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RED - DISK01  作者: awa
CHAPTER 08 * DISAPPOINTING AND DRINKING
52/91

* An Affair Of Drinkers

 ナイトテーブルの上にあるアゼルの携帯電話の音で目が覚めた。

 ほとんど同時に起きたアゼルは電話をとり、二言、三言で会話を終えると、私に「ドアの鍵を開けろ」と言った。

 目をこすりながら身体を起こし、ふらふらの状態でベッドをおりると、あくびをしながらドアの鍵を開けた。

 とたん、マスティが入ってきた。すぐさまドアを閉め、鍵をかけた。

 「おはよ」と言い、こちらはベッドの端に腰かける。

 アゼルも身体を起こして右脚を立て、そこに腕を乗せた。

 「で、なに」

 よく見ると、ドアに背を向けて立ち尽くすマスティの表情は、なぜか真っ青だ。

 「やべえ」

 「なにが?」私は訊き返した。眠い。外はまだ薄暗い。何時なのだろう。

 「やっちまったかも」

 「なにを?」

 「なにをじゃねえよ。そのまんまだよ。ヤッちまったかもっつってんだよ」

 私はぽかんとした。アゼルと顔を見合わせ、また彼へと視線を戻す。

 「誰と?」アゼルが訊いた。

 誰と!?

 マスティはうしろ手でドアノブを握ったままだった。視線は前方ななめ下をずっと見つめている。

 「──ふと、目が覚めて起きたら──ベッドで──、隣に────が──」

 わかんねえよ。

 「どっちだよ」と、アゼル。

 数秒の沈黙のあと、マスティはやっと口を開いた。

 「──リーズが──」

 放心状態らしく、ドアに背中を支えられるようにしてずるずると、両脚を立てて座りこんだ。

 あーあ。

 「覚えてんの?」

 アゼルの質問に、彼はうつむいたまま首を横に振った。

 「ぜんぜん覚えてねえ。いつ寝たのかも、どうなったのかもぜんぜん覚えてねえ。部屋に入った記憶すらねえ。そんな状態でヤッたかどうかなんて、わかるわけもねえ」

 お酒は最低です。

 「服は?」

 「俺はこの状態」彼は上下黒のスウェットを着ている。昨日夕飯から帰ってきたあと、シャワーを浴びて着替えた。「けどリーズはよくわかんねえ。シーツかぶってたし、上はキャミソール着てたと思うけど、下まで見る余裕ねえ。そんな余裕ねえ」

 見たら変態。

 「ベラ」

 はいはい。

 私は立ち上がり、「どけ」とマスティに言って部屋を出た。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 リビングのキッチン側ソファでは、コーナー側に頭を置いてブランケットをかぶったニコラが眠っていた。一方ブルは二人掛けソファの前の床に転がって寝ている。一応ブランケットはあるものの、ほとんど意味がない状態だった。テーブルの上にも床にも空き缶が散乱している。あれからまだかなり飲んだらしい。

 隣の部屋に入る。リーズはベッドの上、横を向いてシーツにくるまり、幸せそうに眠っていた。寝顔を見るのははじめてだった。なんだろう、この、犯罪者になった気分。

 起こさないよう肩にかかったシーツをめくると、彼女が黒いキャミソールを着ているのがわかった。貸した服の下に着ていたキャミソールだ。昨夜、トレーナーを着せたはずなのだが。

 今度は下からシーツを少しめくると、足首が見えた。ジャージを履かせたはずなのに。もう少しめくると、今度はふくらはぎが見えた。ジャージはどこへ消えたのか。

 突然、リーズが仰向けになった。

 びびった。寝返りをうっただけ。びびった。

 起きていないとわかったので、覚悟を決め、腰あたりのシーツをゆっくりとめくって中を覗いた。なぜこんな変態めいたことしなければならないのだろう、などと思いながら。

 そこで私は、きょとんとした。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 奥の部屋に戻る。さっき私を通すためにドア前から壁にそれたマスティは、まだそのままの位置にいた。ドアを閉めると頭を抱えていた腕をゆっくりとおろし、不安げな顔で私を見上げた。

 アゼルはベッドヘッドにクッションをはさんでもたれ、煙草を吸っている。「で?」

 ドア前報告。「上はキャミソール。トレーナー着せたはずなのに着てなかった。リビングに転がってた。下もジャージ、履いてなかった。履かせたはずなのに。これもリビングに転がってた」

 マスティはまだ真っ青なままだ。「──つまり?」

 つまりと言われても困る。「私が貸したショートジーンズは履いてた。ベルトもしてた。トラッシュ・ボックスにもそれっぽいのはなかった。見える範囲でだけど、ベッドとその周りにも」

 「──ベルトしてたんなら、してねえよな、たぶん」アゼルが言った。「酔ってる状態で服脱いでヤッたとしても、服着たとしても、ベルトまでは締めなおさねえだろうし」

 マスティが私とアゼルを交互に見やる。

 「──マジで?」

 「たぶんね」と、私。私ですら、酔っていなくてもベルトはしない。

 「ああ、よかった」マスティは気が抜けたように床に倒れ込んだ。「マジで焦った」

 アゼルは火消しに煙草を入れた。「人騒がせにも程がある」

 「今何時?」

 私が訊くとアゼルが答えた。「六時。まだ寝れる。っつーか寝る」

 マスティは瞬時に身体を起こした。

 「ベラ。お前リーズと寝ろ。俺はここで寝る」

 「は? 私が隣で寝てたら変だって」

 「夜中に起こして替わったとか言やいいだろ」

 納得はできるが、安心していいのか。

 「ソファは?」アゼルが訊いた。「ブルたち使ってんのか」

 「あ、窓側が空いてた」

 「んじゃお前、そこ行きゃいいじゃん」アゼルがマスティに言う。「朝っぱらからヒト起こしたうえにベッド奪うってどんなだ」

 「俺がソファじゃ寝れないって知ってるだろ」

 「なにそのわがまま」

 私は思いきり背伸びをした。まあいいか。

 「いい、私が行く。わりとどこでだって寝られるし、でもどうせしばらく寝れないだろうし、目閉じてじっとしとく」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ブランケットをかぶって窓側ソファに横になり、クッションに頭を乗せた。リビングにラグはなく、なのにブルは床で寝ている。身体が痛くなりそうだ。マンガを読もうかと思ったけれどそんな気にもならず、とりあえず目を閉じた。

 浮かんだのは、赤。

 赤い血。

 あの映像が、意識していないのに、勝手に再生された。

 見慣れたモノクロの光景かと思いきや、血だけが赤だった。

 しかも私は、口元をゆるめ、少し楽しそうだった。

 目を開けた。

 ダメだ。やりなおし。他のこと。歌のこと。

 再び目を閉じ、頭の中で音楽を再生した。

 ゼスト・エヴァンスのサイラスが勧めてくれたCDは、どれも不思議な魅力があった。聴けば聴くほど、想像力を与えてくれる気がした。

 そのうち、“このテーマだと、私ならこう書くのに”というのが浮かんでくる。それもやはり想像でしかない。私は他人のように物事に対して多感ではないし、他人ほどヒトの気持ちを考えない。

 私が作詞をはじめたらどうなるのだろう。怒りのテーマばかりになりそうだ。

 たとえばこの状況を歌にするとしたら、どんな感じ?

 “目が覚めたら男友達が同じベッドで眠ってた”。

 一曲分なんて続かなさそうだ。想像を加えればできるか。でもそんなことを、リーズとマスティ相手にできるわけがない。

 そんなことを考えてるうち、いつのまにか眠った。

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