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RED - DISK01  作者: awa
CHAPTER 04 * THINKING AND SAYING
24/91

* Center District

 センター街は、ウェスト・キャッスルの北側を東西に走るナショナル・ハイウェイを東に下った先にある。車なら十五分から二十分ほど、停留所に停まりながら進むバスだと、二十分から三十分程度で着く。

 ベネフィット・アイランドでは、高校生までなら、学生証を提示するだけでバス運賃が無料になる。高校に行っていない高校生世代は、十六歳になる年の三月に、役所から勝手に郵送されてくるIDカード──住所氏名と生年月日、そして社会保障局が管理する社会保障番号が記載された身分証明書を提示すれば、同じ待遇を受けられる。若者の事故を減らすのが目的らしい。

 センター街というのはただの総称だ。駅のホームを備えたムーン・コート・ヴィレッジという地上六階立ての、三日月のような形になったショッピング・モールがあり、そこを──厳密に言えばその東側にあるバス停などを中心に、なんだかんだと呼称のついた、ショッピングエリアやオフィスタウン等、いくつかのエリアが広がっている。ベネフィット・アイランド・シティのショッピングの中心地で、田舎なりにもたくさんの人が行き交う。それらを総称して“センター街”と呼ぶ。

 ムーン・コート・ヴィレッジでマスティとブルに勧められるままプレーヤーとヘッドフォンを買うと、サウス・アーケードにある中古CDショップに行った。

 ブルはハード・ロックも好きで、それほど男の曲を知らないからと彼の言うことは聞いたものの、パンク・ロックを買わせようとするマスティからは逃げてばかりいた。

 女性ボーカルのほうは以前持っていたものを数枚と、得意のジャケ買いを合わせてぜんぶで十二枚、安いCDアルバムを買った。テレビはほとんど観ないので、知っているアーティストが新しくリリースしたものだったり、アニタたちに勧められたものでなければ、たいていはジャケ買いをすることになる。

 ちなみにプレーヤーを手に入れたあとにふと思いつき、祖母に“友達と遊んでいるので少し遅くなります、夕食は食べて帰ります”とメールを送っておいた。再びプレーヤーを手に入れたことで気が大きくなったらしい。賭けだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 CDを買い終わると、みんなでグランド・フラックスに行った。アゼルたちが疲れてもう動きたくないと言うので、こちらはリーズとニコラと一緒に、スウィーツショップにアイスクリームを買いに行った。けれどクレープの誘惑に誘われ、クレープなら冷めても食べられるからとそれも買い、持ち帰り用の袋に入れてもらった。男三人のアイスも持ち帰り用にしてもらい、ボードウォークの屋根つきテーブルベンチで休んでいる彼らのところへ戻る。

 「ホントは連れて行きたいとこ、あったんだけどな」右隣をアイスクリーム片手に歩くリーズが言った。

 「どこ?」

 「ファイブ・クラウドにあるCDショップ。店長がおもしろいの」

 ファイブ・クラウドは、主に二十代から三十代の大人たちを対象にした小洒落たエリアだ。行ったことはない。

 「でも今休業中」ニコラが言った。彼女はリーズの右隣を歩きながらソフトクリームを食べている。「海外に逃亡してんの」

 「は? 逃亡?」

 彼女たちは笑った。

 「なんかいろんな音楽仕入れるとかで。たまにホームページ見てんだけど、一向に戻ってくる気配がない」

 「音楽のために海外にまで飛ぶって、すごい。うらやましい」なんて贅沢なのだろう。

 前方のベンチコーナーにマスティたちの姿が見えた。

 「なにしてんの?」

 背後からかけられた声に私たちは三人同時に立ち止まり、振り返った。二人の背の高い男が立っている。誰だ。

 リーズが答える。「歩いてんの」

 品定めをしているのか、彼らはにやつき顔で私たち三人を見やった。向かって右に立つ男が私に高校生かと訊いたものの、私は答えず、代わりにニコラが彼らに学年を訊いた。

 「高校二年」と、左の男が答える。

 彼女たちは無言で視線を交わした。なんらかのやりとりがあったのか、リーズは「中学二年」と答えた。

 私、一年ですけど。

 二人の男は声を揃えた。「若!」

 「ヒマならどっか行かね?」左の男がこちらへと視線をうつす。「好みのタイプ言ってくれれば、もうひとり呼ぶけど。すげえかっこいいツレもいるよ」

 黙ればいいと思うので、私は無視して彼女たちに言った。「アイスが溶けるから先に行く」

 「うん、すぐ行く」

 「これお願い」

 ニコラからアイスボックスの入った袋を受け取り、私は男を完全無視して立ち去った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 アイスクリームの入った箱を袋から出してテーブルに置くなり、マスティが切りだした。

 「最悪なんだけど」

 私はクレープの袋とハンドバッグをテーブルに置き、バニラチョコソフトクリームを食べながらアゼルの隣に座った。ブルがドライアイスの入った箱を開けるのを横目に、なにがだとマスティに訊いた。

