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RED - DISK01  作者: awa
CHAPTER 05 * FEARING AND BELIEVING
31/91

* When Need Lies

 ベルが鳴った少しあと、階下からのざわつきで、一年生が各教室へと帰ってくるのがわかった。私はその群れが途切れるのを確認してからアゼルと別れ、レストルームに寄ってから教室へと向かった。

 前の席にいるゲルトから、“不良昇格”の称号をもらった。奴の椅子の底を蹴って返した。

 放課後──アニタから、ママとショッピングに繰り出すけど一緒に行くかと誘われ、悪いからと断った。アニタママはいつも、私にまで買ってくれようとする。私の好みをよくわかってくれていて、誘惑に負けそうになるけれど、私は丁重に断る。けれどもたまに買ってもらう。

 リーズとニコラは、夏休み中に会ったナンパ師の一組と遊ぶ約束をしたとかで、さっさと帰っていった。

 私はアゼルとマスティと三人でなぜか体育館の、入学式前にクラス発表があった窓の前のバーム部分に座りこんでいる。数歩太陽の下に出た程度でマスティが無理だと言いだし、日陰に逃げこんだのだ。

 「暑い」うなだれるマスティがつぶやいた。「溶けそう」

 「お前は溶かしても溶かしきれねえよ」と、アゼル。

 「間違いない」どんな物質かは知らないが。「さっさと帰ればいいと思う」

 私はアゼルの左隣にいる。マスティはアゼルの右隣で、三人とも窓にもたれ、あぐらをかいてだらけてる。

 「帰りたくねえ」マスティが言った。「帰んのがめんどくさい。このまま太陽の下に出たら死ぬと思う」

 呆れた。「夏休みはめちゃくちゃ遊んだじゃん。おかげで軽く日焼けしたっつの」

 「状況が違う。あれは夏休みの話。明日から学校だぞ」

 「今まだお昼なんですけど。センター街に出向いてた時間と変わらないんですけど。しかも明日とりあえず授業受けたら、また土日休みじゃん」

 「いつも思うけど」アゼルが口をはさんだ。「三人でいる時のこの並び順、すげえうるさい」

 私は思わず笑った。並び順は日によって違うけれど、この並び方だと、私とマスティがアゼルを挟んで言い合うことになる。

 「さっさと立ち上がれば解決する」

 マスティは動く気がない。「ベラの横はうるさい」

 「えー。うるさくないし」

 「耳痛くなる」

 「耳鼻科に行けばいいと思う」

 「耳掃除されるために金出せってか」

 「耳栓のほうが安く済む」

 「耳栓したら逆ナンに気づけねえだろ」

 「耳栓して聞こえてなくても、本気で声かけたければボディタッチがある。けどこんなところで耳栓してるアホに逆ナンしてくるバカは、自分から願い下げなさい」

 「耳みみ耳みみってうるせえよ」アゼルは笑いながら言った。「俺がいちばん耳栓いるわ」

 本当だ。「コンビニで買ってあげようか。ふたりに耳栓。色違い。あとマスティには日傘も」

 「日傘って。俺は老人か」

 アゼルが彼に言う。「お前、最近すげえ老け込んだ気がする。老人とまではいかねえけど」

 「よけいなお世話だ」

 私は身を乗り出してつけたした。「基本ゲーム廃人だったしね」

 「うるさいよ」

 「ベラ!」

 校舎のほうから声がして振り返った。うんざり顔のブルの腕を引いて、エルミが手を振りながら笑顔で歩いてくる。

 「なにしてんの?」

 「うなだれてんの」

 「なにそれ」私の傍らに立ち、エルミは笑顔でアゼルたちへと視線をうつした。「どうもー」十オクターブくらい高い声だった。オクターブの意味は知らないけれど。

 そんなエルミの左隣、ブルが口パクでなにかを必死に言っている。なんだろう。

 「これからデート?」

 私が訊くと、ブルはぎょっとした表情をこちらに返した。右側ではアゼルとマスティが小さくふきだして笑いをこらえる。

 だがエルミはそんな三人には気づかず、嬉しそうだ。「や、途中まで一緒に帰ろうとしてたんだけど、どこかでランチ食べようかって話もしてたり」

