美人で周囲に人気なクール幼馴染の男避けとして付き合っていたのに、自分が他の女子に告白された瞬間、幼馴染が血相を変えて浮気だと迫ってくる話
僕は昔からずっと幼馴染のことが好きだった。
幼馴染は凄く美人で、でもクールな女の子で。
面倒臭がりなところもあるけれど、優しい一面もしっかりあって、そんな素敵な女の子だったから好きだった。
けれど、僕は彼女に好きだという気持ちを伝えたことがなかった。
何故なら、彼女はとてもよくモテていたからだ。
振り返れば、小学生の頃からだった。
友人たちと恋バナになれば全員が幼馴染の名前を挙げていたし、中学に上がればその流れは更にエスカレートしていって、別のクラスの男子から告白された話や、はたまた先輩にも告白されたという噂を聞くようにもなった。
可愛くてクールな性格で、勉強も運動もできて……まさに引く手あまたの人気者。
イケメンな先輩も、部活のエースも、みんな彼女に告白していた。
そして……幼馴染はその全員の告白をことごとく振っているらしかった。
誰が告白してもフラれてしまう高嶺の花。
そんな彼女に、たまたま運良く家が近所だったおかげで小さい頃から仲が良かったために、幼馴染というポジションになれて、今でもなんとか友人関係でいられているだけの、そんな僕が告白しても受け入れられるわけがない。
それに加えて、だ。
一度だけ、どうしてあんなにかっこいい人たちの告白を振ってしまうのかと尋ねたことがある。
僕の質問を聞くと、幼馴染は面倒くさそうにため息を吐いて。
それから「はぁ、別に恋愛とかに興味ないし。異性と関わるって言っても、○○とこれくらいの距離で関わってる方が気が楽だし楽しいかな」と言ってきた。
その言葉の意味するところはつまり、今の幼馴染という関係が一番、彼女にとっては気楽で落ち着くということなわけで。
そんなことを言われてしまったら、もう告白なんてできるわけがない。
もし僕が彼女に告白をすれば、関係性が壊れてしまう。
それならばもう、この気持ちは心の奥にしまっておくべきなんだと思った。
……思ったのだけれど――
高校生になった、ある日のことだった。
僕はドキドキしながら別のクラスで気軽に会いに行けない幼馴染への連絡手段として『今日の帰りにちょっと公園寄ってもいい?』とメールを送る。
大丈夫かな……と不安になるけれど、すぐに既読がついて『告白で呼び出されてるけど行かないつもりだからいいよ』と返信が来た。
『それは行ってあげた方がいいと思うんだけど』と返信したけれど『めんどくさい、どうせ相手と面識ないし。なんで話したこともないのに付き合えると思うんだろ』と返信が来る。
僕はそれを見て苦笑しつつ、今告白の愚痴を言われるのは少し気まずいなと思った。
何故なら、これから僕も彼女に告白をする予定で誘っていたから。
……もちろん、告白すれば、関係性が壊れるのはわかっている。
前はそれで告白をしない方がいいと思っていた。
けれど、それでもこの頃は、やっぱりこの気持ちを伝えない訳にはいかないと、思い始めていたのだ。
自分だって他の周りの男と同じように幼馴染のことが好きで、それなのにその気持ちを隠して、自分だけが性別の垣根を越えた親しい友人かのようにしているのは、誠実じゃないんじゃないかと考えた。
だから僕はここで気持ちを伝えて、玉砕する。
幼馴染との関係が壊れることがずっと怖かったけれど、そんなことよりも今は、彼女に嘘をついている方がよっぽど嫌だ。
そんなふうなことを考えて、僕は放課後に幼馴染と学校近くの公園で落ち合った。
「でさ、何の用?なんか大事な話でもするの?」
彼女は早々にそんなことを言って既に何かを察しているみたいに僕をジロリと見る。
「ああ、うん……。そう。伝えたいことがあってさ」
僕がそう答えると、彼女は「ふぅん。そう。早く済ませてね」と言った。
多分、今から告白することがバレているのだろうなと思った。
何十回、下手したら何百回と告白を経験したであろうから、雰囲気は感じ取れるのだろう。
しかし、バレているからといって、怖気付いてはいけない。
元々、玉砕覚悟の告白なのだから。
僕は大きく息を吸って、それから告白の言葉を口にした。
「……あの、僕、昔からずっと××のことが好きで!もし良かったら僕と付き合ってほしい……です!」
彼女に失望されてしまうだろうか。
けれど、いつまでも隠しているよりきっと良かった。
これで潔くフラれて終わろう。
と、思ったのだが――
「そっか。いいよ、付き合っても。別に今までと変わんないでしょ?」
幼馴染が軽いノリでそう返してきて、僕は思わず「え?」と困惑の声を上げてしまう。
どうしてOKなんだ……?どうして付き合えるんだ……?彼女が僕のことを好きだったなんて、そんなこと有り得るのか……?
