げんふうけい?
結局のところ、ナナはそのままクリスに拉致されてクリスの傷心旅行に付き合わされてしまっていた。
ほとんど森に侵食されてしまっている、ろくな舗装もされていない山道が続く森の中。ナナは今、屋根がオープンなエアカーの助手席に乗っている。
どんな奇跡の産物なのか、まともに動く千年物のエアカーをどこからか見つけてきたクリスは、ナナの横で運転技術をマスターしようと奮戦している。
けれども、そんなクリスには構わずに、ナナは流れていく景色をじっと眺めていた……
右目の方から左目の方にたくさんの木が流れていく。
楽しい気持ち? そう、これは楽しい。
木が流れていくのは楽しい。たくさんの木が流れていくのは楽しい。
だからナナはじっと景色が流れていくのを眺めていた。楽しいからじっと眺めていた。
強い風がナナの身体に当たり、ナナの身体を抜けていく。
良い気持ち? そう、これは良い気持ち。
風に当たるのは良い気持ち。風が身体を抜けていくから良い気持ち。
良い気持ちだから、ナナはバンザイをして手を上に突き出してみた。
すると、開いた手の中には何かを掴んでいるような感触があった。
ナナはそれを掴んで目の前に持ってきた。手を開いてみる。けど、そこには何も無い。
不思議な気持ち? そう、これは不思議。
あるはずなのに無いから不思議。見えないのにあるのは不思議。
いろんな感情が感じられる。いろんな感情が溢れてくる。
知識はハチからもらったから分かる。けど、感じるのははじめてだから面白い。
面白い気持ち? そう、これは面白い。
分かるのは面白い。感じるのは面白い。はじめては不思議だから面白い。
だからナナはいろんな事を感じたいと思った。