 デートか。

 エルミが続けてこちらに訊く。「そっちは?」

 「さあ。とりあえず──」

 「エルミー?」

 私の言葉を遮ったのは、同じく第一校舎のほうから歩いてくるハヌルだった。ナンネとジョンアも一緒にいる。

 エルミはブルと一緒に振り返っていた。「やっほー」

 陰口を言いまくるくせにいつだってフレンドリー。ここだけは尊敬に値する。

 そんな彼女の隣、瞬時に視線をこちらに戻したブルが、再び口パクで必死になにかを訴えかける。

 アゼルは肘で私の腕をつついた。声を潜めて言う。

 「ブルを連れて帰る言い訳考えろ」

 言い訳。

 答えるよりも先にハヌルが来た。「あ、ベラも」ブルとは反対側、エルミの隣に立つ。「なにしてんのこんなところで」アゼルたちに流した視線をまた、こちらに戻した。「やっぱり?」小声。

 黙れメガネゴリラ。

 聞こえていないフリをし、私はブルに向かって口を開いた。「ブル、今日男三人でゲームするんじゃなかったっけ」そうだっけ。「このあいだの対戦の続き」ゲームなら昨日もしたよ。「しかもあれだよね」どれ。「このあいだゲームに負けたからって、二人に始業式のあとランチ奢る約束してたよね」してないよね。「わざわざ呼び出されて私、その証人になったんだけど」呼び出されてないし、そんなものになった覚えもないけれど。

 一瞬きょとんとしたものの、彼はすぐに状況を把握した。

 「そういや──」

 その声をエルミが掻き消す。「そうなの?」彼に訊いた。

 いける、と私は判断した。さらに煽る。「男同士の約束は絶対だってルール、知らないの?」知らないよ。初耳だよ。「この二人、待ってたのよ」違うよね。帰るのダルかっただけだよね。「私までつきあわされてるのよ」なに言ってんだ私。

 ブルは決断した。「そういやそうだ」エルミに言う。「悪い。今日無理だわ」

 エルミは肩をすくませた。

 「そっか。じゃあしょうがないね」こちらに視線を戻す。「ベラは?」

 答えに困った。私? ほんとだよ。私はどうするの。

 「一緒になんか食べに行く?」ハヌルが言った。「うちら三人でなんか食べに行くつもりだったんだけど。ベラは夏休み、ぜんぜん遊べなかったし」

 遊べなかったのではなく、遊ばなかったんだよお前とは。

 先にエルミが答える。「あ、行く」

 私は。「ごめん」考えろ。「私、今日ダメ。ランチは用意されてるからそれ食うし、今日は部屋の掃除するって決めてたし」またもなにを言っているのだ私。「時間あまったら家中の掃除もするつもりだし」そんなつもりはない。「マジでごめん」あやまる部分おかしいし。

 「そっか」ハヌルはナンネとジョンアに声をかけた。「じゃあ行く?」

 「あ、ちょっと待って」

 ブルの腕を離すと、エルミは私の傍らにしゃがんだ。口元に左手をあて、声を潜めて私に言う。

 「もうさすがに隠せないよこの状況。訊かれたら、つきあってるって言うよ?」

 エルミは夏休み中、ほとんどハヌルに会わなかったという。訊かれても、どうにか知らないでとおさせた。だがそれも限界らしい。

 「いいよ。そうして」小声で答えた。「けどよけいなことは喋んな」たいしたことは知らないだろうが。

 「わかってる。こっちのこともあんま喋んないでね」

 自分で喋るくせになにを言っているのだろう。「はいはい」

 エルミは立ち上がった。「じゃーね」満面の笑みでアゼルとマスティに挨拶をする。「さよならー」

 そしてそのままの笑顔でブルのほうに向きなおると、「また明日ね」と言って、エルミはブルの頬にキスをした。これは確実に、ハヌルへのあてつけだ。

 ハヌルは引きつった笑顔でこちらに「バイバイ」と言い、歩きだした。エルミもそれに続いた。

 ナンネとジョンアも二人に続いて歩きだす。

 「ベラ。また明日」

 二人には手を振って応えた。「バイ」

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