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僕らはみんな生きている

作者: 上梓あき



電話のベルが鳴った。僕は受話器をとる。


「……はい、にこにこ葬儀社です。

 ……はい、ゾンビの駆除依頼ですね。住所は……」


電話を受けた僕は傍らで待機していた先輩に呼びかける。


「先輩、仕事です」


コーヒーカップをデスクに戻したアナスタシア先輩は「ああ」と返事をすると立ち上がって体を動かす。


ヘルメットを装着した僕がスーツのスイッチを入れるとヘルメット内部に先輩のコントラルトの声が響いた。


「現場は?」


「今、転送します」


僕は視線でヘルメット内部のスクリーンを操作して先輩に情報を送る。


「了解した。出るぞ、運転はお前がしろ」


営業所を出て車に乗り込むと、助手席に先輩が滑り込んできた。

夜の冷気が車に入り込む。

センサーを起動させた僕は車をスタートさせた。静かなモーター音だけがかすかに車内に響く。


「現場まであと五分。誘引用音声を流すので地域住民への対処はそちらでお願いします」


保健所の管制室に連絡を入れた僕は先輩に現状を報告する。


「地域住民からの報告で、外から不審な物音とうめき声、それから何かを引き摺る様な音がするそうです。

 所轄警察と地域の警戒網には既に伝達済みです」


「了解した。

 現場に着いたらスピーカーの設置はわたしがやる。お前は周囲の警戒を頼む」


僕が了解の意を示すと先輩はそのまま前を向いて黙りこむ。僕は車を走らせた。



現場に着いた僕達は保健所の管制に連絡を入れると作業に取り掛かった。

アナスタシア先輩が道の真ん中にスピーカーをセットする。

車を降りた僕はライフルを構えて不審者の接近に備えた。

深夜の住宅街に先輩の作業の音だけが響く。


「よし、終わったぞ」


僕達が乗ってきたワゴンから引いたケーブルを接続して先輩が声をかける。

頷いた僕は先輩と共に車に戻った。先輩はワゴンの後部スペースに乗り込む。


「……では、始める」


感情の篭らない先輩の声と共に装置のスイッチが入ると、湿り気を帯びたいやらしい声が辺りに響き渡った。


……ちゅばっ、ちゅばっ。んんっ、あんんんっ。

……んはああぁぁっ、ああああっ!


啼くような、叫ぶような、いやらしくも艶っぽい声が夜の街に木霊する。


エロゲ声優のエロ声がゾンビ誘引に絶大な効果があるとはいえ、寝ている住民達は、今、どんな気分でいるのだろうか?

そんなことを考えていると、いつしか僕の股間が膨らんでいることに気付いた。

エロゲ声優の声に先輩はどんなことを考えているのだろう……?


そんな益体もないことを考えているところに先輩の声。


「反応あり。来たぞ、十時の方向」


その声に反応した僕はすぐさま車の外に出て銃を構えた。

銃のスコープに連動してヘルメットのディスプレイにターゲットが浮かび上がる。

念のためにインプラント情報を確認するが無い。


「不法入国者のなれの果てか……」


僕はそう呟くと標的の額に狙いをつける。

吸った息を止めて静かに息を吐きながら引き金を落とす。瞬間、確かに手ごたえを感じた。

直後、標的の頭に穴が開く。


「ナイスショット」


先輩の呟きがスピーカーから聞こえる。

僕は息を吐き、銃を構え直して待機する。


……あんっ、あんっ、いや、いやぁぁぁ!

……ぐちょっ、ぬちょっ、ぬちゃっ


今日の音声ファイルは一○ヒカルか、おしゃぶりの演技が上手いんだよな。何だか堪らない気分になってくる。

……なんだか我慢できなくなってきたな、帰ったらヌクことにしよう。

そんなことを考えている僕に先輩が駆除の完了を告げた。


機材を回収して営業所へ戻る。

撤収作業の間、僕は先輩の体が気になって仕方なかった。

エッチな声に発情した僕の目の前に生身の女の人の肢体がある。

帰り道の間、先輩の女を意識していた僕はできるだけ先輩を見ないよう努力する。


営業所に帰り着いた僕は交代シフトのメンバーとの任務の引継ぎを済ませるとシャワー室に急いだ。

色々とすっきりさせるためだ。そうしないとやってられない。

おかげで帰り際に先輩達女性社員の前を通っても、予め出しておいたので色々と耐えることが出来た。

ほっとして僕は営業所の外へ出る。

既に日は昇り、通勤ラッシュがはじまっていた。

帰宅途中、先ほどの駆除地点を通りかかるとゾンビの痕跡は既になく、警察の鑑識が持ち去ったあとだった。


僕はその場に立ち止まる。

ゾンビが倒れていたはずの傍らを通学途中の小学生達が通り過ぎる。


……ぼーくらはみんなーいーきているー いきーているからーくるしいんだー

……ぼーくらはみんなーいーきているー いきーているからーかなしいんだー


そんな歌を口ずさみながら僕は通り過ぎた。




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