* Drinker Night
土曜日。
泊まる予定で昼すぎにたまり場に行き、アゼルと話したりゲームをしたりしたあと、夕方すぎにデートから戻ってきたマスティとブルと四人で夕飯を食べに行き、酒屋に寄ってから、たまり場でゾンビゲームをした。
以前の三対一では勝てるはずがなく、けっきょくまたやっている。私は、その状況でどうにか勝ちたかった。だがさすがに無理だった。
夜の八時すぎ、ニコラとリーズがダブルデート──というか、修学旅行以来の顔合わせから戻ってきた。なぜか大量の酒を持って。
リーズはあからさまに不機嫌で、“とりあえず飲ませて”と言いながら、買ってきたチューハイを飲みはじめた。ニコラも同じように、半分放心状態でチューハイを飲みはじめた。二人とも、二人掛けソファの前で横に並んで。
「ありえねえ」右腕をテーブルに寝かせ、三本目のチューハイ缶を持つ腕を立ててうつむき、リーズは低い声でつぶやいた。「マジありえねえ」
呆れた顔でブルが促す。「だからなにがだよ。そろそろ話せって」
「ありえねえ!」彼女は天を仰ぎながら叫び、またうなだれた。「──ありえねえ」
彼女たちの正面でソファに座っているマスティが訊く。「ニコラ。なんなんだ」
脚を立て、彼女は苦笑った。
「いや、なんつーか、衝撃で──」
アゼルはテーブルにあった新品のビールを取って再びソファ、コーナー部分の私の右隣に戻ると、片脚を立ててまたクッションに背をあずけた。缶のプルトップを開けて私のうしろに腕をまわし、ビールを二口ほど飲んでから缶をこちらに差し出した。
「飲んでみるか」
「いらない」
「ひとくち」
飲んだことはないが、ビールがまずいということは知っている。缶を受け取ってほんの少し飲んだ。──苦い。
「苦い」炭酸はキライだ。もう一口飲んだ。苦い。まずい。「炭酸キライ」
彼は笑いながら缶を受け取る。
「慣れりゃ平気だ。発泡酒じゃねえからちょっときついけど」
「リーズが発砲しそうなんですけど」
そう言うと、リーズはゆっくりと顔を上げた。涙目のしかめっつらで、しかもチューハイのせいなのか、顔が赤くなっている。そして私を睨むように見ている。
「ダサかった」
私はぽかんとした。「なにが?」
「相手の男が!」言いながら、叩き割るように缶をテーブルに置いた。「お洒落な娘が好きとか言いながら、自分は超ダセえの! スカジャンだよスカジャン! しかもナイロンでツルッツルで安物でピンクと白でバックに超ダサいドラゴンの刺繍とか入ってんの! ありえねえ!」
マスティとブルは天を仰いで大笑いした。アゼルも私に隠れるよう、顔をそむけて苦笑った。
こちらも言われたものを想像してみた。顔は知らないのでなんとも言えないが、そのスカジャンを想像するだけでも、なんというか──。
「で?」身を乗り出し、マスティはニコラも訊いた。「お前のほうは?」
彼女はどうでもよさそうに笑う。
「スカジャンじゃないけど、ダサかった。白いTシャツに薄いブルーの──デニムジャケット? なんかおっさんぽいの。下もおっさんの履きそうな、ただのストレートの綿パンだし。しかもベージュ」
マスティとブルはまたも爆笑した。つまり二十年か三十年ほど前のファッションテイストということらしい。
一気にチューハイを飲み干すと、リーズはまた大きな音を立てて缶をテーブルに置いた。
「しかもその格好でこの服装、ベタ褒めすんだよ。嬉しくねえし! 超ありえねえし!」
その叫びに身をよじりながら、マスティとブルはさらに爆笑した。私の脚の先にいるブルはやはり息が苦しいようで、脚をバタバタさせている。
「ジャケ──スカ──」
なにをそれほど笑うことがあるのか教えてほしい。「スカジャン欲しい」
「もう酔ったか」と、アゼル。
