瞳の中に映るもの
ハチはナナがとっても可愛いと思うのだ。
短い綺麗な黒い髪も、少し膨れた丸いほっぺも、少し低めの鼻も、つんと突き出た唇も。
ハチはナナの全てがとっても可愛いと思うのだ。
ハチがナナの目を覗いてみると、黒い虚ろな瞳にはハチの姿が映っていた。
ハチはナナの瞳が見えているし、ナナの瞳にはハチが映っている。
けど、ナナはハチの事が見えてないような気がするし、ハチの瞳にナナが映っていても、ナナはそれを見ていないと思う。
ハチはナナにハチを見て欲しい。
だからハチはハチの両目をナナの両目に合わせてじっとナナの瞳を覗き込んだ。
こうすれば絶対にハチの事をナナが見ているはずなのだ。
ハチはナナの両目をじっと見た。
すると、なんだかハチは心臓が早くなったような気がしてきた。
ハチは心臓が早くなって、顔が熱くなって、息が苦しくなってきた。
なんだかとっても苦しくて、なんだかとっても落ち着かなくて、ハチはナナの両目からハチの両目を下に向かって引き離した。
そうしたら、今度はハチの両目にナナの唇が合った。
すると、心臓はなぜだかもっと早くなった気がするし、顔ももっと厚くなってきた気がするし、だんだん息も切れてきた。
ハチは、なんだかナナの小さな唇にハチの大きな唇を合わせてみたくなった。
だけれども、それはなんだかとてもいけないことのような気がしたのでやっぱり止めておいた。
それでもナナを見ていたら、ハチはやっぱりナナの小さな唇にハチの大きな唇を合わせたくなってきた。
ハチはよく分からなかった。
どうしてそうなるのか、よく分からなかった。
ナナを見ていたら、ハチはナナの小さな唇にハチの大きな唇を合わせたくなってしまうのだ。
ハチは、ナナの小さな唇にハチの大きな唇を合わせるのはとてもいけない事のような気がする。
だから、ハチはナナに背中を向けて、ナナを見ないようにした。
そうしたら、どうしてかわからないけれども、心臓が早くなったのも治ったし、顔が熱くなったのも治ったし、息が速くなったのも治った。
ハチはよく分からなかった。
何が分からないのか、それもよく分からなかった。