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RED - DISK01  作者: awa
CHAPTER 03 * KISSING AND HATING
16/91

* Starting

 涙はときどき、意思を無視して浮かんでくる。

 アゼルは動じていなかった。「怒ったか」

 怒る? わけがわからないだけだ。「帰る」

 そう言って立ち上がった。だけどアゼルが腕を掴んで引き、また私をソファに座らせた。

 「わかったから」

 わかった? なにが?

 私の脚の上にまたがるようソファに膝をつき、彼が右手で私の頬に触れる。

 「仮に俺がお前を好きだって言ったとして、それが嘘だったらどうするわけ? 人間は嘘つくんだぞ」

 そんなことは、知っている。嘘だったらどうするのかなど、そんなことはわからない。

 泣きたくなくて、彼を睨んだ。「だったら、キスなんかしなきゃいい」唇が、震えていた。

 「キスはしたいと思ったからしたんだよ」

 意味がわからない。「だったら他の女にすればいいでしょ。私じゃなくてもいい」

 やっぱり涙は、意思とは関係ない。流すべきじゃない。哀しくはない。

 「お前にしたいと思ったからした。最初のも次のも今日のも。確かに俺は、ヤれると思えば顔だけ選んで誰かれかまわずだけど、お前に対してはちょっと違う。適当に選んだわけじゃねえ」

 ──意味が、わからなかった。

 「じゃあ、それが好きってことじゃないの?」

 「だから。好きだったとしても、好きだって言うことに意味はないっつってんの。俺は年下に興味ななかったし、ツレまわりにいる奴に手出したこともないし、出すつもりもなかったっつっても、お前は信じねえだろ?」

 彼の言葉を、頭の中でゆっくりと繰り返して再生した。

 答えが出た。「信じない」

 「だから意味ねえんだよ。お前が信じないなら意味がない。けどついでに言えば、俺だってこんなことするつもりなかった。お前はただのムカつくクソガキのはずだった。自分でもわけわかんねえ」

 わけがわからないのはこっちだ。「女に対してクソガキ言うな」

 「処女のくせに女気取ってんじゃねえよ」

 ムカつく。「うざい」

 「俺もお前うざい。すげえうざい。お前はなに? 俺のこと好きなの?」

 好き? 好き? 「好きってなに?」

 そんなこと、今まで考えたことがない。こいつに限らず、小学校の時だって、友達は友達だ。

 「ほら、わかんねえだろ? 俺もよくわかんねえ。んじゃヤらせろっつったらヤらせるか?」

 一瞬にして、なにかが冷めた。なにこいつ。

 「さらなる地獄に落ちればいいと思う」

 アゼルは微笑んだ。「お前も一緒にくるか? さらなる地獄」

 「──私はすでに、ものすごく深い地獄にいる。友達やリーズたちと一緒にいる時だけ、ちょっと這い上がれるの。でも基本的に地獄にいる。そこが私の居場所」いつまでも、抜け出せない。

 「それも俺と一緒。んじゃもうひとつ教えといてやる。俺は処女はキライ」

 笑える。「じゃあ私は一生しなくて済むわね」

 「いや、ヤる。しかも今から」

 「は? 待って。無理」

 「無理じゃねえ」

 「あんた自己中すぎだから。そういうのするのは夜って決まってるでしょ」

 「なんだその妄想。お前夜いねえじゃん。夕方帰るじゃん」

 はっとした。

 「今日友達のとこに泊まる。って、おばあちゃんに言った」

 彼はぽかんとした。「は?」

 「帰りが遅くなるっておばあちゃんが言うから、友達のところで夕飯食べさせてもらうついでに泊まるって言ったの。夕方電話して、友達のところに行くつもりだった」

 アゼルは状況を理解した。

 「んじゃここに泊まるか。あいつらにバレるけど、隠してもしょうがねえし」

 ばれる。しょうがない。なにを? っていうか、なに? 「つきあうの?」

 彼は口元をゆるめた。「セフレでいいならそうするけど」

 「ふざけんなアホ」マスティたちのおかげで、そういう言葉の意味は知っている。

 「どうせなに言ったって口約束でしかねえんだよ。あいつらとしないことをお前とするってだけの話。お前の処女をもらうのが俺だって話。俺がキライな処女を相手にしようとしてるってだけの話」

 半端なく意味がわかりにくい。「素直に好きって認めればいいと思う。そんでひざまずいて、つきあってくださいって言えばいいと思う」

 アゼルは笑った。

 「ひざまずきはしねえ。俺はべつにつきあわなくてもいいし。けどお前がつきあいたいなら、つきあうってことにする。そんなもんただの口約束で、周りに提示するただの説明文でしかないけどな」

 やはりよくわからない。が、説明文というのはなんとなくわかった。

 「なんかすごく間違ってる方向に進んでる気がする」

 「今さらだな。お前にキスした時から、俺は間違ってる」

 私は、この世に生まれた時から間違っている。この命そのものが間違いだ。

 私はまた質問を返した。「好きって認めるの?」

 「お前は?」

 「わからないし認めたくない」

 「んじゃもう黙れ」

 そう言うと彼はまた、私にキスをした。何度も何度も、深いキスを。


 これはやはり、きっと、最初にキスをされた時から間違いがはじまっていた。

 五十歩譲ってあれはまだマシだったと考えても、学校の階段でしたキスは、完全に間違っていた。

 あのキスで完全に、こいつのことが、他の誰とも違う存在になってしまった気がする。

 友達の言う片想い状態というのがないまま、こんなふうに、先のまったく見えない恋愛がはじまった。

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