なんて、そんなことを考えてしまうほどには戸惑っていたけれど、それから続けて彼女は「別に付き合わなくてもいいんだけどさ、男避けにもちょうどいいからね」なんて言ってくる。
そうしてそのまま「で、これで話終わり?じゃあさ、帰ったらゲームしよ。昨日負け続けだったからさぁ、結構ムカついてんだよね~」なんて言って歩き出して。
なんだか僕は呆然としてしまって、結局流れるままに彼女と一緒に帰宅してしまった。
しかし、その日の夜になると、ようやく考えがまとまってくる。
とりあえず、僕は幼馴染と付き合うことになった……らしい。
けれど幼馴染にとっては、僕が好きとかではなくて、僕が男避けとしてちょうど良いから付き合うだけ。
……それってあまり良くない関係になってしまっているんじゃ……。
と、そんなことを少し思ったけれど、よくよく考えみれば、彼女は恋愛なんかに興味は無いわけで、今後一生恋愛をするつもりなど無い。
そんな中で、僕は信用されていて男避けになると頼られて、別に元の幼馴染としての関係は拗れることなくそのままで……。
形式上が恋人になっただけで、本質が友愛であることに変わりはないわけだけれど、少なくとも壊れるのも覚悟の上だった関係性はそのままだ。
僕に異性として好かれていると知って、何か思うところが無いのかは気になるところだけれど、とりあえず知ってなお、これまでと同じようなままの関係を許されているんだから、全然良いことなんじゃないか?
僕はそう思うことにしたのだった。
けれど、それから次の日のこと。
「早く私たちが付き合ったことを言いふらさないとね。そしたら面倒くさい告白とか他の女子のやっかみからもおさらばだよ」と、どこかご機嫌の幼馴染と、僕は少しドキドキしながら学校に登校する。
幼馴染に恋人ができた、しかもその相手が僕だなんて、知れ渡ってしまったらどうなるのだろう?
そう考えて少し怖く思っていると、朝にはもう幼馴染自身が僕と付き合うことになったと周囲に言いふらしていたのか、昼休み頃になって男女問わず人が僕の所へ押し寄せてきて、本当かどうかと詰め寄られたし、羨ましいとか、なんでお前なんかと、なんて言われてしまったりもした。
そんなこんなで、規模が予想以上でかなり疲弊してしまったわけだけれど、それはそれとして、ここまで一気に僕に関心が向くということは、今まではこの関心が幼馴染にも向いていたというわけで、これに耐えてすまし顔で生活していたのかと思えば、僕だって耐えなきゃと思ったし、男避けとしての役割を果たさなければいけないと思って、なんとか乗り切った。
それで、今日のところは足早に帰ってしまおうと思ったのだけれど、下校する前に、不意にある女子に呼び止められてしまう。
その子は部活でそれなりに仲の良かった後輩ちゃんで「あの……少しだけ話があるので来てもらっていいですか」と言って、僕を空き教室に呼んできた。
彼女もか……と僕は思う。
幼馴染は男女問わず人気者だし、さっきまでも、散々女子から恨み節を言われた。
きっと彼女からも、別れろ、とかそういう言葉を言われそうな気がするし、元々仲が良かったこともあって、僕はそれで少し悲しくなってしまう。
しかも、そう思っていれば、空き教室に立ち入って早々に後輩ちゃんは「あの、○○先輩と××先輩が付き合ったって本当の話ですか?」と尋ねてきた。
僕は、やっぱりか……と思いながら「……うん、本当の話だよ」と端的に答える。
そうして、また批難の言葉を浴びせられると覚悟していたのだが。
「……そうなんですか。確か、2人は幼馴染なんですよね?……ってことは、長年恋焦がれてた相手と付き合えた……みたいなことですよね……。その、ほんとすごいと思います……。おめでとうございます」
後輩ちゃんは、悲しそうな声色ながらも、否定的な言葉を吐くわけでもなく純粋に祝福としてそんなふうに言ってくれた。
彼女の発言に、僕は正直驚いてしまって。
それと同時に、どうしてそんなことを言いに来てくれたのだろうと困惑もしてしまう。
そんなことを考えていると、彼女は続けて躊躇いがちに口を開いた。
「あ、えと、言ってきおきますけど、私は別に、先輩に悪口を言いに来たわけじゃないですからね……。ほ、本当のことならお祝いしなくちゃと思って。あの、先輩にはお世話になりましたし……」
そこまで言われると、こんなにもちゃんと祝福してくれる人は居なかったものだから、なんだか嬉しくなってしまって。
けれど、それと同時にここまで真面目に祝われてしまうと、まるで嘘をついてしまっているような罪悪感を覚えてしまう。
後輩ちゃんは真面目な子だし、安易に秘密を漏らすような子ではないだろう。
