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RED - DISK01  作者: awa
CHAPTER 06 * STRAYING AND BETRAYING
37/91

* Closed Love

 水曜はもちろん、木曜も、アゼルからの電話はなかった。金曜になってもだ。

 土曜は、祖母と名義変更に行った。担任のオルフ教諭と教頭先生が対応してくれ、学校側も了承した。母親にも会わずに済んだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 日曜日。

 今日は、祖母と一緒に買い物に行った。引っ越してきた時に言ってくれていた、私の服を作ってくれるという話。一年をとおして着られるからと、ミニワンピースを頼んだ。その布地だ。

 家に帰ってからはまた一緒に料理をして、また少し話をした。だが楽しくなるはずのそれは、思ったほどではなかった。アゼルのことが気になってしかたがなかった。

 その夜、シャワーを浴びて部屋に戻ったあと。

 明かりもつけずベッドの上に座り、自分の前にプレーヤーと携帯電話を並べて、どちらか悩んだ。

 恋愛などしたことがない。もともと間違った人間だし、なにが正しいのかなど、よくわからない。

 アゼルがどうしたいのかも、わからない。

 私は?

 会いたい。

 むこうは会いたくないかもしれない。

 声が聞きたい。

 むこうは聞きたくないかもしれない。

 このまま終わりになんてなりたくない。

 むこうは終わりにしたいかもしれない。

 それどころか、もう終わってるのかもしれない。

 “自分のしたいことをしなさい”

 祖母は、そう言った。

 携帯電話を手に取り、アゼルに電話した。

 呼び出し音が、一回──二回。

 さん──呼び出し音が、途切れる。「もしもし?」

 心臓が、凍りついたかと思った。耳を疑った。思わず、画面を確認した。

 《 通話中 アゼル 》

 ──間違って、いない。

 だけど、この声を、私は知らない。

 リーズとも、ニコラとも違う。

 私はまた、携帯電話を耳にあてた。「誰?」

 「ちょっと待ってね」そう言うと、電話のむこうの声は少し小さくなった。「どうすんの? 出ないの?」

 ちょっと待ってよ。誰よ。

 「なに」

 ──アゼルの、声。

 意味が、わからない。「なに、してんの?」

 「話」

 「──今の、誰?」

 「さあ。今日会ったばっかだし」

 ──今日、会った、ばかり。「──浮気、してんの?」

 「浮気ってなに? ヤッたのかってこと?」

 心臓が、揺れた。「──したの?」

 「してないっつったら信じんの?」

 ──意味が、わからない。

 日曜で、こんな時間──夜の十一時に近くて、周りは静かで、女がいて、信じろって?

 そんなの、信じられるわけがない。「──これは、“罰”の続きなの?」

 「──さあ」

 ──なぜ、こういう時に限って、いつものテンションなのだろう。

 そういう人間だというのは、知っていた。わかっていた。

 だけど、しないと、信じていた。

 ああ、ダメだったのか。

 私は、間違っていたのか。

 私はまた、ボロボロにならなければいけないのか。

 「──よく、わかった」もう、いい。「別れる」どうでも、いい。

 どうして、信じたのだろう。

 どうして、“彼だけは”、なんて思ったのだろう。

 どうして、“私にだけは”、なんて思ったのだろう。

 「──あっそ」

 電話は、切れた。


 どうして私は、アゼルを好きになんて、なったのだろう。

 はじめて両親あいだの不穏な空気に気づいた時、今日だけだと信じた。明日になれば元通りだと。

 はじめて両親の喧嘩の声を聞いた時、一度で終わると信じた。明日にはいつもどおりだと。

 何度か喧嘩が続いても、今週だけだと。今月だけだと。いつかは終わると、信じていた。

 いつかまた、三人で一緒に笑えると、信じていた。

 だけどけっきょく、元には戻らなかった。

 ハヌルのことだって、エルミのことだって、最初は、ほんの小さな嘘を、私は信じたことがある。だけど、あとから嘘だとわかった。そういうものなのだとわかった。

 物事が好転するところなど、見たことがない。

 信じて救われたことなど、ない気がする。

 私が強く信じたあとにはたいてい、裏切りしか残らない。


 気づけば、涙が溢れていた。前に倒れるようにして、顔を伏せて泣いた。


 好きだから、信じたかった。

 好きだから、信じたくなかった。

 信じたいものだけを信じて、信じたくないものは信じたくなかった。

 信じてた。

 信じてた。

 信じてた。

 裏切りも、“赤”だった。

 信じてた。

 信じてた。

 信じたい。

 信じたい。

 信じられるわけがない。

 裏切りは、“赤”だった。


 どこから間違ってたのだろう。

 あの時間が、日々が、声が、笑顔が、ぜんぶ嘘だったなんて、思いたくないのに。


 いつからか、気づいていた。

 私が感じていたものは、私が与えていたものは、“恋”じゃなかった。

 ピンク色の、可愛らしいものなどではなかった。

 私が感じていたものは、私が与えていたものは、“愛”だった。

 赤すぎるくらい赤い、真っ赤な“愛”だった。

 愛してた。

 愛してた。

 愛してた。

 だけど、もう、終わった。

 どうすればいいかわからないうちに、ぜんぶ終わった。

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