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RED - DISK01  作者: awa
CHAPTER 05 * FEARING AND BELIEVING
30/91

* Believing

 八月はあっというまに過ぎていった。

 アゼルは再び髪を染め、私の髪の色に近づけた。似合っていた。

 ふたりで並ぶと、アホっぽいというよりはものすごく怖いとみんなに言われた。

 アニタや他の友達と遊ぶのでなければ、しょっちゅうたまり場に行っていた。私は数日おきに“今日は遅くなる”というメールを祖母に送る癖がついていて、帰宅が夜の八時半を超えることも徐々に増えていった。それでも祖母からは、なにも言われなかった。

 何度か、リーズたちと六人でセンター街にも行った。彼女たちは以前のナンパ組とメールでやりとりし、遊びもしたけれど、好きになる要素があまりなかったらしい。

 そこで、マスティがゲームを提案した。私たち女三人がセンター街、主にグランド・フラックス・エリアのボードウォークでナンパ待ちをし、声をかけられて話しはじめたところに彼ら三人が来て、喧嘩腰に相手を追い払う。もしくは、私たちが話の途中で突然逃げだす。

 逆パターンもあった。男三人でいる時に逆ナンがあると、以前私が言ったとおり、アゼルはとりあえずは黙っていることにした。女が彼らに声をかけて話しはじめると、私はアゼルに近づいて、なにも言わずに彼とキスをはじめた。女たちは当然唖然とし、そこにリーズたちが来る。女たちは悪態をつきながら逃げだした。めちゃくちゃなゲームだった。

 八月のあいだに、ブルは四度もエルミと寝た。エルミはすっかり彼に夢中で、彼とつきあっているということを、あちこちに言いふらしているらしかった。

 ブルの悩みは、思っていたよりもエルミが自分に夢中になったことと、その想像以上のうざさに、夏休みが明けた二学期が思いやられること。だからといってカラダ目的というのは変わらず、アテもなく別れるにはもったいない気がすること。

 真剣に考えたところでそんな悩みが解決するわけはなく、成り行きに任せるしかなかった。

 そして、夏休みが終わった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 九月一日、始業式。

 なのに私は式をサボり、アゼルと一緒に第一校舎の四階にいた。二度目にキスをした階段のさらに上だ。

 廊下というものが存在せず壁で行き止まりにされた、物置きになったこの場所は、予備のロッカーが並び、いくつかの教師用デスクと生徒用の机が乱雑に積まれている。

 そしてそれらを左右に分けるよう狭く短い通り道が作られていて、その奥の壁際、隠れるようにして床に座りこみ、私たちはキスをしている。

 なぜこんなことになったのかというと、私がすっかりゲームにハマッてしまったせいで、たまり場で会ってもみんなで過ごす時間が増え、ふたりきりになることはあってもこの一週間、ベッドでするなんてことはなかったからだ。

 ふと“ごめん”と言うと、“始業式をサボれ”と言われた。校長の長話などには興味がないし、式だけならいいかと、一応でもやっと電話番号とメールアドレスを交換、アゼルと待ち合わせて朝、通常より少し遅れて学校に行った。

 番号とアドレスの交換には意味がなかったけれど、体育館から聞こえてくる、マイクを使った教師の声で式がはじまったばかりなことがわかり、私たちはそのまま、誰にも見つかることなくここに来た。

 私が壁に背をあずけて座った状態で夢中でキスをしていると、とうとう前で膝をついたアゼルの手が、スカートの中に入りこんできた。笑いながら拒否したものの、意味はなかった。すっかりその気にさせられ、けっきょく私は、いちばんしてはいけないことをした。避妊具というものをなぜ学校にまで持って来ているのかが謎だった。

 「お前もすっかり不良だな」終わったあと、私の左隣で壁にもたれているアゼルが言った。「学校でこんなことするようになったら終わりだぞ」

 私は彼と手をつなぎ、両脚を立てて座っている。いつもよりずっと短い時間だったけど、疲れた。精神的に。

 「そう思うなら、こんなことさせないで。そっちは三月で卒業でも、私は違う」

 カラダが火照っている。頭がぼーっとする。まだ身体じゅうに彼と快感の感覚が残っている。目がうつろになっているのが、自分でもわかる。

 アゼルは笑った。「厳密には二月くらいから自由登校だけどな」

 「──あと、半年」

 私はつぶやいて、彼の肩に頭をあずけた。目を閉じる。

 「寂しいか」

 寂しい。「こういうことしないなら」

 「楽しんだくせによく言う」

 図星。「やだ。もう絶対しない」

 「卒業式の日くらいはいいんじゃね」

 「式に出る気ないの?」

 「どうだろな。んじゃ花道の先で待ってるか? キスくらいならしてやる」

 「花道とかあるんだ」

 「くだらねえぞ。体育館が狭いから、一年は式に出れねえけど。式のあとで一回教室に戻って、何時かになったら、帰り支度をした三年が外に出る。二年と手伝いで登校してきた一部の一年が二列になって並んで、第二校舎から正門までの道作って、桜の花びらを撒く。そこを通る」

