ブルは二人掛けソファに背をあずけ、眠そうな表情で煙草を吸っていた。こちらに気づく。

 「なんでお前がいんの?」

 なぜだったかと、理由を考えた。思い出した。「マスティに起こされてベッド奪われた」

 彼は笑った。「最悪だな」

 「かなり」

 身体を起こしてあくびをした。当然、眠い。太陽の光を浴びるカーテンを閉めたまま、うしろの窓を少し開けた。煙草の煙がこもるのは好きではない。

 私はブルに訊いた。「身体、痛くないの?」

 「すげえ痛い」と、ぐるりと首をまわした。「ニコラが潰れたとこまでは覚えてんだけど、それから記憶ねえんだよ」渋い顔で煙草を吸い、煙を吐き出す。「なんの話したかもよく覚えてねえ。しかもどうやら昨日買ったビール、ぜんぶ飲んだっぽいし」

 テーブルだけではなく、テレビボードの前にも十数本の空き缶がまとめられている。私が寝る前に片した空き缶のことも考えると、けっこうな量だ。

 誰も吐いてないのかと訊くと、たぶんという答えが返ってきた。彼はもう一度煙草を吸い、灰皿にある火消しに入れた。そのシルバーの大きな灰皿でさえ、吸殻が大量だ。

 私は床に腰をおろし、ニコラたちが買ってきたお酒が入っていたビニール袋を広げて、音をたてないよう少々気を遣いつつ、缶を軽く潰しながら袋に集めはじめた。

 「酒は飲んでも呑まれるなって言葉、知らないの?」と、私。

 「知ってるけどお前、ニコラもリーズも酷かったんだぞ。男の服なんてぜんぶ燃やして灰にしろとか言ってたし」

 「まあ服装が残念なのはアレだけど、無頓着よりはいいと思うんだけどね。すごいお洒落になる可能性だって秘めてるわけだから」

 「けどそれをどうやってわからせるかが問題なわけだろ。だからこいつらはヤケになった。こればっかりは、クソみたいなセンス持ってるより、無頓着のほうがいい気がする」

 難しいところだ。袋がいっぱいになり、脇に転がっていたビニール袋をもうひとつ取ると、それを広げた。

 「だったら、ハッキリ言えばいいんじゃないの?」再び空き缶を入れていく。「悪口じゃなくてよくなってほしくて言うわけだから、この服ならこれを合わせたほうがいい、みたいな」

 彼は苦笑った。

 「そこまでのセンスがないから、よけい言えないんだろ。お前の服使ってごまかしはしたけど、こいつらは無頓着側。オレらも無頓着側だし、服なんてなんでもいいだろとは思う。けど限度がある。お前は他人からどう思われようと関係ないって意識なのに、アレになってるわけだろ? それはセンスがいいから。だから誰もなにも言わない。でもこいつらのオトコは違う。意識してんのか無頓着なのは知らねえけど、センスがないからダサくなる。度を越えてるからこいつらもお手上げ」

 センスと言われても。「だったら、どうせもうダサいからって理由で切るつもりなら、最後にダサいって言ってやればいい。ついでに参考になりそうな雑誌を突きつけるとか、会うのすらイヤなら、メールでファッション誌の画像を大量に送りつけるとかして。それで相手が目覚めて戻ってくればよし。目覚めても目覚めなくても、キレて戻ってこないなら、それまでってことでしょ」

 「なるほどな。それがいちばんかも」

 「──だよね」突然ニコラがつぶやいた。勢いよく身体を起こしてこちらを向く。「そうする。“あんたらの服ダセえんだよ!”ってメール送る。本屋行ってファッション雑誌買って、写真撮って、メールで送りまくる」

 いろいろと頭が働かず、私はなにを言えばいいのかわからなかった。「えーと?」

 彼女はリビングを見まわした。「リーズは?」

 「マスティの部屋で寝てる」“の”? 「マスティはアゼルの部屋で寝てる」“の”ってなに?

 「ああ」倒れるようにして再びソファに横になると、ニコラは額を抑えて目を閉じた。「──頭痛い」

 「二日酔いだアホ」ブルが言った。「薬なんかねえぞ」

 彼女は低い声でうなる。「最悪だ。飲みすぎた」

 あーあ。「狭くてもいいならリーズと一緒に寝たら? コンビニで二日酔いの薬、買ってくるから」

 「んー」またゆっくりと身体を起こす。「そうする。ごめん」

 ブルの自転車のうしろに乗せてもらってコンビニに行き、二日酔いに効くらしい薬と、全員ぶんの昼食、ファッション雑誌数冊とお菓子を買ってたまり場に戻った。

 昨日の夜買った朝食を食べながら、ブルと一緒によさそうなメンズ・ファッションが載ったページに折り目をつけていき、意味もなくアリだのナシだのという議論を交わした。

 十時頃アゼルが起きてきて朝食を食べ、そのうちマスティが起きてきて朝食を食べ、ファッション雑誌をおもしろがり、十一時頃になると、なにも覚えていないらしいリーズとニコラが起きてきた。

