8話目
「…ということで、決闘することになりましたので、刀を貸してください。九条さんには内緒でお願いします」
次の日の夜、私は渋面で椿さんにお願いしていた。結局、あの後深く眠ってしまって起きたのも夕方だったのだ。その頃には頭が痛いのもすっかりおさまっていて、体調も良くなっていたが、念のため布団で休んでいた。用事も夜遅くであるため、布団でゆっくりできたのはよかった。もしや、ゴリラはそこまで考えて夜遅くを指定してくれたのか……いや、多分九条さんに怒られたくなかっただけだな。私のためにそんなことしてくれるとは思えないし。
椿さんは下を向いて肩を振るわせて、私の話を聞いていたが、
ふと、顔を上げていった。
「刀を貸すのはいいんですが、決闘って亥の刻なんですよね」
「ん?はい、そうですよ」
「今、亥の刻すぎてますけど、大丈夫ですか」
ぎゅるんと首を回して、時計を見ると、亥の刻は過ぎ去っていた。
げげっ!約束しておいて遅刻とかゴリラのこと舐めくさってるって言ってるも同然じゃん!
…あれ。その通りじゃない?じゃなくてっ!
急いで椿さんから刀を貸してもらい、腰にさす。
「刀ありがとうございます!行ってきます!」
「はーい、いってらっしゃい」
あ、これ、新婚の家庭みたい!
あ、私、決闘する広場の場所知らない!
「遅れました!」
そう叫んだ私は、近くにいた隊士に場所を聞き、更に時間をかけてゴリラのところに行っていた。外に出るとよくわかるが、私のいた場所と、ゴリラのいる場所は壁で区切られていて、扉を潜って行かなければならなかった。揆央組の屋敷の広さは未だ未知数だ。てか、ほんとに屋敷なのか?
「遅れました、じゃねえよ!」
ゴリラは、どうみても怒り心頭だった。
そりゃ、時間から大幅にすぎてるしね。
「すいやせんしたっ」
こういう時にはさっさと頭を下げるに限る。流石に私が悪いと思うし。
はあ、息を吐いたゴリラは、腕組をといた。
…思ったより優しい?
そしてそのまま、近づいてきて…
「え?」
おもむろに頭に手を伸ばしてきた。
「いやあ、襲われる〜!…痛い痛い痛い痛いっ!」
悲鳴をあげた瞬間、こめかみをぐりぐりとされた。
…こいつ全然許してない!
「おまえ全然反省してないじゃねえか!」
失礼だな!痛い痛い痛い痛いっ。
ようやく解放され、互いに向かい合う。
ビュウっと一陣の風が吹き、真剣な空気に切り替わり、
「……………あ」
私が急に声を上げたせいで、その空気は霧散した。
「っ、なんだよ!」
「…いや、その」
ん〜、言いたくないなあ〜。でもな。
「その〜、昨日、あの〜」
目を逸らし、ぐちぐち言っていると、何かに気付いたのか、ゴリラは急に意地悪な顔でニヤニヤし始めた。
「昨日?なんだ?」
っ、ムカつくっ。
「……ぅぅぅ。あ」
「あ?」
わざわざ耳に手を当てて聞き返すことか!
「あ、……ありがとうございました!薬!昨日!それと失礼なことばかり言ってすみませんでした!」
一気に言って、ぜえはあと息をつく。
「いえいえ。どういたしまして。謝罪も受け取っておこう」
最高に上機嫌そうに、顔をにやつかせて言ってきたゴリラ。失礼なことを言ってすみません、とか言っといてなんだけど、むかつくなあ。あー、我慢我慢。
「まあ、これからはお前にいくら無礼なことを言われようとも流してやろう。謝罪も受けたことだしな」
「…いやいや、やっぱり私は、面と向かって言えなかった誰かとは違いますからね」
「なんだとてめえこら」
さっきの決意はなんだったんだ。




