* Match
マスティが昼寝のために部屋に入ってから二時間ほどが経過したあと。
彼は起きたらしく、なぜか部屋の内側からドアを軽く蹴り、ゆっくりと慎重にドアを開けた。
「心配しなくてもヤってねえよ」と、アゼル。
「あっそ」彼は行動を普通に戻した。「っていうかなに? ずっとその状態?」二人掛けソファに腰をおろした。
「ずっと」私はあくびをしながら答えた。「エアコンの涼しさと窓からの日差しで、ものすごく眠い」
彼にもあくびがうつった。「俺は身体が痛い」
「お前、あと三時間で世界が終わるってわかったらなにする?」アゼルが彼に訊いた。
「は? 三時間?」箱から煙草を一本出す。「顔のいい女見つけて片っ端からヤる」中学三年生らしからぬ渋い表情で口にくわえ、火をつけた。
「ほらな」
アゼルの言ったとおりだ。「そのことしか頭にないのか」
「んじゃ強盗」
「意味ないじゃん」
「どうせ世界が終わるんなら、なにしたって意味ないだろ。世界が終わるっていう恐怖のうえに、さらなる恐怖を植えつけてやる」
なるほど。「それいい。最高」
「んじゃ先にクソ警官襲って銃手に入れないとな」アゼルが言った。「マシンガンでもいい。恐怖植えつけながら殺しながら、そこらじゅう死体だらけにする」
マスティが笑う。「いいな。マシンガン最高。ただの銃じゃ物足りねえし、だからってバズーカはちょっと違う」
このヒトたち、こういう発想は飛び抜けている。私と同じ領域にいる。
「久々にアレやるか」アゼルがこちらに言う。「銃だのマシンガンだのぶっ放して、ゾンビ倒しながらプレーヤー同士も殺し合うっていうゲームがある。三人で殺し合い」
おもしろそうだ。「やる」
煙草片手に立ち上がったマスティは強気に微笑んだ。
「最初はハンデやる。チーム対戦にして、俺は最弱設定のコンピューターと組む。お前はアゼルと組め。慣れてきたら個人対戦、三人で殺し合い」
“殺し合い”という響きに、とてつもない魅力を感じるのは私だけか。
「すぐに慣れてやる」
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「──ありえねえ」右隣、ゲーム画面を呆然と見つめるアゼルがつぶやいた。「なんでだ」
マスティは私の左隣に座っている。「やっぱ、性格?」
目の前のテレビ画面には、“勝者、ベラ!”とな。
「才能と言え」と、私。
ゲームをはじめてから、約二時間が経過していた。私はすぐにコツを覚え、三戦目からは個人対戦に切り替えた。ステージを変えながら四度対戦して四度とも、私は二人に勝った。
今のテレビゲーム画面、私のキャラクターがマシンガン片手に拳を高々と揚げ、右脚でアゼルのキャラクターを踏みつけている。
「俺がいちばん得意なゲームなのに」呆然と画面を見つめるアゼルは、まだコントローラーを握っている。「なにこの結果。惨敗だし」
「俺のいちばん好きなゲームなのに」マスティも同じく画面を見つめ、コントローラーを持ったまま。「ありえなさすぎる」
どれだけ衝撃を受けているのだろう。「ナメんな」
彼らは同時にしかめっつらを私に向けた。声を揃える。
「可愛くねえ」
私は無視した。「メールしてくる」
そう言って立ち上がり、私はバッグから取り出した携帯電話で祖母宛にメールを打った。
《今日もまた友達と遊んでいます。夕食をご馳走してくれるそうなので帰りは遅くなります》
送信した。夕食を食べて少し話して、という流れを仮定にすると、やはり夜の八時頃が限界なのか。
けれども私は自転車を持っていない。ニュー・キャッスルにあるアニタの家からだと、徒歩で二十数分はかかる──アニタママは送ってくれるが。まあいい。そう細かいことまでは訊かれないだろう。
携帯電話をバッグに戻して振り返ると、二人はまたゲームをはじめていた。個人対戦のまま、いないはずの私のキャラクターも参加させられたらしく、プレーヤーのいないその私のキャラクターは、よっつに割れたゲーム画面の左下で、早々に倒れていた。
