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第三部 帰還者
「どうにもまずい事になっている」
「どうしたんだ?」
「どうやらこちらの動きを察知されたらしい。ナノロイドが彼の家に向かっていて、それに追いつけそうに無い」
「そうか……」
「君も複雑な立場だな。
私がナノロイドに出し抜かれれば賭けは君の勝ちになるが、そうなれば君は君の関係者を犠牲にする事になる。
いずれにせよ一利一害。
どちらに転んでも利は有るが、その代わりにどちらに転んでも大事なものを無くす事になるのだからな」
「分析するのは止めてくれよ、姉さん。
その分析能力は確かにあなたの長所だが、それを他人の心情を考えずに口に出すのは短所だと思う」
「ふふ、まあそう怒るな。
しかし、これで賭けに決着が着きそうだな。
彼が回収される前に私が間に合うか、それとも間に合わずに彼が回収されてしまうか。
これまでの例を見れば、もはや彼以上に良い結果は出そうに無い。
間に合えば私の勝ち。間に合わなければ君の勝ちに決まりそうだ……」