* After The Rain
ニコラが、先にマーケットに行くとブルにメールを送り、女五人で中学から数分の、キャッスル・ロード沿いのニュー・キャッスル側に建つマーケットへと向かった。同じくキャッスル・ロード沿い、通りをはさんだマーケットの南向かいには、逆さL字になった公園がある。遊具はないものの、芝生には木々がランダムに植えられ、ところどころに、いくつかのベンチや木製屋根つきテーブルベンチが設置されている。
ちなみにたまり場のすぐ近くにはコンビニがあり、普段私たちはそこでお菓子を買っている。ナンネとジョンアがいるのでマーケットなのかと思ったが、リーズとニコラはそれを否定した。コンビニのアイスは種類が少なく、食べ飽きたらしい。
天然で気弱なはずのジョンアは、なぜか意外と打ち解けていた。ナンネはやはり気まずいのか、けっこうおとなしい。彼女たちはジュースだけにしたものの、私はひとりアイスクリームを先食いした。
少しすると、マスティとブル、そして補習を終えたアゼルが到着した。再びマーケットに行くと、彼らはマーケット内で通常販売のアイスクリームを買ったものの、私はひとり、マーケット内の出入り口付近に小さく構えたスウィーツショップでソフトクリームを買った。
リーズとニコラ、ナンネとジョンアが六角形の屋根つきテーブルベンチに座り、ブルとアゼルはその屋根を支える六本の支柱のうちの一本にそれぞれ背をあずけ、男組と女組に分かれて話をしている。
私はそこから少し距離をおいて同じようにある屋根つきテーブルベンチに座り、マスティとまたも議論をはじめた。
「だから夏はソーダなんだって」ベンチの左隣、ソーダ味のアイスバー片手に、マスティは苛立たしげな様子で続けた。「あっさりしたモンが欲しいからアイス食うわけだろ? ソフトクリームなんか食ったらよけい喉が渇くじゃねえか」
私はやはり鼻で笑った。
「違う。うんと冷えたモノが欲しいからアイス食べるの。身体の熱を下げるため。私はその中でソフトクリームが好きなんだっつってんの。喉が渇いたらなんか飲めばいいでしょ」
「はあ? だったらアイスいらねえじゃねえか。最初からジュース飲んどきゃいいだろ」
「バカじゃないの? ジュースじゃ喉は潤っても身体を冷やすまではいかない。だからアイス食べるんだってば。あっさりしたモノが欲しいなら、それこそスポーツ飲料でも飲めばいいじゃない」
彼は天を仰いだ。
「なんでお前はああ言えばこう言うわけ? どうにかならないの? その性格」
こちらも反論する。「は? なんでバニラチョコソフトクリームを否定されたあげくに性格まで否定されなきゃいけないのよ。っていうかさっさと食べないと溶ける」そう言うと、私は半分に減ったソフトクリームを食べた。「ついでに言えばね、ソフトクリームはこのワッフルコーンがうまいの」
彼も少々柔らかくなってしまったらしいソーダ味のアイスを食べる。
「なにを言いだす。また話が変わったぞ」
「だからね、ソフトクリームにはコーンがついてるでしょ。あ、ソフトコーンは例外ね。あれはワッフルコーンの足元にも及ばないから。私は、実はこのワッフルコーンが目当て。同じアイスなら木の棒より、ワッフルコーンがついてるほうが絶対得じゃない」
「ちょっと待て」
アイスを食べ終えたマスティは、ハズレのアイス棒を袋に突っ込んで近くに置かれたトラッシュボックスに投げ入れてから、またこちらに向きなおった。
「ワッフルコーンが目当てなら、ソフトクリームじゃなくてもよくねえか? なんならそこにカキ氷入れててもいいんじゃね?」
想像してぞっとした。「バカ言わないで。なにその不気味な考え。ふやけたワッフルコーンほどマズイものはないわよ」
「じゃあソーダ味のアイス?」
私は思わず天を仰いだ。
「合うわけないでしょ。なにその最低すぎる組み合わせ。一度精神科行けばいいと思う。っていうかその前にソフトクリームを食べるべき。このうまさを味わうべき。ソーダ味なんて邪道。シャキシャキのアイスバーなんてアイスじゃない。味つけてちょっと食べやすくしただけのただの氷じゃない」
私は言いきった。おそらくいろいろなところが間違っていると思うけれど。
「もうイヤ」マスティがテーブルに顔を伏せてうなだれる。「お前と話してると頭痛くなってくる」
「アイスの食べすぎよ」
「それはお前だろ」
そのとおり。
「ベラ、それ貸せ」
こちらにきたアゼルが私の手からソフトクリームを取り上げた。ダークブラウンの巻紙からコーンを抜いたついでにソフトクリームを一口食べる。ソフトクリームをこちらに返しながら、彼は巻紙の内側を確認した。
「──当たってる」
「当たり?」
ソフトクリームを受け取りながら、私は起き上がったマスティと声を揃えて訊き返した。視線がアゼルから巻紙へとうつる。
「ほら」
アゼルが巻紙の内側をこちらに向け、私たちは顔を並べそれを覗きこんだ。ホワイトの内側にダークブラウンの字で“当たり! 次回会計時にこの巻紙提示でソフトクリーム一本半額!”と書かれている。
