7話目
「この頭のおかしいゴリラさんは何を言っているんだ?」
「誰がゴリラだおい」
しまった口から出てたらしい。
「間違えました。それで決闘ってなんですか?こんな子供と?頭どうされました?」
「丁寧に言ったからといって失礼さが隠れるわけじゃねえからな」
あ、青筋がいよいよはっきりしてきたなあ。
ゴリラは自身を抑えるように一度深く息を吐いて言った。
「子供と言うが、そもそもお前は何歳なんだ。成人していないと言い切れるのか」
こちらを見据えてくるゴリラに言葉が返せない。見た目的に絶対成人してないとは思うけど、はっきりしたことはわからない。というか、成人してると言い張ってあれだけ酒を飲んだのに、今更子供と言うのは都合が良すぎる。
何も言えない私に気分が良くなったのか、ゴリラはニヤニヤと笑い出した。
「あんだけ、酒飲んでたんだもんな?成人してるんだよな?なあ、なんか言えよ」
にやけきった顔面を思い切り殴りたい衝動を抑えて、冷静に対処しようと私は口を開いた。
「どうでもいいですけど、なんか詰め方がおじさんみたいでキモいですね」
全然我慢できなかった。
「……はあ?」
おお。血管が切れそう。流石にこれ以上はやばいか、要求をのんで機嫌を取っておこう。
「…わかりました。その決闘お受けしましょう」
ちなみに考えはない。明日の自分に希望を託すのみ。頑張ってくれよ、明日の私!
このとき、私はあまりの頭痛と眠さで正常な判断ができていなかった。決闘を受けてしまったことをこの後激しく後悔することはまだ知らない。
しかし、私の返事に満足そうに頷いたゴリラは
「……決闘を行うのは亥の刻だ。白昼堂々決闘はジジイがうるさいからな。場所は、俺のとこの訓練所でいいか。郁とかに刀を借りろ」
顔を顰めながら言うゴリラを止めておくべきだった。せめて、昼間にしておけば何事もなかっただろうに。だけど結局この時の私は特に何も言わずに頷いた。
「そうか。それにしても、いいのか?亥の刻だぞ。お子様は寝てなくても」
揶揄うように言われた最後の言葉にムカついた私は脊髄反射で
「まあ、隊長のようにおじさんではないので、夜遅くまで起きていても次の日がキツくないんですよ、おじさんじゃないので」
ぷちり、と音がした。おお、ついに血管が切れたか。あ、でも無理やり笑顔作ってる。こわーい。
「……寝ないと身長伸びないぞ。いいのかチビのままで」
誰がチビだくそゴリラ。
「…いやあ、無駄に育ってしまった人を現在進行形で見ているせいか、伸びたいって一切思えないんで。お気遣い無用ですよ」
両者の間に漂う、ピリピリした空気。
「足を洗って待ってろクソガキ」
そう言って、ゴリラの台風は去っていった。なんか、『おぼえてろよ!』に匹敵する雑魚発言だな。『足洗って待ってろ』って。
…というか、なにしにきたんだろ、あの人。結局要件話してないし。
首をかしげていると、枕元にまるでぐっとにぎっていたかのようにぐちゃぐちゃになった袋がが見えた。
何だろうとみると、薬がころりと出てきた。
そして、ぱさりと紙も。
拾い上げてみると、書き殴ったかのような字で『悪かったな。薬飲んどけ、頭痛が楽になる』
と書かれていた。
こんな雑な字を椿さんが書くとは思えないし、ましてや九条さんでもないだろう。
…じゃあ。
「あいつしかいないよなあ」
…謝ろうと思って来てくれたのか。寝てたとき、わざわざ起こさないようにと手紙まで書いて。
「……なんでこんなに皺が多いの。ぐちゃぐちゃじゃん」
…ちょっと調子に乗りすぎたな。隊に置いてもらってる側は私なのに。
明日謝ろう、と素直に思えた私は薬を飲んですぐに寝てしまった。




