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RED - DISK01  作者: awa
CHAPTER 02 * STRAWBERRY AND RAIN
14/91

* After School

 ハヌルは調子に乗ったらしく、翌日、リーズたちのことを自慢気に話して聞かせてくれた。彼女たちがすでに自分の家の電話番号を削除しているなどとは、微塵も想像していないらしい。影でなにを言われているかすら想像できていないらしい。

 一方サビナたちは、廊下で会った私に、なぜか話しかけてきた。リーズたちと仲いいの? などと訊かれ、よく遊んでもらっていると答えた。三人は引きつった笑顔になり、それ以来、会うたびに不自然極まりなく、やたらフレンドリーに挨拶してくる。だがその反面、話しかける距離にいない時は、いちいち私を睨んでくる。

 ちなみに私がリーズたちと一緒にいるのを見かけた時でも、リーズたちにはバレないよう、ものすごく睨んでくれる。おそらく考えてることは、むこうもこちらも同じだろう。“ふざけんな。うざい。死ね”、とな。

 あれからアゼルとキスすることもなく、おかしな雰囲気になることもなく、ふたりきりになることもなく、いつもどおりの態度のまま、七月になった。いつもより長めだった雨季も明けた。

 ジョンアやナンネ、そしてハヌルから広がったらしく、エルミも時々、リーズたちと話すようになった。だがリーズたちは、“あわよくばアゼルたちと”というエルミの考えを見抜いていて、誰が思いどおりにさせるかと言っていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「夏だね」

 金曜の放課後、B組の教室。ゲルトの背後の開け放った窓の向こうにあるよく晴れた空を見ながらアニタが言った。

 「夏なんてクソだ」ガルセスが言う。「一年中春でいいじゃねえか」

 私は窓際の前から三番目にある自分の席にあぐらで座り、閉めた窓にもたれている。「一年中冬でいいよ。もしくは秋」

 「だな」私の前にある、自分の席に腰かけたゲルトが同意した。「俺は冬だけでいい。暑いのはマジで無理。冬生まれだから」

 彼は十二月生まれだ。「私は五月生まれだけど、春が好きとは言えないな。私も冬がいちばん好き」

 ガルセスが笑う。「それはあれだろ、お前の性格の問題だろ」

 「はい?」

 アニタも笑った。「ひどいな。ベラはいい子なんだよ。冷たいけどいい子なんだよ」

 「それフォローになってねえよ。冷たいっつってるし」と、ゲルト。

 ほんとだよ。

 彼女はまた笑う。「ほんとだ。あたしは一年中好きだけどね。夏は確かにうざいことも多いけど、少なくとも制服は」腕を伸ばして制服を示す。「どう考えても夏のほうがマシでしょ」

 その意見には私も同意した。「冬の、なんか重いよね」

 冬のセーラー服は黒に近い紺色で、襟には二本の線が入り、真紅のリボンをつける。夏は白で襟だけ黒に近い紺色、やはり真紅のリボンをつける。スカートは夏用冬用とあるものの、どちらも黒に近い紺色で、見た目的にはぜんぜん変わらない。

 ガルセスが口をはさむ。「けどあれだぞ。ベラは冬服のほうが凄みが増す」

 唖然とした私を残し、アニタとゲルトは天を仰いで大笑いした。

 「ねえ。凄みってなによ」

 「だから、いや、悪い意味じゃなくて」言い訳がましく弁解する。「迫力が──」

 「迫力!」アニタは手を叩きながら、天を仰いで笑った。「わかるけどひどい!」

 「あんたもひどいわよ」

 「けどバランス的には夏服じゃね?」ゲルトが言う。「髪のことも考えて、カラー的バランスで言えば」

 「ねえ。髪のことには触れるなって何度言えば──」

 ポケットの中で携帯電話のバイブレーションが震えた。取り出して見ると、マスティからだった。なんだ。

 「ちょっと待って」と彼らに言い、通話ボタンを押して耳にあてた。「なんですか」

 「お前今、教室の窓際にいる?」

 「いるけど」

 「外見てみ。テニスコート」

 第一校舎と第二校舎、そして第三校舎はU字になるよう建っていて、中心にテニスコートがある。言われたとおり身を乗り出して開いた窓からテニスコートを見下ろした。向かいにある第二校舎側、携帯電話を耳にあてたマスティ、そしてブルとアゼルがいる。

