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リターナ  作者: 如月由縁
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ケイナの話

 この話の中に出てくる「アンシブル」はオースン・スコット・カード著の「エンダーのゲーム」に出てくる機械です。

 簡単に言えばどれだけ離れていても瞬時に連絡がとれる機械です。

 まあこの世界でのそういった機械の発明者がこの小説の愛読者だったとお考えください。

 ちなみに各部の冒頭の台詞だけの節も「エンダーのゲーム」のパクリだったり。

 非常にお勧めの作品です。途中から翻訳されてないので原文で読むしかありませんが……

 まず、私の事からはっきりさせておくべきだな。


 私の名前は啓那。この星から八百年前に宇宙に旅立った者達の生き残りだ。


 ふむ。生き残りという言葉が気にかかっているようだが、別にそれは言葉の綾でもなんでもないぞ。


 私は今年で八百二十六歳になる。


 驚いているようだがまあ無理も無い。


 君は知らないだろうが、延命装置は開発されていてね、細胞を若返らせる事によりこの姿を保っているのだ。


 ともかく、今回の騒動は私が里帰りを思い立ったところから始まった。


 私は八年前、地球がそろそろ浄化されている頃だというのを思い出して、地球の衛星から送られてくるその当時の地球のデータを見てみたのだ。


 そうしたら驚いたよ。


 君達のような不完全な人間が地球には暮らしているのだからな。


 まあ、ナノロイドが何を考えてこんな事をしたのかは見当がつく。


 それはナノロイドが君達に説明しているように人間がいないと存在意義がなくなるからなのだろう。


 それで人類を再生したのはまだ分かるし、まだ許せる。


 全ては主のいないこの星にナノロイドを放置した私の責任なのだからな。


 だが、私にはナノロイドの行った行為の中に、許す事ができない事実を見つけた。


 私が許せないナノロイドが行った行為とは、ナノロイドが自分の都合よく家畜のように人間を改良していた事なのだ。


 現存する四十の管理区を調べてみてそれははっきりした。


 第一番から第二十番までの管理区は全滅していたが、これもなぜ全滅したのかは予想がつく。


 まず、ナノロイドは人類を再生するにあたり、繁殖力を除去した。


 これは勝手に増えられてしまっては管理が大変だからだろう。


 これにより君達の性は三つに分けられた。


 しかし、これは上手くいかなかった。


 これは第一番から第二十番までの管理区が全滅していた事からの推測だが、恐らく、第一番から第二十番管理区までの住人は繁殖本能を妨げられ、結果として暴力本能を解放し、戦争に明け暮れたたのだろう。


 その結果として、第一番から第二十番管理区までの人間は全滅してしまった。


 そのため、次にナノロイドは人間の暴力的な本能を抑制した。


 これは戦争により絶滅しないための処理だろう。


 しかし、これも上手くいかなかった。


 確かに戦争が起きる事はなくなったが、やはり繁殖能力を妨げられた結果として、嫉妬から一時的に暴力的な本能が増幅し、女性が中性を殺し、男性が女性を殺し、最後には男性しか残らないようになったのだ。


