瞳の中に見えるもの
ハチはナナを見ている。
ナナはハチを見ていない。
ハチはナナにハチを見てもらいたい。
だから、行動しなくてはならないのだ。
ハチはナナが好きだ。
ナナがハチを好きかは分からない。
ハチはナナにハチを好きになって欲しい。
だから、行動しなくてはならないのだ。
ハチはナナの前に立った。
ハチはナナの目を見た。
ナナの目にはハチが映っている。
けれどもナナはハチを見ていない。
ハチはナナが好きだ。
短いキレイな黒い髪も、少し膨れた丸いほっぺも、少し低めの鼻も、つんと突き出た唇も、黒い虚ろな瞳も、その全部が大好きだ。
ハチはナナにハチを好きになって欲しい。
ハチの髪もハチのほっぺも、ハチの鼻も、ハチの唇も、ハチの瞳も。
ハチはナナを見ている。
ハチはナナにハチを見て欲しい。
だからハチは行動した。
だからハチはナナの肩を掴んだ。
だからハチはナナの顔にハチの顔を近づけた。
だからハチはナナの小さな唇にハチの大きな唇を合わせたのだ。
ナナの小さな唇にハチの大きな唇を合わせるのは、とても気持ちがいいことだった。
ナナの心がハチに伝わるようで、ハチの心がナナに伝わるようで、とても不思議で、とても気持ちが良くて、とても心地が良くて、ハチはずっとナナの小さな唇にハチの大きな唇を合わせていたかった。
けれども、唇を合わせていたら口から息ができなくて、息が苦しくなってきたから、だからハチは仕方なくナナの小さな唇からハチの大きな唇を離した。
ハチはナナの肩を掴んでいる。
ナナもハチの肩を掴んでいた。
ハチは大きく息をした。
ナナも大きく息をする。
ハチはナナを見ている。
ナナもハチを見ていた。
「ハ……チ?」
ナナは首をかしげてハチにそう言った。
ハチはなんだかとても嬉しかった。
名前を呼ばれただけなのになんだかとても嬉しかった。
「ナナ」
だからハチも名前を呼んだ。
名前を呼ばれて嬉しかったから、だからハチもナナの名前を呼んだのだ。
ナナのほっぺが緩んだ。
ハチのほっぺも緩んだ。
ナナの瞳にハチの姿が映っている。
ハチの瞳にもナナの姿が映っていると思う。
ハチはナナを見ている。
ナナもハチを見ている。
ナナの瞳はもう虚ろじゃなかった。