 「今帰り?」

 「そー。アゼルの補習が終わったから」

 彼がそう答えると、アゼルは彼の後頭部を軽くはたいた。その部分を押さえながらマスティがまたこちらに視線を戻す。

 「お前は? 教室デート? 横に男がいる気が」

 「友達と四人で話してる」

 「へー。いや、なんでもない。お前の頭がすげえ目立つって言いたかっただけ。じゃーな」

 「ドアで指つめろアホ」

 そう言って電話を切った。

 ゲルトが苦笑う。「先輩だろ。敬えよ」

 電話をポケットに戻しながら、私は鼻で笑った。

 「敬える相手じゃない」

 「ほら、そういうところも冬っぽい」ガルが口をはさむ。「すげえ冷たい」

 「言っとくけど、私はムカつきはするわよ」

 「だよね」アニタが言った。「ベラはいつもなにかにキレてる。あいつがムカつく、あいつがうざい、あいつキライ、あいつ死ね、みたいな」

 思わず笑った。「ちょっと待ってよ、なんかものすごく性格悪いみたいじゃん。確かにカーリナがムカつくとかエルミがうざいとか、エデがキライとかハヌル死ねとか思ってるけど!」

 早口すぎる早口で言うと、三人はまた天を仰いで笑った。ガルセスとゲルトは声を揃えて「思ってんじゃねえか」とつっこんだ。

 「まあ、トロホヴスキーはないわな」ガルセスが言う。トロホヴスキーはハヌルのことだ。「けど」にやつき顔をゲルトへと向ける。「六年の時、お前、あいつに告白されたよな」

 私はぽかんとした。

 アニタが身を乗り出す。「マジで?」

 真っ青になっていた彼は我に返ったらしく、頭を横に振った。

 「違う。告白じゃねえ。バレンタインにチョコ渡されただけ」

 「知らなかった」そんな話ははじめて聞いた。

 「どんな?」興味深々といった様子でアニタが訊く。「どんなチョコ?」

 ゲルトが答えないのを悟ったのか、ガルセスが代わりに答える。「ハート型」

 私たちは大笑いした。アニタが興奮気味に叫ぶ。

 「ハート! マジで? マジやばい!」

 笑える。「食べたの?」

 「食うか!」彼は即否定した。「学校帰りにゴミ箱に捨てたわ」

 「最低」

 「ちょっと待って」とアニタ。「うちらがあげたのは?」

 私とアニタは去年、駄菓子屋やコンビニやマーケットで一口チョコを大量に買い、同級生の半数以上に、男女構わず配った。

 「あれは食べたけど、あれバレンタインて感じしねえよな。ただのおやつのおすそ分けみたいな」

 ガルセスも同意する。「だよな。しかもお前ら、女にも配っただろ。あれをバレンタインチョコのひとつにカウントしていいのかどうかって、かなり微妙」

 「それはどっちでもいいけど」私は言った。「私たちはあれのつもりだった。王様が城から大判小判を民衆に向かって投げるやつ」

 アニタがつけたす。「そうそう。“おら食えや愚民共!”ってね」

 笑いながら、彼らはまた声を揃えた。「愚民て!」

 「ちなみにそれはどっちが言い出した?」ガルセスが訊いた。

 アニタは私を見た。

 私もアニタを見た。

 犯人は。

 「ベラが言いだしたよね」

 アニタの答えで二人が笑う。「性格悪!」

 「ごめんなさいでした」


 その日の夜、リーズから明日センター街に行くけど一緒に行かないかと誘われた。遠いし面倒だからいいと断った。

 本当の理由は、センター街に行くと、音楽に目移りしてしまいそうだったからだ。CDを見ると欲しくなる。買ってしまうと、プレーヤーが必要になる。余裕で買えるが、音楽はもともと、あの人たちに教えられた。普通なら子供向けの歌から入るところを、百歩譲ってもポップスだろうところを、あの人たちは幼い私に最初から、ロックを聴かせた。

 最初はパンク・ロックだったものの、私があまり興味を示さないとなると、ポップ・ロックに変わった。私は夢中になった。カントリー・ロック、宗教ロック、そしてハード・ロック──。自分が歌うのは女性ボーカルの曲ばかりだったが、男性ボーカルのハード・ロックは、私の性格によく馴染んだ。

 だが私は春休み、あの部屋にお気に入りだったキャノピーベッドを置いてきたのと同じように、形ある音楽を捨ててきた。

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