この子になら、明かしておいてもいいかもしれない。
そう思って僕はつい言ってしまった。
「ありがとう。……まあ、付き合ったのは本当なんだけどさ、正直、男避けとして付き合うことになっただけなんだよね。
……だから、本当に好き合っているわけじゃないんだけど……。まあでも、昔から好きだったからさ、付き合えただけでも嬉しいんだよ」
後輩ちゃんはきっとどう反応していいか困るだろうなと思いながらも、僕は言ってしまう。
ところが、僕が言った瞬間、彼女は驚いたような。
そこに嬉しさが若干混じったような声で「えっ、ほ、ほんとですか!」と訊いてきた。
そして、それから矢継ぎ早に「待ってください先輩!そんなのおかしいですよ!それって、先輩の恋心を都合よく利用してきてるってことですよね!そういうのって良くないので、別れた方がいいと思います!」などと突然言ってくる。
まあ、彼女は正義感が強いところもあるし、忠告してくれているのかなと思いつつ「いや、そうなんだけどさ……それでも良いかなって、割り切ってるんだよね」と伝えた。
けれどそれでも後輩ちゃんは食い下がってくる。
ムッとした顔で、大きく息を吸い込むと、彼女は覚悟を決めたかのようにこちらに詰め寄りながら言ってきた。
「いや、良くないですよ!そんな、愛の無い恋人関係で、先輩は幸せにはなれません!……そ、それに!私がその、こうやって先輩を呼び出したのって、先輩のこと諦めるためで!
本当は……先輩のこと、前から好きだったんです……!でも××先輩と付き合ったって聞いたから、もう無理だと思って……せめてお祝いして、それで折り合いをつけてきっぱり諦めようと思ってて……!
……だけど!そういうことなら、先輩!私と付き合いませんか!?私の方が、先輩のことを幸せな気持ちにできます!私と付き合ってください!」
――何故か、唐突に僕は告白されてしまう。
気がつけば、彼女はもう半歩も近づけば密着してしまうのではというくらいの距離にいて、僕を見つめてきていて。
まさかの展開に、彼女が僕のことを好いていた事実への驚きのみならず、他にも多くの感情が襲ってきて、混乱してしまった。
後輩ちゃんの気持ちは嬉しいけれど、僕は幼馴染のことが好きで、例え異性として好かれていないとしても、幼馴染としての関係が続けばそれでいいと思っていて――
けれど、確かに後輩ちゃんの言う通り恋心を利用されていると言われればあながち間違いでも無いかもしれないし、後輩ちゃんは真面目で良い子で正義感で言ってくれているのも伝わるし――
でも僕は幼馴染のことが好きで――
そんな思考の堂々巡りをしていると、後輩ちゃんは今まで心配そうな顔をしていたけれど、そこからにこりと笑って僕の手を取ってきた。
「い、今は自分の感情が追いついてなくてもいいんです!後から、私のこと好きにさせますから!だ、だから付き合いましょう!いいですよね!?ね!」
そう言われてしまうと、彼女の言っていることが正しいように思えてきて、信じた方が良いように思えてきて――
けれど、そこでふと『……いや、幼馴染と別れるのまでは理解できるとして、なんで後輩ちゃんと付き合うことになるんだ……?』という気持ちが頭によぎる。
――その瞬間だった。
ガラガラッと空き教室の扉が開く音がして、1人の女の子が中へ入ってくる。
「あのさぁ、遅いよ。校門でずっと待ってたんだけど」
そう言ってきたのは、幼馴染だった。
スタスタとこちらへ歩み寄ってくると、僕が後輩に手を取られているのを見て、それからパシッと強引に僕の手を取って後輩ちゃんと引き離すようにしてくる。
あまりに急だったので、僕は思わず「えっ、な、なんで」と声を漏らした。
そうすると、幼馴染はなんだか若干不機嫌そうな声で「はぁ?……いや、彼氏彼女になったんだからさ、帰りも一緒に帰るでしょ?ってか、前もそうだったじゃん。なんで連絡も無しに無断で他の女と会ってんの?」と返してくる。
けれどそれにしたって、そこまで怒ることだろうか……と僕は困惑してしまった。
本当の彼氏彼女でもないのに……。
そう思って「いや、前までは遅れたら勝手に一人で帰ってたじゃん……。今日もそうすれば――」と言い返そうとする。
けれどそうすると幼馴染は明確に怒ったような口調で声を荒らげた。
「浮気しようとしたくせになんでそんなことが言えるわけ?」
浮気って別に……まだ決まったわけじゃないし、本気で付き合ってるわけじゃないのにそんなに怒ることなのか……?なんて僕は困惑してしまって。
そうすると、背後にいた後輩ちゃんが「う、浮気ってなんですか!私は全部聞いたんですよ!○○先輩の恋心を利用して男避けとして使ってるんですよね!