「さすが私」左手を出した。「返して。今度使うから」
「ここはあれだろ? マスティに食わせるんだろ?」
「このアホはソーダしか──」
視線を彼へとうつすと、マスティはにやりとした。
「行ってくる」立ち上がってアゼルから巻紙を受け取る。「お前も半分食う?」
「チョコなら食う。スプーン取ってこいよ」
「ちょっと待って、私の──」
声が揃う。「早い者勝ちだ」
私はキレた。「ふざけんなアホ!」
けっきょくマスティはチョコレートソフトクリームを買い、アゼルとブルと三人で食べた。
私は一口ももらえなかった。ワッフルコーンすらもらえなかった。次にソフトクリームが欲しくなった時、ソフトクリーム製造機の故障に遭遇して買うのを断念しろと思った。
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すっかり暗くなった午後六時すぎ、ナンネとジョンアが帰ったあと。
「拗ねすぎ」
ベンチをまたぐよう、隣でこちらを向いて座っているアゼルが私に言った。曲げた左腕をテーブルに置き、手で頭を支えている。
うなだれているのを拗ねていると思われるのか。「拗ねてない」
私は曲げた腕を交差させてテーブルに寝かせ、そこにあごを乗せて視線は前方におさめている。「そりゃたまにしか買わないレジのソフトクリームだったから、ちょっとショックだけど。っていうかかなりショックだけど。なんなら記念にとっておきたくらい貴重だったような気がしてるけど」
「また当てりゃいい」と、アゼル。
「当てる前に破産するわアホ」
リーズたちは今も隣のベンチテーブルで話をしている。当たり券のことももちろん不満には思っているがそれ以上に、騒いだあとは家に帰りたくなくなる。ロボットになるために、テンションを下げなければいけない。今はその途中。だがそろそろ完全に下げきって帰らなければ。
「喜怒哀楽激しすぎ」
私には基本、怒りと憎しみしかない。「あなたに言われたくないんですけど」
アゼルは笑った。
「んじゃもし今度あのアイス買って当たりが出たら、お前にやる」
テンションを下げる必要のない家が欲しい。「ソフトクリームは似合わないからやめたほうがいいと思う」
「ホントに口の減らねえ奴だな」
「それもお互い様」身体を起こした。「帰る」
「んじゃマーケットで飯買うからつきあえ」
アゼルの夕食は、ほとんどが外食かコンビニかマーケットらしい。「ん」
リーズたちにマーケットでアゼルの夕食を調達したら帰ると伝え、ふたりでマーケットに行った。私もなんとなくお菓子を買った。なんとなく。そんなことをしなくても、祖母はいつもお菓子を用意してくれている。
ちなみに私、自分名義の銀行カードを渡されていて、毎月そこに、母親と父親から別々に、中学生には多すぎる額のお小遣いを振り込んでもらっている。もらっているというか、むこうが勝手にしていて、それはもちろん、遠慮なく使わせてもらっている。といっても地元で遊ぶタイプで、祖母もお小遣いをくれるので、そんなに使ってもない。ひそかに、いつかこれも自立の元手にしてやると思っている。
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「はい、あげる」マーケットを出て通りを渡り、芝生と木々が広がる公園へと入ったところで、袋から出したストロベリーチョコレートのお菓子をひとつ、アゼルに差し出した。「チョコとイチゴの最強コンビ」
立ち止まった彼が振り返る。
「肉のあとに食えってか」
そう言いながらも、彼は受け取ったそれを夕食の入った袋に入れた。
肉のあとに、ストロベリーチョコレート。「やめて。なんかものすごく不気味な気がする」
「いや、タイミング的にそういうことだろ」
彼は私の前に立った。微笑んで私の頬に触れ、上を向くよう促した。
そのまま、なにも言わずに顔を近づけ、アゼルは私にキスをした。頬にではない。額にでもない。唇にだ。
──なに。
約三秒。唇を離し、視線を合わせる。
「もしかしなくてもはじめてか」その手はまだ、私の頬に残している。
なにが起きたのか理解できず、どう反応すればいいのかもわからない。
「もしかしなくてもそうよ」
「キスの時は目閉じるのが常識」
“常識”。「ちょっと待って。常識ってなに? 許可なく勝手にヒトのファーストキス奪っておいて、常識だのなんだの言える立場?」
「気にすんな。特に意味はねえ」
そう言うと、アゼルはまた私にキスをした。
──意味は、ない? 意味ってなに? ないってなに? 意味ってなに? キスの意味って、なに?
また唇を離して私の顔を見ると、彼は顔をしかめた。
「目閉じるのが常識だっつってんのに」
なにが起きているのだろう。「とりあえず地獄に落ちればいいと思う」
アゼルは笑って手を離した。
「もうとっくに落ちてるから気にすんな」
そう言って、歩きだす。
なんだろう。あっけなく奪われた。なんだろう。これ、なんだろう。




