9話目
まあ、さまざまなハプニングを乗り越え、ようやく決闘に臨んだのが、もう子の刻前。
あの後、よくよく考えれば決闘には見届け人がいるということで、椿さんを呼び、また私たちは向かいあっている。
ということで、問題。
今さらだけど、私は刀を使えるのか。
ええ、ええ。これは、昨日の夜思うべきことですよ。さっき見届け人の有無に気付いたなら、武器についても考えておくべきだったのに、私の馬鹿!
今、冷や汗で背中びっしょびしょ。
剣の持ち方は、ゴリラを真似して構えてみたけど、しっくりこない。
改めて、今の状況が真剣にやばい気がする。
でさ。なんで、ゴリラは真剣で戦おうとしてるの?
竹刀でいいじゃない!いや、ほんと今更だけど!ああ、どうりで椿さんが変な顔をしているわけだ!てかゴリラ!真剣が決闘の基本なのはお前だけだ!
ああ、でも、竹刀にしようって言いたくない!私の自尊心が許さない。
その瞬間、ゴリラがすごい速さで一歩踏み込み、刀を振り下ろす。
「っ!」
それを間一髪で避ける。そして叫ぶ。
「し、竹刀にしましょう!」
自尊心?何それ美味しいの?
ゴリラがピタリと止まる。
「…竹刀?」
そしてこちらを向き、ニヤリと笑った。
「ビビってんのか?」
「叩きのめしてやりますよ」
自尊心を捨てたい。これが私の切実な問題。
さて。真面目にどうしよう。てか、さっきから妙に汗が止まらない。
そう思っていると、椿さんが言った。
「全く、あなた達、そんなことやっている間に、今、子の刻になりましたよ」
その瞬間。
何かが変わった。
誰か別の人格が乗り移ったかのように。
まるで。
……元の私に戻ったかのような。
「…おい?」
ゴリラも異変に気づいたらしいが、今はそれどころじゃない。
この溢れる万能感。
全てを支配できるような研ぎ澄まされた感覚。
それに身を委ねたい。
ああでも、とりあえず今は。
あいつを倒して。
あの方のもとへ行かなくては。
ゆらりと体が動く。
構えていた刀を鞘に直す。
「…戦わない…ってわけでもなさそうだな」
私の溢れ出る殺気に気付いたのか、目の色が変わる篝火龍。
「ようやく本性を現したか。刀が使えないんじゃないかって騙されるところだったぜ」
ペロリと唇を湿らし、歯を剥き出して笑う。
…早く倒さないと。
早く、あの方のもとへ。
全てを早く。
………思い出さないと。
何故か少し泣きそうになった。