 なにもなかったということで、私とアゼル、マスティは暗黙の結論を出した。

 やはり頭痛がするらしい二日酔いの彼女たちは、ブランチを済ませて薬を飲み、しばらくはうなだれていたものの、そのうち薬が効いたのか、元気になった。二人で雑誌の写真を何枚も撮り、大量のそれをどんどん男たちに送りつけた。

 満足すると、今度はレディース・ファッション雑誌に目を向け、あれが欲しいこれが欲しいと言い合っていた。男たちからは返信がなかった。けれど二人は気にしなかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 夕方家に帰ると、キッチンにいた祖母は、いつもどおりの笑顔を見せてくれた。

 「おかえり」

 「ただいま」この言葉のやりとりが、最近なにげに、すごく嬉しいわけで。「夕飯の支度? 手伝おうか」

 「ああ、いいのよ。それより見せたいものがあるの」

 コンロの火を止めた祖母はエプロンをはずしてカウンターに置くと、リビングのソファにたたんで置いてあった黒い布を広げて見せた。

 「これでどう?」

 頼んでいたワンピース二着目。Vネックの黒いフレアミニワンピース。思わず笑顔になった。

 「素敵!」

 彼女は私にワンピースをあてがい、長さを確かめた。

 「ちょっと短すぎる?」

 「いいの。下はショートジーンズを履くから。まだ背が伸びるようならキャミソールっぽくなるかもしれないけど、それでいい。私の歳でマキシワンピースは変だもん」

 「あなたはすごいわね。もっと他のデザインも出来るんじゃない?」

 「これはデザインていうほどのものじゃない。“こういう形が好き”っていうのを伝えただけ。あ。でも他の、考えてみてもいい?」

 「ええ、やってみて。アバウトでかまわないから」ミニワンピースをこちらに渡し、右手で私の髪を撫でて微笑んだ。「今日はミネストローネよ。もうすぐできるわ。それまでに描きあがれば、夕食を食べながら細かいことを相談しましょう」

 「わかった。夕食が終わったら、これも着てみる」

 祖母が夕食を用意するあいだ、リビングに置いてあるチェストからノートとシャープペンシルを取り出してソファに座り、ゆるめの服を考えた。ものすごくゆるいの。それ一枚だけでもじゅうぶん外を歩ける服になって、それ一枚だけでも部屋着になって、もちろん他の服と合わせられるもの。ドルマン・チュニック風。

 広げた感じ、腕をおろした時の感じ、自分の身長でいえばどんな長さか、どの状態でどんなふうにしたいかを、下手な絵にする。それを口でどうにか伝える。

 祖母は手先は器用だけれど、デザインのほうはまったくダメらしい。考えだすということが苦手だという。私はどちらかといえば逆だった。手先は器用ではない。

 そんな違いを目の当たりにしながらも、それほど気にはならなかった。得意な分野が違っていても、ひとつの物を作り出すことができるとわかったからだ。

 キッチンでの血の一件から、私は少しずつ、祖母とちゃんと話をするようになった。

 もちろん“ビールを飲みましたごめんなさい”、などとは言えないし、つきあっている男がいることも話していない。それでも以前よりは、学校や友達のことを、自分から話すようになった。

 どんなワンピースが欲しいかと訊かれ、私が口でどうにか伝えると、祖母はそれをノートに描きおこした。二着目の黒いフレアミニワンピースのぶんは、私が見様見真似でノートに描いた。私の言葉を書き込み、祖母は私のイメージどおりに仕上げてくれた。

 三着目のこれは、ゆるい服にする。素材しだいでは、オールシーズン着られるはずだ。

 正直、祖母の作ってくれた服を着てアゼルのところに泊まったりというのは、ものすごく引け目を感じる。できるだけ、そうならないようにはしているけれど。

 夕飯を食べながらどんなふうにしたいかを具体的に伝え、構想をまとめつつ、一緒にあと片づけをし、作ってもらった服を試着した。ぴったりだった。

 買うのは柄モノが多い気もするけれど、シンプルなものも好きだし、長く着続けることを考えれば、無地で大人っぽいものにしたかった。

 夏用と冬用を作ってくれるというので、祖母の仕事部屋にあるたくさんの布の中から二種類の布を選んだ。急ぎの仕事や頼まれごとがあると、家で仕事をするらしい。しかもハギレもできるだけ無駄にしない主義で、ハギレで色々と作ってある程度まとまれば、いろいろな場所に寄付しているという。

 正直、一緒に暮らしていて、それ以上にこうして話すようになって、よけいに、あの人と血の繋がりがあるようには思えなかった。

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