第二十三番管理区の男の話
そうだね、どこから話そうか。
まずは確認をしておこう。
お嬢ちゃんのところも性は三つに分かれているかい?
男性に惹かれる女性と、中性に惹かれる男性と、誰にも惹かれない中性に。
え? そんなの常識だって?
はは、まあそうなんだろうねぇ。うちらの間でも常識だよ。
お嬢ちゃんは管理区に女性がいなかったのに気がついたかい?
ほぉ、気がついたのかい。目がいいねぇ。
けど、いないのは女性だけじゃないんだよ。うちの管理区には中性もいないのさ。
つまり、うちらの管理区には男性しかいないってことだ。
何でそうなったのかって? まあ、話を焦るもんじゃないよ。筋道を立てて教えていくから。
……そうだね。うちの管理区になんで男性しかいないかってえと、まあ簡単に言えば、みんな死んじまったからなんだよ。
そう、女性も中性も全員。
病気かって?
いや、それなら男性だけ生きているのは変だろう。
男性はかからない病気だって?
はは、確かにそれなら話のつじつまは合うわな。それならまだマシだったんだけれども、事実は違う。
事実はな、みんな殺されちまったし、殺しちまったんだよ。
中性も女性もな。
女性が中性を殺して、男性が女性を殺した。簡単な話だろ?
おぉ、怯えてるねぇ。まあ無理も無い。だから聞かなきゃよかったんだ。
え? 俺も殺したのかって?
ああ、殺したさ。一人だけ、女性を殴り殺したよ。
何で殺したのかって?
そりゃあ……ここがやり切れないところってやつだな。
別に俺達だって殺したかったわけじゃないさ。
けど、先にやったのは女性だし、俺達男性はやり返さなきゃ気がすまなかったのよ。
女性はな、嫉妬の炎に焼かれて中性を皆殺しにしやがったのよ。
まあ、仕方ないのかもな。
男性は中性に振り向いてもらえなくても中性は誰にもなびかないからまだましだが、女性は男性を好きになっても男性はなびかないどころか他の中性を追いかけてばっかりいる。
そんな光景を見るのに耐えられなかったんだろうねぇ。
最初はな、小競りあいだったのよ。
男性と女性と中性が鉢合わせして、女性が難癖つけていたんだ。
けどな、それが取っ組み合いの喧嘩になって、勢い余って女性が中性を殺しちまった。
それだけならまだマシだったんだけど、中性を殺した女性がその場で女性を扇動し始めたのよ。
「中性がいるからこんな目にあうんだ。状況を変えるには中性を皆殺しにすればいい」ってな。
まあ、女性はみんなそう思ってたんだろうな。そしたらもう、それから後は雪崩みたいな勢いよ。
女性はな、もうそれを聞くや否や、そこらへんから先の細いものを持って集まって、中性を虐殺し始めた。
男性はもう何が起きているのやら理解の外だったし、襲われた中性は女性の勢いに圧倒されて、反撃するどころじゃなかった。
一時間後には息のある中性はいなかったよ。
俺達男性はその地獄絵図に呆然としていた。
中性を皆殺しにした女性も、終わった後は放心したように立ち尽くしていた。
女性よりも早く我に返った男性は、それから男性だけで集まって会議を開いた。
そんで、全会一致で女性を皆殺しにしようって事で決まったのよ。
後は同じ事の繰り返し。
中性を殺して放心してる女性どもを男性が殺して回った。
まあ違う事と言えば、女性と違って武器を使うよか素手で殴り殺してた奴の方が多いってところかな。
復讐が終わったら俺達も気が抜けちまってさ、放心してる間に保護者が来て、後片付けは全部やってくれたよ。
しかし、嫉妬やら殺意やら復讐心やら、あの感情は性質が悪いねぇ。
なにせ抱いてる時は楽しいけど、やっちまった後は後悔するからねぇ。
え? お嬢ちゃんにはそんな感情は無い?
ああ、それはそうだろうねぇ。
こんな事があったから、保護者がそれから製造する人間を改良してそんな感情抜き取っちゃったからねぇ。
そんなのは知らないって?
そりゃそうだろうねぇ。保護者はそんな事言わないだろうし、お嬢ちゃんみたいに違う管理区に行こうなんて酔狂な奴はめったにいないからねぇ。
実際、ここ数十年でここに他の管理区から誰かが来た事なんて、これで二度しかないんだからなぁ。
けど、保護者が俺達の構造をいじくっているのは本当の事さ。
お嬢ちゃんはそんな感情持ってないらしいけど、うちらはみんな持ってるからねぇ。
まあ、ともかく話はこれで終わりだ。
どうだい、聞かなきゃよかっただろ? 後悔しただろ?
じゃあ帰りな。
ここにいてもろくな事は無いよ?
もしかしたら昔の恨みをご大層に抱えている連中もいるかもしれないし、命があるうちに帰った方がいいてもんだ。
……正直な話、お嬢ちゃんを見ていると、俺も歯止めが効かなくなりそうなんだよ。