クリスの帰郷
クリスは考えていた。
今回の旅で知った事を、自分の弱さや強さの事を、サンタやケイの事を、ナナ達リターナの事を、第二十三番管理区の事を、保護者の事を、その全ての事を考えていた。
クリスは考えて考えて、そして考える事を止めた。
考える事はクリスらしくない。クリスはクリスが見たもの、聞いたもの、感じたものをそのまま受け入れるのがクリスらしいのだ。
クリスは一人頷いた。
そう、考えるのはクリスの役目じゃない。
考えるのはサンタの役目なのだ。
だから、今回の旅で見て、聞いて、感じたものをサンタに話してあげようと思った。
クリスはいろんな物を見て、いろんな事を聞いて、いろんなものを感じて、変わったと思う。でも、変わったと思うけれども、やっぱり変わっていないのだ。
変わったけれども変わらない。
クリスはサンタの事が好きだ。クリスはナナの事が好きだ。ハチの事もケイの事も、みんなの事が好きだ。
いろんな事を見て、いろんな事を聞いて、いろんな事を感じたけれども、それでもその事が変わるはずが無かった。
だから変わっていない。
クリスの中で何かが変わったかもしれないけれども、大事な事は変わっていないのだ。
クリスは空を見た。
空はどこまでも青くって、雲は限りなく白くって、風は力強く草原を揺らしている。
空に浮かぶ雲にサンタの面影を見たような気がした。
クリスは、なんだか急にサンタに会いたくなった。
だから、会いに行こう。
「ナナ、帰ろうか」
クリスは寄りかかっている岩の上にいるナナに声をかけた。
ナナは、笑顔で頷いた。
クリスは心の中で旅の終わりを宣言した。そして、次の旅の始まりを感じた。
いろんな物を見て、いろんな音を聞いて、いろんな感情を感じたから、今度は家に帰ってその話を聞かせてあげるのだ。
それこそが、新たな旅だ。
ここにひとつの旅が終わり、クリスはまた新たな旅に出た。