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RED - DISK01  作者: awa
CHAPTER 07 * REPAYING AND REGAINING
38/91

* Sorrow Into Anger

 十月は、最悪の始まりだった。

 最悪のカタチで初恋が終わり、電話のあと、泣きすぎたうえに眠れなくて、眠ったかと思えばまた起きて、また泣いて、そんなことを繰り返して、けっきょく、まともに眠れなかった。

 そんな状態で月曜の朝、起き上がらずにベッドにいると、心配した祖母が様子を見に来た。それでも喋ることなどできず、頭も喉も痛くて、顔など見せられるはずがなかった。

 祖母は仕事を休もうかと言ってくれたけれど、私は首を横に振った。学校に欠席の連絡をしようかとも言ってくれたけれど、それも断った。なぜかはわからない。また変な意地なのだろう。休んだら負けだとでも思ったのか。

 けっきょく祖母は仕事に行き、だけど私は眠る気にもなれなくて、シャワーを浴びるためにやっと起き上がった。

 鏡に映る自分は、本当にひどい顔だった。目は充血して腫れているし、肌はボロボロな気がするし、一気に十歳は老け込んだ気がした。

 思わず笑った。笑ったら、今度は涙が流れた。そしてまた泣いた。

 シャワーのあと、用意されていた朝食を食べて部屋に戻ると、携帯電話にメールが届いていることに気づいた。リーズとニコラからの心配メールだ。昨日の夜、散々泣いたあと、“別れた”とメールを送ったから。

 “だいじょうぶ”と返した。それ以外、なんと言えばいいのかわからなかった。

 ガルセスからもメールが届いていた。“お前はすっかりサボり魔だな”、と。“うるさいアホ”と返事をした。送信したあとでまた笑って、そして泣いた。

 何度か経験のある、精神崩壊の時間帯だった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 チェアに座り、デスクに置いた折りたたみの鏡を見るともなしに見ながら髪を梳かしていると、また携帯電話が鳴った。ちょうど二時限目のあとの十五分間の休み時間で、かけてきたのはアニタだった。ゲルトたちにでも聞いたのか。通話ボタンを押して耳にあてた。

 「なにサボッてんだアホ」

 第一声にぎょっとした。声がアニタではない。「タスカ?」

 電話越しに彼が笑う。

 「なんでわかるんだよ。せっかく声変えたのに」

 確かに少々低い声だった。「あんま変わらない。っていうかなに、アニタは?」

 「いるよ。オレらも電話あるけど、お前に直接聞いたわけじゃないし。登録外着信拒否とかしてたら意味ないし。ヘイズとハーネイとガルセスがジャンケンして、ヘイズが負けたから奴の電話使ってんの」

 「私が登録外着信拒否とかいう面倒なことすると思ってんの?」

 「しないよな。だよな。あ? ちょっと待て」

 「はい」なんなのだろう。

 声が変わった。「アホ」

 「もうちょっと喋って。お願いカーツ」

 「わかってんじゃねえか」と、カーツァー。

 「わかるよ。なんなの? なにごっこ?」

 「いや、お前がサボッてるってハーネイがメールしてきて。ヘイズが電話するっていうから、じゃあついでになんか言ってやろうかって」

 あのボケ。「とりあえずアホゲルトに代わってください」

 また声が変わる。「よ、ベラ」

 違うじゃない。「いつからゲルトになったの? ガル」

 「お前ほんとすごいな。マネしたつもりだったのに」と、ガルセス。

 「似てないよ。アニタはどこ?」

 「え、ゲルトはもういいのか」

 「うん、いい。アニタに代わって」さっきからうしろで騒いでいる。

 また声が変わった。「もしもし? ベラ?」アニタの声だ。

 「あんたの声がこんなに嬉しいことって、今までなかった気がする」

 電話のむこうで彼女が笑う。

 「褒め言葉として受け取っておく。大丈夫?」

 ただのサボりではないというのは、ばれている気がする。というか、ゲルトが気づいたか。

 「うん。アゼルと別れた」

 「は? マジで?」

 「うん。でももういい。どうでもいい。慣れてるし。私の彼氏はあんただけ」

 「え、ちょっと。逆でしょ。あんたが私の彼氏でしょ」

 「じゃあ似てない双子」

 彼女はまた笑った。

 「そだね、それだ。待って、もうベルなるからゲルトに代わる」

 「ん」

 アニタのことは、信じるとか信じないとかを考えるまでもない気がする。ゲルトも。

 「サボり魔」ゲルトの声。

 「サボりってさ、昼から登校してもやっぱ言われる?」

 「は? 昼から来るってこと?」

 「うん。ランチをいただきに行こうかと。今用意してたとこ」

 「まあ、授業サボッたことに変わりはないからな。知らないけど、たぶん欠席扱いになってるぞ」

 「そんなの知らない。お菓子持って行こうかと思って」

 「マジで? んじゃみんなのぶん持ってこいよ」彼の背後でベルが鳴った。「あ、ベル鳴った。もう切る」

 「ん。あとで」

 「じゃーな」

 みんなの声と共に、電話を終えた。

 携帯電話をデスクに置き、胸の前で服を掴んで目を閉じた。

 いける。哀しみを怒りに変える術なら、ちゃんと知っている。散々泣きわめいたあとでこの電話だ。いいタイミング。

 会ったら笑ってやる。普通に話してやる。私は、そういうのが得意。いいかげん泣いたあとで思うことではないけれど。

 浮気でもなんでもすればいい。そんなにヒトの心をズタズタにしたいのなら、やりたいだけやればいい。

 とは言え、もう別れたから浮気とか、アレだけど。まあいい。

 相当バカだとは思うけど、なにげにまだ好きだ。なにげにというか、かなり好きな気がする。

 会ったら“愛してる”とか言ってやろうか。引くか。うざいか。

 べつにいい。どう思われようと、もうどうでもいい。でも、この気持ちはなくならない気がする。ただの未練か。ダサいか。だから、べつにいい。

 あの時間が、あの言葉が、嘘だったとは思わない。あれは真実だ。それだけでじゅうぶん。だって楽しかった。信じたいものだけを信じる。信じられるものだけを信じる。それでいい。

 あいつは、わかっていないのだろう。私は、とんでもなく性格の悪い女だ。いつのまにか、ヘコまされればヘコまされるほど、反発する性格になった。そりゃ、泣きのクッションは入るけれど。

 ほらほら、きたきた。性悪女の本領発揮。

 傷つけたつもりの女が実は傷ついてないとわかったら、どう思うのだろう。

 いや、実はめちゃくちゃ傷ついてますけど。それを隠すのだって、私は得意。だって傷は怒りに変わるから。怒りこそが私の色。私自身。私の赤。憎しみには、まだしない。

 戦闘態勢はばっちり。真っ赤な愛は、真っ赤なマシンガンに変えてやる。

 遠慮なくぶっ放してやるから覚悟しろ、アホ男。

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