6話目
という、嫌な記憶がある。すごい、記憶を失って以来の初黒歴史誕生が速すぎる。
そして頭が痛い。ずきずきする。
どうやら、飲みすぎで倒れた私は、誰かに運ばれて元の部屋に逆戻りしていた。
「うう…頭痛い」
小さくそう呻き、頭を押さえる。色んな意味で。
「ああ、あれ絶対椿さんにもみられたよなあ。恥ずかしい。とても恥ずかしい。他の隊員の皆さんにも、九条さんにも…ゴリラ…はいいけど」
ぼそりと呟いて、私はもだえ苦しんだ。色んな意味で。(二回目)
そのとき、からりと障子が空き、大きな影がぬっとあらわれた。
「きゃー!変質者!」
私がそう叫ぶと、影は慌てて私の口を押さえた。本当の不審者じゃないか。
「てめえ、大声で何てことを!俺だ、篝火だ!」
知ってたよ。だから悲鳴を上げたのさ。
「ん?なんか言ったか」
なんて勘のいいゴリラだ。野生の勘ってやつだな。
「いえいえ、とんでもない」
慌てて笑みを浮かべて取り繕う。
「で、何の用?…ですか。眠いんですけど」
一応部下なら敬語を使わなきゃ。一応。
「……お前ほんとに取り繕わなくなるのが早すぎないか」
うん、私もそう思う。直属の上司にこの態度が酷いことくらいはわかる。
でも、深夜にうら若き女性の部屋に入ってきた変質者のお前には言われたくない。
「誰が変質者だ!」
何で聞こえてるんだろう。こわい、人間じゃないよこのゴリラ。
ゴリラは、額に青筋を浮かべながら、
「…どうして、お前の思っていることはいちいち癪に障るんだろうな」
「あはは。それは私が隊長を馬鹿にしてるからではないですかばーかばーか」
「あははは。そうかー」
「……」
「……」
「しまったあー!つい口に出しちゃった!」
「てめえ、ふざけてんのか!」
「あ、若干」
恨むよ私の反射神経。
「若干、じゃねえよ!」
どうして、こいつ相手だと思ったことをすぐ口に出しちゃうんだろう。もう散々宴会で醜態を晒したから取り繕っても意味がないって思ってるからかも。
でも、きっとそれは、この人に対しては我慢しなくてもいいっていう……
「舐めてるからだろうなあ」
「ぶっ殺すぞてめえ」
あ、つい言っちゃった☆てへぺろ☆
「一ミリたりともかわいくねえ」
「あ、それはきっと、可愛さが余ったからですよ」
「最初っからお前には、憎しみの感情しかねえから、安心しろ」
「自分も隊長に全面同意であります」
「……」
「……」
にらみ合う私たち。
数秒後。ゴリラはため息を吐き、
「まあ、俺も大人だからな。大人の余裕ってやつだ。こんなガキの言うことにわざわざ付き合ってる暇はねえんだよ」
「あ、逃げるんですね」
格好つけているゴリラの言葉にひょいと口を挟む。
また見つめ合う私たち。
「誰が逃げるか!」
吠えるゴリラ。
すごい、大人の余裕とやらが一瞬で消えた。もともとそんなのいなかったけど。
「…そこまでいうならしょうがねえ」
「何も言ってませんけど」
「黙ってろ!…お前、親父に推薦してもらったってことは相当腕が立つんだろ?決着をつけようじゃねえか。決闘だ!」