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RED - DISK01  作者: awa
CHAPTER 02 * STRAWBERRY AND RAIN
10/91

* Class Mate

 数日後、掃除の時間。

 同じクラスの女子たちと焼却炉に行ったあと、教室に戻るために第一校舎の階段をあがろうとしたところで、職員室から出てきたと思われるブルに呼び止められた。マスティとアゼルも一緒にいて、私は一緒にいた彼女たちに先に行ってと伝え、彼らがそばにくるのを待ってあげた。

 階段のステップを数段だけあがり、曲げた左腕を手すりに乗せてなんの用だと訊いた。ブルはなんでもないと答えた。いたから呼んだだけだと。

 「用がないなら呼ぶな」私は言った。同期からのうざい詮索がはじまる。「じゃあ行っていい?」

 「せめてなんで職員室にいたか訊いてくれ」と、マスティ。

 「いや、いい。興味ない」

 ブルが顔をしかめる。「減るもんじゃねえじゃん。いや、いい。勝手に喋る。アゼルがC組の教室のドアのガラス割った」

 「俺ら共犯扱い」マスティが補足した。「割ったのこいつなのに」

 「へえ」なんて楽しそうなことを、と思いつつ、彼らの一歩うしろに立つアゼルへと視線をうつした。「アホなの?」

 ポケットに両手を突っ込んでいる彼は、いつも以上に不機嫌そうだ。「あ?」

 手すりに肘をつき、左手にあごを乗せた。

 「あのね。引き戸は蹴っちゃダメなの。蹴っていいのは開き戸だけ。ついでに、できるだけ音を立てないように力加減をするのが普通。力加減の仕方もわかんないほどアホなの?」

 アゼルはさらに不機嫌になった表情をマスティへと向けた。

 「なんかムカつくんだけど」

 彼が笑う。「わかる。俺もしょっちゅうムカつく」

 私は身体を起こしながら鼻で笑った。

 「ムカつくのは勝手だけど、これは正論」言いながら腕を組む。「弁償させられるとしたらさらにアホ。お金の無駄。そんなことするくらいなら、壁でも机でも椅子でも蹴ってるほうがマシ。ひとり楽しいことしてんじゃないわよ」あれ、つい本音が。

 アゼルは理解した。「つまりお前も蹴って割りたいのか」

 ぜひ。「していいならいくらでもするわよ」微笑んで答え、身体を少し前に傾けた。「でもね、私は賢いから自分に不利になるようなことはしないの」そんなことをしたら、あの人に連絡がいくことになる。「でも机とか椅子とか蹴る時は呼んで。一緒にやって、ぜんぶあんたのせいにするから」

 不機嫌さが彼の表情から消えた。「口説いてんのか」

 「は?」再び身体を起こした。「どんだけアホなの? それとも耳が悪いの? 自意識過剰なの? バカなの? お咎めなしでウサ晴らしができるなら喜んでやるっつってんのよ。あんたが先生に怒られてくれるんならね」なにか言いたげなアゼルを無視して、右足を一段上のステップに乗せた。「っていうか、掃除終わってないから行く。まだサボりたくないから」そして彼らに微笑んだ。「じゃあね、三年の先輩方」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 六月、今年は雨季に入るのが早かった。うざいくらいの雨。

 雨季はキライだ。雨がキライだ。だけどときどき、雨のニオイが好きだ。でも水たまりは憂鬱になる。道を歩くにもいちいち水たまりを避けて歩かなければいけない。といっても私は、道に落ちたいろいろを踏まないよう、道路に注意を払って歩くクセがついているので、特に変わらないような気もするけれど。

 体育館に響く雨の音もキライだ。体育の授業がグラウンドよりも体育館のほうがいいけれど、なぜこんな雨の日に体育の授業をしなければいけないのかと思う。学校は雨季休みというのを作るべきだ。雨季入りしたら休みに入って、雨季が明けたら休みも終わり。そんなふうに。

 しとしとと雨の降る中、午前最後の授業、体育館での体育の時間が終わった。普段生徒が使う体育館の出入り口は、入学式に解放されていた吐き出し窓とは違い、校舎側にある。出入り口からは屋根つきの通路が伸び、第一校舎と第二校舎をつなぐ通路へと繋がっていた。

 同じクラスの男子は教室で保健体育の授業をしていて、今日体育館を使っていたのは女子だけだ。シューズ袋を持ったクラスメイトの女たちが、ぞろぞろと体育館を出て第一校舎へと向かう。私も女子三名と一緒にそれに続いた。

 「お、ベラ見っけ」

 声がしたほうを見ると、第一校舎と第二校舎をつなぐ屋根つき通路の第二校舎側に、壁にもたれて座りこんだマスティとアゼルがいた。

 くそ。見つかった。

 避けていたわけではない。三学年しかないこの小さな学校では、見つからないようにするというのも無理な話だ。だが一年は、二、三年とは校舎が違っている。一年は第一校舎二階、D組だけ第三校舎二階。二年と三年は第三校舎だ。ただとりあえず、リーズたちならともかく、男となると話が変わってくる。詮索好きの人間は必ずどこかにいる。私は面倒な詮索が本気でイヤだ。故に、少なくとも校内では彼らに会いたくなかった。

