こうかい?
クリスに頬を叩かれたナナは、一瞬何が起きたのか分からなかった。
クリスを見たら、怖い目でナナを睨んでいた。
どうしてクリスがそんなことをしたのか分からなかった。どうしてクリスがそんな目をしているのか分からなかった。
クリスがナナの胸を叩きながら、その胸の中で泣き始める。クリスが感じる感情がナナの中に流れ込む。
クリスの感情が流れ込んできたおかげで、ナナはクリスが泣いているのがナナのせいだということが理解できた。
クリスが泣いているのが自分のせいなのだと分かったら、嫌な感情が胸の中に溢れてきた。
嫌な感情に耐え切れなくって、ナナは泣き出した。
初めて自分の中に湧き上がった負の感情に翻弄されてしまい、どうしていいか分からずに、自分の感情を分析する事もできずにナナは泣き続けていた……
苦しい感情。悲しい感情。つらい感情。怖い感情。寂しい感情。許せない感情……
嫌な感情が溢れてくる。感じたくない感情が溢れてくる。
嫌な感情がナナを責める。
後悔? そう、これは後悔。
ナナはクリスを泣かせてしまった。ナナはクリスが嫌な事をして、クリスを泣かせてしまった。
だから後悔しているのだ。クリスが嫌だと知らなくて、クリスが嫌な事をしてしまったから、だからナナは後悔しているのだ。
ナナは自分が許せない。
そんなことをしてしまった自分が許せない。
自分だけが楽しくて、クリスを怖い目にあわせてしまった自分が許せない。
けど、許されたい。
ナナはクリスに許されたい。
怖い目にあわせてしまったけれども、もうしたくないし、絶対にやらないから許されたい。
ナナは許して欲しくてクリスを抱いて泣いた。
クリスにすがるように、しがみついて離されないようにして泣き続けた。
そうしたら、クリスもナナを抱き返してくれていた。
ナナの中にクリスの感情が流れ込んでくる。
苦しみの感情が流れ込んでくる。悲しみの感情が流れ込んでくる。つらい感情が、怖い感情が、寂しい感情が、許せない感情が流れ込んでくる。
ナナの中にクリスの負の感情が流れ込んでくる。
けれども、負の感情が薄れていったと思ったら、今度はナナの中に、クリスの正の感情が流れ込んできた。
ナナの後悔の感情の中に、クリスの優しい感情が溢れてくる。ナナの黒い感情の中に、クリスの白い感情が溢れてくる。
癒しの心? そう、これは癒し。
クリスの感情がナナを癒してくれている。クリスのいたわりがナナを癒してくれている。
ナナは泣きながらクリスを見た。
クリスはもう泣いていなかった。
けど、ナナは泣き続けた。クリスの胸に抱かれながらナナは泣き続けた。
クリスが泣き止んで嬉しいけれども、ナナはナナが許せないから、だから泣き続けた。
ナナは泣き続けた。けれども、ナナが泣いている間中、クリスがナナをずっと癒してくれていたから、ナナはやっぱりナナが許せなかったけれども、クリスのおかげで泣き止む事ができた。
ナナは恐る恐るクリスを見た。
クリスを見ると、クリスが笑ってくれた。
だから、ナナもクリスに笑う事ができた。