 「お前らがのんびりアイス買いに行ってるあいだに、逆ナンがあった。しかも立て続けに二回。アゼルのアホが“失せろアホ”とか“鏡見てから来い”とか言って即終了」

 それで機嫌が悪いというのも、どうなのだ。「アホがアホっつってもアホにしかならない」と、アゼルに言ってみた。

 彼はブルからワッフルコーンのチョコレートソフトクリームを受け取っている。「世の中アホばっかりでイヤになるな」

 「だよね。アホばっかり」ナンパばっかり。

 「話を聞けアホ」マスティは低い声で言った。だがミントアイスはしっかりと受け取る。「アゼルはいいよ。けど俺らもう、半年近く女とヤってねえんだぞ。せっかくこのクソ暑い中センター街に来たってのに、アドレス手に入れる前に追い返しやがったんだこのアホは」

 確かに暑い。アイスよりも先にこちらが溶けそうだ。「だからアホがアホって言ってもアホのことをアホって言ってもアホはアホにしか──」

 バニラチョコアイス片手にブルが笑う。「意味わかんねえ」

 こちらに身を乗り出し、マスティは真剣な表情を見せた。

 「せめて俺らがアドレス手に入れるまでは黙れって言え。俺らが言っても聞かねえ」

 私の言うことを聞くとも思えないのですが。「──と、言ってますけど」アゼルに言った。

 「あいつらは?」

 答える前に彼女たちのほを見やった。まださっきの場所で話をしている。

 「ナンパされてる。取り込み中」

 「んじゃお前らもナンパしてくりゃいいんじゃね」と、アゼル。

 「あ、それいい」私は便乗した。「それで解決。完璧」指を鳴らせないのが残念だ。

 マスティは呆れ顔。「問題が変わってるから」

 どうでもいい。「じゃあ声かけられたら、二人は話を長引かせずにアドレスを手に入れる。もう帰らなきゃとか言い訳して。アゼルはそのあいだ、とりあえず黙っとく。終わったら、アゼルの“さっさと失せろクソ女”で締める」

 アゼルは笑った。「そうする」

 「アホ」ブルもとうとう呆れ顔になった。「そんなセリフ吐かれて、あとに続くと思ってんのか」

 ソフトクリームを食べ終わった私は、曲げた両腕をテーブルに乗せて身を乗り出した。

 「“さっさと失せろクソ男”とは言ってないけど、さっき二人組にナンパされた時、完全無視してひとり戻ってきたんだよね。まずかった?」

 彼らは顔を見合わせると、また視線をこちらに戻した。

 「まずくないから今も話してるんじゃねえの?」と、ブル。

 納得した。「じゃあ平気なんじゃない?」身体を起こして袋からストロベリー・チョコ・クリームクレープを取り出しにかかる。「相手が三人なら一人はイヤな思いするかもしれないけど、見ず知らずのアホ女がどんな気持ちになろうと、私の知ったことじゃない」クレープを一口食べた。おいしい。

 アゼルは笑って同意する。「左に同じ」

 彼らはものすごく呆れた顔になった。

 「イチゴクレープ食う奴のセリフとは思えねえ」

 そんなマスティの言葉にブルも同意した。「右に同じ」

 「正確にはストロベリー・チョコソース・生クリーム・クレープ」私は訂正した。「クレープのうまさナメんなよ」食べるのはひさしぶりだ。「ちなみにそのナンパ組は可愛かったの?」

 アゼルが即答する。「あれは喰えねえ」

 「ヤれるならわりとなんでもいいんだけど」と、ブル。

 「このクソ暑い中、わざわざ真面目につきあう相手が欲しいとまで思わねえ」マスティは平気な顔をして言った。

 暑さは関係あるのか。

 「お前、冬でも真面目につきあったことねえだろ」

 アゼルが言うと、マスティは彼を睨み返した。「お前に言われたくねえ」

 「ようするに」私は口をはさんだ。「文句言い続けるほど可愛いってわけじゃなかったのね」

 ブルは早々とアイスを食べ終えた。「それ言われたら、もうなんかどうでもよくなってきた」

 「だな」遠い目をしたマスティもつぶやくように同意する。「なんていうか、ケバいだけのそこらにいる女だし」

 ふと思いついた。「誰でもいいなら、一年喰ってけばいいんじゃないの? どうせあと半年ちょっとで卒業だし」

 マスティが苦笑う。

 「お前、そんなとこまでアゼルそっくり」

 「もともとの性格にそういう話がつけ加えられただけよ」

 私がそう言うと、アゼルは私の手からクレープを取り上げた。代わりにソフトクリームをこちらに渡した。彼はクレープを食べる。私もソフトクリームを食べる。

 ブルが言う。「けどたいした奴いねえじゃん。お前のツレ、何人か可愛いと思う女はいるけど、それに手出したらお前に殺されそうだし」

 「当たり前でしょ。私がなんとも思わなくてあんたたちが喰えそうなのは、たぶんエデあたりだと思う」

 クレープ片手にアゼルが言う。「あれは絶対めんどくせーだろ。かなりねちっこそー」

 マスティは肩をすくませた。

 「だよな。ま、リーズに訊いてみて、いいんじゃねって言われたらいくか。さすがにサビナに手出そうとは思わねーけど」

 「がんばれ野蛮人」

 少々気に障ったらしい。「いちばん野蛮なのはお前の男だアホ」

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