 「ごめん、先行ってて」

 奴らのところに行く必要があるのかどうかはわからないものの、とりあえず一緒にいたクラスメイトの女三人にそう言った。彼女たちは勉強ができる側の人間で、タイプはあきらかに違うのに、腐れ縁でときどき話す。わけのわからない男アイドルグループが好き。

 近づく私にマスティが言う。「なんでジャージなんだよ。女は脚出せ」

 「あほ。転んだら痛いじゃん」

 そう言って、私は彼の左隣にしゃがんだ。

 「なにやった?」

 「今日はバドミントン」

 「転ばねえじゃねえか」

 「転ぶのはバレーボールの時だけかもね」

 アゼルがつぶやく。「ドッジがやりてえ」

 「大好き」そしたらあいつに──。「あんたたち、白シャツ似合わないよね」

 彼らは私を睨んだ。「あ?」声が揃った。

 「失礼だな」と、マスティ。

 「ベラ?」

 今いちばん聞きたくない人間に名前を呼ばれた。無視するにもできる状況ではなく、悪態をつきたい気持ちを必死にこらえて、声の主、ハヌルのほうを振り返った。最悪だ。

 こちらに近づきながら、ハヌルは黒いスポーツタオルを差し出した。

 「このタオル、あんたのじゃないの?」

 さらに最悪だ。受け取った。「ごめん、ありがと」もう使えない。

 あからさまに見ようとしていないものの、ハヌルがマスティたちのことを気にしているのは明らかだった。

 「早く行かないとランチはじまるよ」

 お前がさっさと去れ。「わかってる。すぐ行く」

 第一校舎へと歩きだしたハヌルが振り返らないのを確認すると、私はタオルを地面に落とした。

 「ダスト・クロスにもできなくなった」

 マスティが苦笑う。「なにあれ。クラスメイト? ありえねえ」

 「無理。目の毒だ。なにあのメガネゴリラ」

 世界の終わりを目の当たりにしたような表情で言われたアゼルの言葉に、マスティと一緒になって笑った。メガネゴリラ。

 「そう。クラスメイト。大嫌いな女」

 「あんなん女って言わねえよ」なぜかキレかけてるらしく、アゼルは顔をそむけた。「あんなんを女って認めるくらいなら、一生誰ともヤらねえでいるほうがマシだ」

 笑える。「ぜひ挑戦してほしい」

 マスティが声を潜めて私に言う。「たぶん無理だよな」

 小声で返す。「絶対無理だから、罰ゲーム考えないと」

 笑いをこらえるよう口元をゆるめて提案する。「んじゃ女装。セーラー服でセンター街歩く」

 私は天を仰いで笑った。

 「やめて。セーラー服着た中学三年生の不良男なんて見たくない」

 「あ?」アゼルは私たちを睨んだ。「誰がセーラーなんか着るかボケ」

 「言うなよアホ」と、マスティ。

 だって笑える。「ごめん」

 「ベラ!」

 また名前を呼ばれた。体育館ではなく第一校舎のほうから、クラスメイトのゲルト・ハーネイとセテ・ガルセスが歩いてくる。

 「お前の数学のプリントどこ?」ゲルトが叫ぶように訊いた。「机漁ったけどどこにもねえぞ」

 こちらも声を大きくして答える。「机じゃなくてカバン!」

 ガルセスも言う。「五時限目で使うんだから机に入れとけよアホ! カバン漁るからな!」

 数学なんて反吐が出る。「間違ってたら訂正しといてよ!」

 そう言うと、二人は笑って手を振り、また第一校舎へと戻っていった。

 私は頭がいいわけではない。むしろ勉強はできない。真面目にやれば、彼らのほうが勉強ができる。それは彼らも承知だ。ただ真面目にやるのが面倒だからと、私たちは宿題として出されたプリントを、教科はローテーションで、三人で分担して解き、それを写し合うという、卑怯な方法で消化している。

 マスティがにやついてこちらに訊く。「どっちがお前のオトコ?」

 「は? どっちも違うし。向かって左にいたのがね、小学校一年から四年までと、六年の時にクラス一緒だったの。五回ね」ゲルト。「右にいたのは、一年と二年と四年と六年でクラスが一緒だった。四回」ガルセス。「で、中学でもまた一緒になった」

 私は中学からのアンケート、“仲のいい友人五名”のリストの二番目にゲルトの名前を、三番目にガルセスの名前を書いた。彼らは一番目にお互いの名前を書き、二番目に私の名前を書いてくれた。

 「へー。五回一緒ってすげえ気がする。あるんだな、そんなの」

 「でしょ」なぜアニタとそうならないのかは謎。「んでね、さっきのメガネゴリラは覚えてるだけでも、四年から六年まで一緒だった。超いい迷惑」

 アゼルはまた私を睨んだ。「耳が腐るからあれの話はするな。思い出させんな」

 「なんなら写真を──」

 二人はまた声を揃えた。「いるかボケ!」

 その後ベルが鳴り、ランチを食べにきたらしい彼らと別れて教室へと戻った。


 ハヌルのアホは予想どおり、ランチが終わった瞬間、私に質問を浴びせてきた。あれは誰なのか、何年なのか、なぜ一緒にいたのか、どちらかとつきあっているのか、彼女はいるのか、とか、なんとかかんとか。

 お前が触ったスポーツタオルを捨てたと言ってやろうかと思った。

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