かぜのこえ?
第二十三番管理区から出たクリスとナナは、管理区から遠く離れた草原にいた。
両脇を崖で囲まれたその谷の中の草原は、強い風が吹き荒れていた。
ナナは、その草原の中にぽつんと存在していた大きな岩の上に立って、風を感じていた。
その下では、クリスが岩に寄りかかってじっとうつむいている。
草原に吹く力強い風。
その風を全身に受けながら、ナナは高尾の家からクリスに連れ出されてからの丸一日の記憶を反芻していた……
いろんな事があった。
いろんな物を見た。
いろんな音を聞いた。
いろんな感情を感じた。
流れていく木を見た。身体を抜けていく風を見た。降りしきる雨を見た。月の光を見た。月が映し出す世界を見た。朝の太陽を見た。朝日が映し出す世界を見た。
風の音を聞いた。雨の音を聞いた。大地の音を聞いた。森の音を聞いた。葉っぱの音を聞いた。空の音を聞いた。
楽しい気持ちを感じた。不思議な気持ちを感じた。面白い気持ちを感じた。楽しい気持ちを感じた。苦しい気持ちを感じた。悲しい気持ちを感じた。つらい気持ちを感じた。怖い気持ちを感じた。寂しい気持ちを感じた。快い気持ちを感じた。爽やかな気持ちを感じた。力強い気持ちを感じた。興奮する気持ちを感じた。後悔する気持ちを感じた。癒しの心を感じた。
風の声が聞こえた。
風に乗って、ハチの声が聞こえたような気がした。
風が、ハチの顔を思い出させた。
ナナは今回の旅で見たもの、聞いたもの、感じたものをハチに話してあげたいと思った。
ナナは、ハチに会いたいと思った。