高尾の日記・その二
三千四百二十六年十一月九日
今日は僕の家にケイとクリスの二人が遊びに来た。
浅羽・袴田・慶太郎。
クリスティーナ・リンドール・ラッセン。
僕の一番身近な二人。
僕の一番大切な二人。
浅羽・袴田・慶太郎は僕の最も古い友達。
僕が七才で成人し、保護区から離れて初めてこの地の土を踏んだ日に、僕は僕よりも早くただ一人だけでこの地に住んでいたケイと出会った。
クリスティーナ・リンドール・ラッセンは僕の最も新しい友達。
僕がこの地に来て五年が経ち、保護区からこの地に来る者も絶えて久しくなった頃に、思い出したかのように最後にこの地にやって来たのが彼女だった。
この二年間、僕達三人は多くの時間を共に過ごしてきた。
この地には成人して保護区から出てきた人間が多く住んでいるけれども、僕達三人は他の誰よりも三人でいる事を望んできた。
僕達は仲の良い友人だった。
少なくともつい最近までは。
だが、いつの頃からか僕達の関係は歪み、少し様子の違うものになってしまっていた。
クリスは僕の家に来ると、いつも僕の気を引こうとする。
けれども、僕の意識はそんなクリスを疎ましくさえ思い、ケイの方へと流れていく。
恐らく、クリスは僕の事が好きなのだろう。
だが、僕はケイに惹かれているのだ。
それが最近僕達の間に生じた歪みの正体。
思春期を迎えて、僕達は互いに友情以上の感情を芽生えさせている。
だけど、この感情は互いに一方通行のものだ。
クリスは僕に惹かれ、僕はケイに惹かれている。だが、ケイは決して他人に対し友情以上の感情を抱く事は無いのだ。
この僕達の関係は、僕達の欠陥部分を如実に表している。
保護者達に製造された僕達は、性が三つに分かれてしまったのだ。
女性と男性、そして男性ではあるが男性ではない中性とでも呼ぶべき三つの性に。
女性は男性に惹かれ、男性は中性に引かれる。そして中性は誰に対しても友情以上の感情を抱く事は無いのだ。
決して報われる事の無いこの関係。
だが、僕達がこの関係に絶望する事は無い。
なぜなら、確かに自分の想い人が自分のものになる事は無いが、同じように自分の想い人が他人のものになる事は決してないからだ。
諦めにも似たこの安心感は、しかし一種の救いでもある。
保護者達によって改良され、怒りも闘争心も、嫉妬心さえも失っている僕達が、もし旧来のような男女の関係の中にあったならば、僕達の何割かは満たされぬ思いに苦しみ、しかし変える事のできないに現実に思い悩み、最後には破滅する事になるだろう。
……けど、最近はこの考えも自信を失ってきている。
確かにこのシステムは全員の諦めによって上手く成り立っている。
けど、決して報われないと考えると、僕はたまに切なくて気が狂いそうになるのだ。
そしてこの僕と同じ感情をクリスもまた僕に対して感じているのだとしたら、それはとても悲しい事に思える。
……多分これは一時的な事なのだろう。そうでないならば僕達より年上の他の管理区は成り立っていないはずだ。
けど、もしそれが本当でないとすれば……
これもまた、僕の研究課題に付け加えるべきものなのかもしれない。