* Self Hatred
少しするとアゼルに促され、またベッドに入った。
彼は向き合って私に腕枕をし、私の髪を撫でた。
「誰になに言われても気にしないんじゃなかったっけ」
そのはずだった。気にしないはずだった。「もう、わかんない」
ただ、すごくムカついた。両親の姿が見えた。だけど知られたくないことは、考えたくないことは言わなかった。無意識に自制していた。
「けど泣かねえんだな」
泣くのは哀しいときだけだ。私にはもう、怒りと憎しみしか残ってない。
「哀しくはないから」
彼は笑った。
「変なやつ」
そう言うと少し下がり、微笑んで私の頬に触れた。
「お前、その髪キライなの?」
「大嫌い」即答した。
「ふーん。似合うのに」
「そういう問題じゃない」
「俺に赤は似合うと思う?」
「知らない」
「青と赤なら?」
「髪の話じゃないの?」
「髪の話」
「青い髪って、バカっぽい」
「んじゃ一緒にブロンドにするか」
ブロンド。ベビーブロンド以外ならいいかもしれない。「しばらくしたら私のほう、金と赤っていう、ものすごく不気味な組み合わせになるんじゃないの?」
想像したのか、彼がまた笑う。
「確かにそれは不気味だな」
「髪を染めるなんて考えたことがない」
「俺は更生施設に入る前にブロンドにしてた」
「染め直さなきゃいけないの?」
「いや、飽きただけ」
「飽き性って最低だよね」
「基本的に何事にも無関心な奴に言われたくない」
「髪の色を変える気はないの」謎が解けるまでは変えない。私は目を閉じた。「赤は憎しみの色でしょ。怒りの色。敵意の色。炎の色。だから変えない」
「俺の中で赤はもう、お前の色そのもの」
笑える。「私もそう思ってる」
髪はキライだけれど、赤は好きだ。落ち着く。だから携帯電話も赤にした。
目を開けて、アゼルのグレーの瞳を見た。
「知ってた? 私、あんたの番号知らないの。アドレスも」
「知ってる。お前が訊かねえから俺も訊かねえ」
「私が自分から番号訊くタイプだと思ってんの?」
「だからって俺が訊くと思ってんの?」
思わない。「一生知らないままでいいか。そしたらうるさくないし」
「寝てるとこ起こされなくていいしな」
「いがみあわなくて済むかもしれない」
「夜中にお前の家に不法侵入すればいいし」
「それはやめてください」
「なにされようと気にしないんじゃなかったのか」
「話が違うよね。ぜんぜん違うよね」
「とりあえず黙ればいいと思う」
「なら黙らせればいいと思う」
ふたりで笑い、キスをした。
アゼルはキスしながら私の身体を撫でたけど、それ以上はしようとしなかった。
私はありえない痛みを承知で、早く慣れたいと彼に言った。
彼は、応えてくれた。
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また少し眠ると、リーズとニコラが来た。
アゼルがリビングに行き、私たちはベッドに背をあずけて床に座った。ニコラは私の右隣で、リーズは私の左隣に。一度家に帰ったマスティから、なんとなくの事情を聞いたのだという。
「失敗だったんだよね、最初から」リーズがつぶやいた。「なんにも考えずに、ただおもしろがってインミを連れてきたんだけど」
ニコラが言う。「アゼルはあんまりいい顔しなかった。っつーか、ブルとマスティもか。でもうちら、一度誘ったからには引くに引けんくて」
リーズが続けた。「うちら、アゼルのこともインミのことも、よくわかんないんだ。アゼルは基本的にそっけないし、マスティとブルは、アゼルが施設に入ってからもやっぱり、彼女がいると居心地悪そうにしてて。だからここの鍵も渡さなかった。それでもインミは、アゼルの話をよく持ちだしてて。なんかうちらも、どうしていいかわかんないし」
ニコラが苦笑う。
「でもほら、あんまり疎外すると、なんか仲間はずれにしてるみたいになってイヤじゃん。ツレとしては、話してるとわりとおもしろいし。あいつらもそれはわかってくれてんのか、はっきりとは言わなかったんだけど」
私は立てた膝を抱え、床の一点からずっと視線をそらさずに、彼女たちの話を聞いている。
「ベラが気にすることないよ」リーズは私の肩にもたれた。「これはもともと、うちらの失敗だから」
ニコラが私の髪を撫でる。
「イヤな思いさせてごめん。アゼルがはっきり、もう来るなって言ったらしいから、もう来ないよ。うちらはインミとどうなるかわかんないけど、そこはもう、あの子に任せる。ツレじゃなくなるかもしんないけど、それはそれでいい。うちらもうどう考えても、マスティたちと一緒で、アゼルのほうがだいじなんだ。怖いけど」
リーズは笑って同意した。身体を起こし、ニコラと一緒に私の髪を撫でる。
「だからもう気にしなくていいよ。平気だから」
そんなやさしさに、自己嫌悪が自分を襲った。私はなにをしても、けっきょく、うまくはできない気がする。
顔を伏せ、私の髪に頬を寄せた二人の腕の中、静かに泣いた。




