おにぎり屋ふくふく|帰れなかった場所
夜のふくふく。
外は静かで、店の中も、やわらかな灯りだけが残っています。
ミケたちは、もう眠っていました。
でも――
クロは、起きています。
今日は、少しだけ落ち着かない様子でした。
窓の外を見て、ふいに、外へと出ます。
トコトコ。
夜の町を歩いていきます。
いつもより、少し遠くへ。
そして――
足を止めました。
そこは、古い路地。
人の気配も少ない、静かな場所。
クロは、じっと見つめます。
――思い出すように。
小さな箱。
冷たい風。
ひとりで丸まっていた夜。
「……にゃ」
かすかな声。
そのとき。
「クロ?」
振り返ると、ミケたちがいました。
「急にいなくなるからびっくりしたよ」
まぐろが息を切らします。
トラは、心配そう。
「ここ、こわいよ」
シロは、静かにクロを見つめていました。
クロは、少しだけ視線を落とします。
ここが――
自分がいた場所だと。
言葉はありません。
でも、空気で分かりました。
ミケは、少しだけやわらかい声で言います。
「……もう、ここじゃないでしょ」
まぐろも、うなずきます。
「帰る場所、あるじゃん」
トラは元気に。
「ふくふくがあるよ!」
シロは、そっと一歩近づきました。
「ひとりじゃないわ」
クロは、しばらく動きませんでした。
でも――
くるりと向きを変えます。
帰る方向へ。
みんなと一緒に。
ふくふくに戻ると、ふくさんが待っていました。
「おかえり」
クロは、少しだけ早足で近づきます。
ふくさんのそばに座って、
そのまま、体を寄せました。
ふくさんは、やさしくなでます。
「ちゃんと、帰ってきたねぇ」
クロは、目を閉じます。
「にゃ」
その声は、どこか安心したようでした。
もう――
帰れない場所じゃなくて、
帰る場所があるのです。