 小学校の卒業式では、主に五年生が作ったアーチが体育館に置かれていた。見送りまがいのことはあったが、花道などというのはなかった。

 「キングになれるんだ」

 「キングは一人だろ。しかも花道通ったところで、たいていの三年はまた戻る。校舎前で写真撮ったり、ボタンだの告白だのがあるから」

 「第二ボタンね」もらうと両想いになれるとか、幸せになれるとかなんとか。

 「この学校では、売るって手もある」

 「は?」

 「あらかじめ三年の女共が、どの男のになら金出せるかってアンケートをとってる。花道のあとで体育館前に集まる。票の多かった何人かが前に出て、第一から第三ボタンまでを競りにかける。当然第二ボタンに高値がつくわけだけど」

 「嘘だよね」

 「買うか?」

 「ボタンより制服のほうがいいと思う」

 「マニアックなこと言うな」

 「シャツじゃなくて学ランね。第二ボタンは心臓に近いからっていうけど、はずれる可能性があるもんだし。そんなのより学ランのほうがいいに決まってる。さすがに下はいらないけど」

 「んじゃ第二ボタンは誰かにあげてもいいわけ?」

 「私はそんな迷信は信じない」

 「お前はなんにも信じねえな」

 「信じて裏切られたらどうすんの。そんなことして傷つくくらいなら、最初から信じない。期待しない」

 信じて裏切られて傷ついて、ボロボロにされるのはもう御免だ。

 「──お前、よく俺みたいなのとつきあえるな」

 「なんで?」

 「俺が好きっつったのも信じてないってことだろ。それはべつにいいけど。普通相手にそんなこと言わねえ。俺みたいなのに言ったら、キレられるのがオチ」

 私は、身体を起こしてアゼルの顔を見た。

 「怒った?」

 「怒ってない」

 そう言いながらも、彼は壁に頭をあずけて目を閉じている。

 「──信じたいものしか、信じない」

 信じたいものですら、信じることが怖い時がある。

 「少なくとも、信じたから、好きって言った」

 また、泣きそうだ。

 「突き放したりしないって信じた。好きって言ってくれたのは、信じてる」

 目を開けたアゼルはゆっくりと、視線をこちらへと戻した。右肩を壁にあずけたままこちらを向き、片膝を立てると、左手で私の頬に触れながら、まっすぐに私を見つめた。

 「信じなくていい。信じられても、その信用の重みに耐える自信はない。お前の言うこともちゃんとわかる。俺も考えは同じだから。信じる信じないはお前の自由。けど女として好きっていうのは、お前以外、誰にも言ったことねえ」

 瞬きをすると、涙が頬をつたった。

 「──そんなの、私も同じ」

 理由は、わからない。

 「言うどころか、思ったことすらない」

 なぜこんなに惹かれるのか、たった三ヶ月で、なぜここまで惹かれているのか、理由がわからない。だけど──。

 「好き」

 私の涙を拭い、アゼルは微笑んだ。

 「知ってる」

 校内にベルが鳴り響くと同時に、引き寄せ合うようにキスをした。


 “知ってる”という言葉はきっと、場合によっては、“信じてる”という言葉と同等の意味を持つ。

 簡単に口にする言葉の中にも、場合によってはとても重要な意味を持つことがある。

 相手の言葉のひとつひとつに、どれほどの期待をしていいのか、言葉のひとつひとつが、どれほど信用できるものなのか──それは、誰にもわからない。だから信じることが強さだと、ヒトは言う。

 だけど私は、信じることが怖い。信じたものが目の前で、目に見えて崩れ落ちていくのを、私はもう、見たくはない。

 誰かを心から信じることが怖い。ひどく傷つくことが怖い。

 信じなくてもやっていけるつきあいというのはある。最初から諦め、それほど期待せず、少し残した期待の中である程度身構えておけば、裏切られたとしても、たいしたダメージはない。“やっぱりか”と思えば済むことだ。

 だけど時々、疑うことに疲れる時もある。

 寂しさのせいか、強くなりたいからなのか、信じたくもなる。

 今私が信じたいのは、信じているのはアゼルで、彼だからこそそう思うのか、一歩違えば他の誰かに対してもそう思っていたのかは、わからない。

 理由を求めることに、そもそもその疑問に、納得できるだけの答えがあるのかどうかはわからない。

 だから、その疑問はひとまず、その場に置き去りにした。

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