「なにしてんだ」
ゲーム画面に集中したまま、彼らが声を揃えて答える。「気にすんな」
負け惜しみか。
キッチンに行き、冷凍庫からアイスクリームを取り出した。ソフトコーンのチョコチップ味だ。マーケットやコンビニで売られているものにはあまり、ワッフルコーンがない。
リビングに戻ろうとしたところで玄関のベルが鳴った。一度や二度ではなく連打だ。こういう鳴らしかたをするのはひとりしかいない。
一応ドアスコープで確認すると、やはりブルだった。鍵を開けるとすぐドアが開いた。
「よ」
「ずいぶんお楽しみな様子で」と、私。
「さすがにヤッてはねえよ。けど」玄関ドアの鍵を閉めた彼は、私の手にあるアイスに気づいた。「俺も食お」
彼は冷凍庫を開けた。少し悩み、私と同じ種類のバニラアイスを取った。
「“けど”、なによ」
彼はにやつきながらアイスのフタを取り、トラッシュ・ボックスに捨てた。キッチンとリビングを間仕切る壁にもたれてアイスクリームを一口食べる。
「あれ、相当だな。処女のくせに、頭の中エロいことばっか」
私は笑った。
「そういやそうだわ。四年か五年の頃からあいつ、やたらとそういう話が盛り込まれた少女マンガを買うようになってた」
「だろ? すげえ根掘り葉掘り訊かれたもん。しかも彼氏がいるベラがうらやましいとかで、つきあうかっつったら即オーケーだぞ」
予想を上回るスピードだ。「じゃあそのうちできるね」
「たぶんな。ただまあ、家に連れ込むのはちょっと悩んでんだけど。でも金かける気もないから、けっきょく家になるんだろうけど。途中からは手つないできたもんな。その気になってれば、今日のうちにできたかも」
笑える。「マスティが悔しがる」
彼は壁越しにリビングを見やると、また視線をこちらに戻した。
「お前のこともやっぱ、わりと訊いてきた。なんでこっちに引っ越したのかとか、アゼルとどういうつきあいしてんのかとか、普段どこで遊んでんのかとか」
うざさ全開。「約束は?」
ブルは会話の合間にアイスを食べている。「守ったよ。ここのことも喋ってない。言ったら絶対、来るだろ」
「間違いない。で、真面目につきあうの?」
彼は笑った。「ないない。あんなゲテモノに心動かされたりしねえ」
可哀想に。どうでもいいが。「ハヌルの話、しなかった?」
「した。超悪口。携帯電話で撮った写真見せてきて、キモいでしょっつって」
笑える。「そういう奴なの。私も性格は悪いけど、ある意味私よりタチが悪い。超八方美人」
「だろうな。なんつーか、誰かの悪口を他の人間に言うのがすげえうまい。こっちの反応見ながら程度を変える。あと、リアクションがいちいち大げさ。腹黒さを隠すのもカマトトぶったのを隠すのも、かなりうまい気がする」
私は少々感心した。「そのとおりよ。たった数時間でよく理解したわね」
「できればしたくなかったけどな。おかげで完全ヤり目だもん」
エルミはどちらかと言えば、世渡りは上手いほうだ。だが少々やりすぎる節があり、自らマイナスにしてしまう。それに気づけていないからアホ。
「がんばれ」と、ブルに言った。「でもあのアホがどんな具合かなんてのは聞きたくないから、やめてよ」
「え、聞きたいんじゃないのか」
「まさか。勘弁してください」
エルミからはさっそく、“すごい楽しかった。しかもつきあうことになった。ありがと!”メールが入っていた。
エルミのことに関しては、マスティはどうでもよさそうだった。ただ私のキャラクターを早々に殺してのゲームでもアゼルに負けたらしく、今日一日、負けてばかりなことにテンションが下がっていた。
ブルが提案し、チーム対戦で私とマスティが、ブルとアゼルが組むと、そこは私たちが勝利した。
個人対戦に切り替えると、やはり私が勝利した。
ふてくされたマスティが今日は無理だからもう帰ると言い、四人一緒にたまり場を出ると、彼らと別れ、私とアゼルは夕食を買いに行った。
ふたりでそれを食べたあと、ふざけながらベッドに倒れ込んだ。