「酔ってない」彼の手からビールを取った。「そういうの、試したことないんだよね。でもスカジャンも、モノによってはよくなるかも。確かにあれは、安物はダメだけど。デニジャケも、組み合わせしだいでしょ。男にはあんまり着てほしくないけど」
そう言ってビールを一口飲んだ。やはり苦い。口の中で舌を転がし、味に慣れようとした。二口めは飲み込む前に舌で味を、しっかりと確かめた。やはり苦い。慣れるものなのか。
「そういう問題じゃないんだよぉ──」泣きそうな声で言いながら左腕を寝かせてそこに頭を置き、リーズはまた新しいチューハイ缶を開けた。「あれと半日歩く屈辱ってないよね。逃げるに逃げれねえし、試しに服屋行ったけど、やっぱりそういうダサい服しか見ようとしねえし。なんの罰ゲームだっていう」
「その二人がどんなか知らないけど、ブルには似合いそうだよね、スカジャン」と、私。
彼が答える。「マジか。ガキの頃には持ってたけどな。さすがにもう、着る度胸ねえ」
今のファッションの流れを考えれば、確かに着るヒトはほとんどいないだろう。大人にはいたとしても、中高生はおそらく着ない。
「服なんかなんでもいいじゃん。私の隣にいる男は、いつ見てもスウェットかジャージだし。まともな服見たの、たぶん最初に会った時だけだし」
「キホン地元にいんだからそれでいいんだよ」アゼルは私の手からビールを取った。「気づいたら背伸びてるし、気に入らない長さになってるし、買いに行くのもめんどくせえ」
マスティが笑う。「男はジャージとスウェットがあればいいんだよ」
「わかった。そのうちセンター街に行ってくる。スカジャン買ってくる」
「本気か」彼が私に言う。「それよりこいつらのオトコ候補に会って、ファッション伝授してやれよ」
ニコラはすぐに賛成した。「それいい! そうしよ。愕然としたけどまだ切ってはない。っていうか三人も一緒に行ってベラに服選んでもらって、そんでそれをあいつらに見せるの。改心するかもしんない」
アゼルは即拒否した。「なんでお前らのためにマネキンになんなきゃいけねえんだアホ。そんな無駄金はねえ」
「男候補には興味あるけど、マネキンてのはどうかと」ブルも二本目のビールを開けた。「似合う似合わないはヒトそれぞれだし」
「ああ、だめか」ニコラの勢いが落ちた。「んじゃもう、切るしかないか」
どこにだってあるようなメジャーなファッション雑誌を見る人間ならおそらく、最初からそういう格好はしないと思われる。私は見ない人間だけれど。そういった個性溢れる服装でセンター街を歩くからには、自分がズレているとは思っていない。私と一緒だ。着たいものを着ているだけ。
それは間違っていなくて、服なんて着たいものを着ればいいと思うけれど、一緒にいる人間は、そうは思ってくれない。
突然、リーズはまた叫んだ。「今日は飲む! とことん飲んでやる!」
「あたしも飲む。飲んで忘れる」と、ニコラ。
暴走する気らしい。「二人、お酒強いの?」
マスティが私に答える。「去年チューハイをバカ飲みして吐いてからは、たまに飲む程度。今ならそれなりに飲めるだろうけど、どうだろな」
「すげえイヤな予感がする」ブルはつぶやいた。「さっさと逃げたほうがよさそう」
リーズが彼を睨む。「逃げたらキレる」
新品のビールのプルトップを開けると、ニコラはそれをマスティに差し出した。
「つきあえ」
彼らは呆れた表情で顔を見合わせ、溜め息をついた。床に腰をおろしてビールを受け取ると、酔い潰れる覚悟をして乾杯した。
「いいのか、これ」私はつぶやいた。
「ほっとけ」と、アゼル。
こんな彼女たちを見るのは、はじめてだった。「コンビニ行ってくる」
「なにしに」
「お酒ばっかりでつまみがない。つまみがないと酔いがまわるのが早いって言ってたじゃん。ついでに明日のみんなの朝食。あとアイスクリーム買う。口直し」
「ああ。んじゃ待て」




