クリスの感動
クリスは放心していた。
朝日が創りだす色に満ちた世界のありように心奪われて、いくら泣いても消えなかった負の感情さえも忘れてその光景に見入っていた。
朝日が創りだす世界がこれほど美しいものだとは知らなかった。崖の上から眺める大地がこれほど美しいものなのだとは知らなかった。
クリスはこれだけで旅に出たかいがあったような気がした。
旅に出なかったらこんな景色を見ることは無かっただろうし、これを見ないということは人生を損しているような気がするのだ。
クリスは美しい景色を目に焼き付けようとその景色を隅々まで見回した。
そして景色を見回していたから、それに気がついたのだ。
崖のすぐ下の方には町並みが広がっていた。
目の前に広がる自然の中で明らかに人の手で作られたその場所は……
「第二十三番管理区だ!」
そう、忘れていたけれども、そこがクリスの旅の目的地だったのだ。
クリスはなんだか得したような気がした。
こんな綺麗な朝日が見られて、しかもいつのまにか目的地のすぐ近くにまできていたのだ。
「けど……」
ある事実に行き着いて、クリスは見る間にしぼんでいった。
管理区は崖の下だ。
どれくらいの高さか正確にはわからないけれども、この崖は降りられるような高さではない。
クリスは困り果てた。
迂回していくべきだろうか?
けど、崖はずっと続いていて、簡単に降りられそうな場所など見当たらない。
目的地はすぐそこだというのに、どうしようもないのだろうか。
クリスは困っていた。
「えっ?」
そうしたら、いつのまにか身体が宙に浮いていた。
昨夜と同じように、ナナに担ぎ上げられていたのだ。
ナナは崖に近づいた。
「ま、まさか?」
クリスはまさかと思った。
けど、その通りだった。
ナナはクリスを担ぎ上げたまま、崖から飛び降りたのだ。
クリスは恐怖した。
叫ぶ事すらできなかった。