リターナ
第六十番管理区が滅んでから数日が経ったその日。
ハチとナナは活火山の火口を見下ろしていた。
ハチとナナだけではない。
そこには、第六十番管理区の滅亡に居合わせた全てのリターナ達が揃っていた。
第六十番管理区の崩壊を見届けたリターナ達は、この世界に興味を無くしていた。
リターナ達から全ての記憶の証明を奪った者達が支配する世界に興味を失ったのだ。
リターナ達は全員、ハチとナナの記憶を持っていた。
高尾とクリスと過ごした、ハチとナナの記憶を持っていたのだ。
その全ての記憶の証明を、一切の痕跡も残さずをリターナ達は喪失してしまった。
記憶の拠り所を失ったリターナ達は、もはやこの惑星への執着心は無かった。
野蛮な人間達と一緒に暮らす事さえ嫌だった。
だから、リターナ達は旅に出る事にしたのだ。
長い長い時間をかけた、遥か遠い世界を目指す旅へ。
リターナ達は左右の人と手を握り合い、火口へと身を投げ始めた。
溶岩の中に身を投げたリターナ達は見る間に身体を硬化させていった。
硬化したリターナは、しかしその状態では年を取ることもなく永遠に死ぬ事はない。
いつかこの惑星にも寿命が来て、爆発を起こすだろう。
そしてリターナ達は宇宙空間に放り出され、長い長い時間を宇宙空間でさ迷う事になるのだ。
生存不可能な惑星の引力に引かれて、そこでまた長い間、待つ事になるかもしれない。
ブラックホールに飲み込まれて、未知の世界へと旅立つかもしれない。
けれども宇宙が終わってしまわない限り、いつの日にかは生存可能な惑星へとたどり着き、そこで再生される事をリターナ達は信じていた。
いつの日か、争う必要の無い平和な大地に帰還できる事を夢見て。
リターナ達は活動を停止した。