その方が良くないですし、なんで浮気なんかをあなたが気にする必要があるんですか!」なんて叫んだ。
空気が一気にヒリつく。
どうしてこんなに修羅場みたいなことに……。
わけがわからなくて混乱していると、と思っていると、幼馴染が突然ぎゅうっと僕を抱き寄せてきて、僕はバランスを崩して、咄嗟に彼女に抱きつく形になってしまった。
「あっ、ごめっ……」
そう言って、すぐに離れようとするものの、彼女の腕がぎりりと力強くこちらの腰に手を回してきていて、抜け出すことができない。
顔を上げれば、幼馴染はこれまでに見たことがないくらいの、もはや怒りを通り越した瞳で後輩ちゃんを睨んでいた。
ぽっかりとそこに穴が空いていて、じっと見ていると吸い込まれそうだと思ってしまうくらいの、そんな目で。
彼女は身体の芯から底冷えするような声を発した。
「○○になんて言われたか知らないけどさ、私は○○のこと大好きだから。ただ、普通の人たちと同じ恋愛なんて面倒くさいものはしないって決めてるだけ。
私的には付き合っても付き合わなくても元々同じようなもので、だけど付き合えば男避けになるってそういう意味で言っただけだし。
彼氏彼女なんて所詮形だけでこだわってないし、あんたも○○のこと好きで恋愛を夢見てるかもしれないけど、私の方が○○のこともっと好きだから。
私たちは恋愛とか恋人のその数段上に行ってるから。他人にとやかく言われる筋合いはないの。じゃあね」
そんなふうな長い台詞を一息のうちに、まるで誰でも知っている常識を説明するみたいに理路整然とした口調でつらつらと語った。
後輩ちゃんはといえば、案の定口を半開きにしてぽかんとしていて。
けれど、幼馴染はそんなことはお構い無しだった。
言い終わった瞬間から、すぐに僕をグイグイ引っ張って空き教室から連れ出そうとしてくる。
途中で後輩ちゃんが背後から「ち、ちょっと、まだ話は終わってないですよッ!」と叫んだのも聞こえてきたけれど、全く意に介さない様子で、彼女はただひたすら痛いくらいの力で僕を引っ張り続けてきて。
そのまま学校の外まで無言で連れ出してきたあと、彼女は怒りの表情でこちらを振り返った。
「あのさぁ、私が来なかったらあの子の誘い絶対乗ってたよね?」
腕組みをして眉を釣り上げ、冷たい声で尋ねてくる。
いや……別に、そんなことはなかった……はず。
……というか実際、彼女だって僕が後輩ちゃんに手を取られているところを見ただけだろうし、僕が乗り気な発言をしたわけでもない。
「え……?いや、そんなつもりなかったって……」
僕は言い淀みそうになるのを堪えながら答えた。
けれどそれでも幼馴染は怒りの形相を崩さない。
「嘘、絶対に流されてたから。おかしいよね?私は○○のことを一途に想い続けてきてさ、どんな告白だって断ってきたんだよ?それなのに○○はたった一回他の女に告白されただけで、気持ちなびいちゃうような軽い気持ちだったんだね。……絶対許さないから」
ブチギレられながら、さらりとそんな重要な情報を流されて、もはや頭がパンクしそうになって。
突然に誰の告白にもなびかない高嶺の花だったはずの幼馴染にとんでもない愛をぶつけられて驚いて混乱してしまうが、考えを整理する間もなく彼女はまた不機嫌そうな顔で僕の腕を力強く掴んでくる。
「とりあえず、私はこんなにも○○のことが好きなのに全然気づいてなかったみたいだから、わからせてあげる。帰る途中でゴム買おうか。あと、帰ったら爪切ってすぐに私の部屋来てね。絶対だから」
腕を引っ張られ、耳元に顔を近づけられると、ドスの利いた声で凄まれて。
告白をフリまくっていたから自分も全然好かれていないかと思っていたら、実は全部自分のためで幼馴染からの十数年分の想いをぶつけられることになっちゃう話