 そのため、次にナノロイドは人間の暴力的な本能を、防衛本能だけを残して完全に除去した。


 そうすれば殺人は起きないからな。


 しかし、やはりこれも上手くいかなかった。


 暴力的な本能を完全に除去した結果、殺人こそ起きないようになったが、その代わり嫉妬心を発散する事もできなくなり、世を儚む者が増え、結果として自殺者が急増したのだ。


 この症例が起こっている管理区は未だ存在するが、その状況は酷いものだ。


 最後にナノロイドは嫉妬心などの感情の一部を除去した。それが君達の世代だ。


 これは一見成功したかのようにも見えた。


 争いも無く、世を儚む者もなく、平和そのものだ。


 しかし、それもやはり失敗だったのだ。


 ここまで人間をいじくった結果、ナノロイドは君達を人間とは認識できなくなってしまったのだよ。


 どうやら君達のような存在を創り出してしまった事でナノロイドも自分の失敗に気がついたようだ。


 それ以後は人間は生産されなくなった。


 しかし、ナノロイドはただ人間を生産しなくなっただけで、すでに生産した人間を治すでもなく滅ぶに任せて捨て置いている。


 これは、私には放っておく事のできぬ問題だった。


 言い忘れていたが、私はナノロイドの産みの親でな。私には自分の創ったものが起こした不祥事の責任を取る義務があるのだ。


 ゆえに私はこの事実を知るとすぐに地球へと旅立った。


 地球にはまだ、門を抜けて遥か遠き理想郷へ移り住んでいた弟がいたのでアンシブルを使い連絡を取り、私はすぐにこの地球へと旅立った。


 だが、アンシブルにより情報の伝達は瞬時に行えるものの、物質の瞬間移動は未だ開発途上でな、地球に着くのに実時間で七年もかかってしまった。


 私は地球に着くと、地球に来るまでの間に考えていた計画を立て、準備を終わらせておいた事をすぐに実行に移そうとした。


 計画とは地球に遺伝子治療のプログラムをしたナノマシンをばら撒いて亜人間を治療するものだ。これが一番手っ取り早いからな。


 しかし、その計画は連絡を取ってきた弟によって止められた。


 弟の話によると、弟は私の連絡を受けてから八年の間、君達の中に潜り込んで一緒に生活をして、君達を調査していたらしいのだ。


 そうやって君達と一緒に暮らしてみた結果、弟はその計画を実行に移すべきではないと判断した。


 確かに地球の状況はひどいものだが、一ヶ所だけ例外があったからだ。


 それは、君達の管理区だ。


 君達の管理区は平和そのものだ。


 君達は身体をいいようにいじられた結果、人間とは認識されない存在になってしまったが、それは一代限りの新たな種が生まれたと言っても良い。


 それが安定しているとなれば、一個人の勝手でその種の存在を否定するような真似をすべきではないと弟は考えたのだ。


 弟の意見は私にも理解する事ができた。


 しかし私はナノロイドの愚行を許す気にはならなかった。


 だから私は弟と賭けをする事にしたのだ。


 弟が賭けに勝てば現状を留め、私が勝てば私の計画を実行すると。


 ただし、計画の対象は地球上の亜人間全てではなく、人間へと生まれ変わる事を希望した者だけに変更したが。


 賭けの内容はこうだ。


 まず、被験者を選び出し、その者の記憶を消去して完全な人間へと治療し、君達の管理区に帰還させる。


 帰還したものが君達の手により人間として生まれ変わり、集団として生きていく気配を見せれば私の勝ち。


 そうでなかったら弟の勝ちだ。


 これはつまり、君達と人間が共存できるかを調べるテストというわけだ。


 ちなみに賭けの期間は十年を予定していた。


 君達がリターナと呼び、私達が帰還者と呼ぶ者の選出基準は、自殺を思い立った者達だ。


 私は自殺を決行する寸前の者を回収し、本人の希望を聞いた上で、記憶を失い、自力で動ける事すら忘れるが、しかし完全な人間へと生まれ変わらせた。


 また、放置した帰還者はそのままだと死んでしまうだろうから、私達のように宇宙で暮らす者達が身につけている能力を身につけてもらっている。


 それは非生存環境における肉体硬化能力とテレパシー能力だ。


 本来は宇宙空間に放り出されてしまった時などに救助を呼び、救助が来るまで生き延びるための能力だが、これは長らく地表に捨て置かれるだろう帰還者の身を守るために、また、人間として目覚めた時に未だ人間として目覚めていない者を目覚めさせるのにちょうど良いものだった。


 帰還者を君達の管理区に放置したのは、君達の性質を計るためだ。


 君達は亜人間であり、私の治療を拒否した場合、異なる種のものと共存する事になる。


 ゆえにもし、君達が帰還者を人間として育てあげ、共に暮らすことができたのならば、異なる種のものと暮らす事に問題はないと考えられるからだ。


 そして君はハチを育て上げ、人間として生まれ変わらせてくれた。


 これにより、私の勝ちはほぼ不動のものとなった。


 今日は君に話を聞かせに来たのもあるが、同時に今日、私がここに現れたのは、ナノロイドの横暴をこれ以上野放しにしないためでもある。


 これまでにも帰還者が人間に生まれ変わりそうになった事は何度かあるのだが、そのたびに帰還者はナノロイドによって回収され、監禁されているのだ。


 これまでの帰還者はまだ人間とも獣ともいえない段階で回収されていたから私も許していた。


 だが、ハチは違う。


 ハチは自我を獲得し、一人の人間として、一人の男として行動を始めた。


 ゆえに私はもはやナノロイドに彼を傷つけることを許さない。


 回収された帰還者達はナノロイドの拠点地に監禁されている。


 この話を聞いてハチが仲間を助けに行くかどうかはハチの考え次第であり、私には強制できないが、私はハチが仲間を必ず助けに行くものと確信している。


 そして、ハチが仲間を救出し、心を通わせ合えば、賭けは私の勝ちとなる。


 ハチが仲間を救出した後で、私は地球上にいる全亜人間に希望を募る。


 それまでによく考えておくのだな。自分の道を。


 この話を聞いた上で君がどう判断し、どう行動するかは君の自由だ。


 しかし、できる事なら君には私の治療を受けてもらいたいと私は考えているのだがな。

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